WONDER OBJECT by Takuto Ohta

東京藝術大学大学院 修士課程デザイン専攻第9研究室

 
 

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最近、とあるワークショップに参加した。それはアイマスクを着用し他者に牽引してもらいながら歩くというものだった。一つの感覚がもたらしている影響力と、他の感覚器官がもたらす情報の多様さにとても驚いた。足裏に伝わる少しの段差、牽引してくれる人の肩の動き、床や天井に響く足音、自分の心臓音等、意識してこなかった感覚が拡張されていく。この体験を通じ今までの自分のものづくりを振り返った時、作品の多くが視覚から得られる情報に偏っていることに気が付いた。無意識に選んできた視覚的アウトプットからの逸脱が本制作のテーマである。


部屋で目を閉じてみる。すると身の回りにある数多のモノの存在を途端に感じなくなる。記憶や経験を除いて存在を確認できるのは、肉体、身に着けている衣類、座っている椅子、床、時計の針の音、台所の換気扇、外の室外機、通行人の話し声、といった視覚を閉じた瞬間に際立った触覚もしくは聴覚によって知覚したモノだった。視覚情報が表面をひたすらに滑り広がっていくのに対し、それらは時間的奥行きや物質的奥行きを持ち、流れた水が窪みに溜まるかのように私自身が液体としてそこへ入り込んでいく感覚があった。しかしながら、空間に存在するものの未だ触覚や聴覚に触れない他のモノとの接続は果たされないままであり、その手がかりの拙さと遠さに憤りを覚えていた。そもそもモノは視覚を伴いながら存在することが前提で制作されていないだろうか。そんな疑問がふつふつと湧き上がっていた。

Wonder objectは音の持つ時間的特性と空間的特性を利用したモノである。風に吹かれ鳴る風鈴のように人間の行動や自然を利用し音を発生させる装置だ。音の反響が空間のモチベーションを知るきっかけを与え、コイルの運動がモノの内部で反復することで音のランダム性とレイヤーを生み出し、常に新しいモノとの関係性を構築させる。また2つ以上のコイルが互いに影響を与え、ふいに生まれる音の窪みはどこか心地よくも不思議な感覚を生み出す。それは視覚では到達できない奥行きに触れるきっかけとなる。私は最初にWonder objectが鳴らす音を聞いた時、ゲーム音やSF映画のシーンを反射的に想像した。結果的に音の物理的性質は似ていたものの、瞬時にその回答に辿りついてしまった自分に辟易とした。音を聞いているにも関わらず他の解釈の余地を無視して、自分の中にある視覚的情報の反射的な類推解釈に容易に安心してしまったからである。まだ私の想像力は視覚的なイメージと固く紐づいてしまっている。しかしながら、想像力にとって視覚情報は十分条件であっても必要条件にはなり得ないことを理解しなければならない。

今後、あらゆる知覚が入れ替わり立ち替わり想像力の軸となり構築される思考法が必要になる。それは既存の想像を用いたあらゆるメディアの再構築を余儀なくさせるだろう。このテキストは私にとっての自戒であり、次なる想像力への足がかりでもある。

words: Takuto Ohta

 

CREDIT

作品名:WONDER OBJECT

氏名 :太田 琢人

https://www.deco-designcomplex.com/

学校名: 東京藝術大学大学院 修士課程デザイン専攻 第9研究室

卒業年:2022

応募カテゴリー:家具デザイン

 

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