Interview with KODAI IWAMOTO

 
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いつも必要最低限の素材や構造で、最大限使えるものをつくりたいと考えている

— Kodai Iwamoto

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photography : Yoshikazu Shiraki, Tomohiko Ogihara

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 
 

スイスのECAL(ローザンヌ美術大学)で学んだ後、東京を拠点にプロダクトデザイナーとして活躍する岩元航大さんに、2019年にレグナテックの新ブランド「dear sir/madam」から発表された家具のデザインと、自身のアートワークとして継続的に取り組んでいる「PVC HANDBLOWING PROJECT」について話を聞いた。

 
 

— まず、「dear sir/madam」のコンセプトと岩元さんの役割について教えてください。 

「dear sir/madam」は、オンライン販売に特化した、フラットパックでき、セルフビルドできる家具のコレクションです。具体的なコンセプトが定まる前からプロジェクトに加わり、現在、ディレクター兼プロダクトデザイナーという立場で携わっています。当初、レグナテックの方と何か新しい取り組みを始めようと話し合う中で、オンラインで販売できる家具が欲しいという意見があり、そこから一緒にコンセプトをつくり上げていきました。ターゲットは、頻繁に引っ越しするような、都市に暮らす人をイメージしています。引っ越し時に家具を新調する人は多いと思うのですが、新居に持っていきやすい家具があれば、消費し続けるスパイラルに陥らなくてよいのではないか、と考えました。現在、同コレクションから展開するすべての家具は積層合板からできており、六角レンチ一本で組み立てと解体が容易にできるようになっています。 

 
マットブラックの質感にこだわったという「SANKAKU CHAIR」。このコレクションの家具はすべて六角レンチ一本で簡単に組み立てと解体ができる。photography: Yoshikazu Shiraki

マットブラックの質感にこだわったという「SANKAKU CHAIR」。このコレクションの家具はすべて六角レンチ一本で簡単に組み立てと解体ができる。photography: Yoshikazu Shiraki

3枚の板を組み合わせたシンプルな構造の「TRESTLE LEG」。天板は含まない、テーブル用の脚だけの商品。photography: Yoshikazu Shiraki

3枚の板を組み合わせたシンプルな構造の「TRESTLE LEG」。天板は含まない、テーブル用の脚だけの商品。photography: Yoshikazu Shiraki

 

— 解体して簡単に持ち運べるというコンセプトはユニークですね。背のスッとした姿が美しいSANAKU CHAIRのデザインについて聞かせてださい。 

この椅子は、規格サイズの合板から効率的に部材をとり、快適な座り心地を実現できるようにデザインしました。座り心地、無駄のない材料の取り方、構造的に安定すること、かつ、見た目にも美しいという、すべての整合性をとることに苦労しました。また、平面の素材だけで構成しているため、快適に座れる座面と背もたれのバランスや角度には特に気を使っています。そして、オンラインで販売しやすいように、宅配便の取り扱いサイズを考慮し、できる限りコンパクトにフラットパックできるようパッケージを含めてデザインしました。 

— 材料の取り方から、最終製品の形までコントロールするというのは大変なことですね。ミニマムなデザインのテーブル用の脚「TRESTLE LEG」にも惹かれました。

 これは、3枚の板を斜めに彫り込んだ溝部分に板を差し込んで固定する、とてもシンプルな構造の製品です。上に重量がある天板を載せた時に、接合部にできるすき間ができるだけ目立たないように配慮しました。また、このコレクションの椅子などすべてのプロダクトを合板だけでつくるにあたり、ビス留めや金物などいくつかの接合方法を検討しましたが、六角レンチだけで容易に組み立てと解体ができるパーツを採用しました。素材は、タモの突き板を張ったラワンの積層合板です。濃い色を塗装した時にも木目が現れるようにしたかったので、黒で仕上げた時に理想的なマットブラックの質感が得られるタモ突き板を選びました。

 
レザーベルトで固定する構造の「SUSPENDER SHELF」。写真は二つのシェルフを積み重ねて固定した様子。photography: Yoshikazu Shiraki

レザーベルトで固定する構造の「SUSPENDER SHELF」。写真は二つのシェルフを積み重ねて固定した様子。photography: Yoshikazu Shiraki

 

 — コレクション全体のデザインで意識したことはありますか。 

「dear sir/madam」ではベーシックなものを提供するので、使い方はお客さんに委ねよう、という考え方をしています。例えば椅子であれば、クッションを置きたい方もいるでしょうし、自由にアレンジして使ってもらいたいですね。このコレクションに限らず、僕はいつもデザインをする時に、必要最低限の素材や構造で、最大限使えるものをつくりたいと考えており、これらの家具デザインの根底には同じ考え方があります。

また、ミニマルであることに加え、「dear sir/madam」では、彫刻的なフォルムを意識してデザインを進めました。SANKAKU CHAIRや、レザーベルトで固定する構造のSUSPENDER SHELFはお気に入りです。 

 
 
CIBONEのポップアップイベントとして展示された「PVC HANDBLOWING PROJECT」。photography: Tomohiko Ogihara

CIBONEのポップアップイベントとして展示された「PVC HANDBLOWING PROJECT」。photography: Tomohiko Ogihara

 
 

— 続いて、2018年から継続的に発表している、塩化ビニル管を用いたアートワーク「PVC HANDBLOWING PROJECT」のコンセプトを聞かせてください。 

このプロジェクトに取り組んだ背景には、時代とともに、簡単に価値観が変わってしまうことへの疑問がありました。例えば、いま博物館に飾られているものは、1000年前の人にとってはただの生活の道具で、将来、博物館に展示されることなど考えもしなかったでしょう。人間の見方次第で、価値観は簡単に変わってしまうものなのだと思います。そこに、なにか人間の“浅はかさ”のようなものを感じ、価値がないと思われているモノの価値を高める方法はあるのだろうか、ということを考えていました。

一方、プロダクトデザイナーにとって、塩ビ管は身近な素材で、金属のパイプの代用として試作づくりによく使うのですが、かつて塩ビ管でモックアップをつくっているときに、曲げるだけでなく、膨張させることもできるのではないかと思ったことがありました。価値観に対する心の中のわだかまりと、塩ビ管というどこにでもある工業製品がリンクし、この「PVC HANDBLOWING PROJECT」に結びつきました。 

 
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「PVC HANDBLOWING PROJECT」の作品と制作に使う型。型に入れた作品は、リブ状の模様ができる。これらは、2018年4月のミラノデザインウィークで最初に発表された。(写真提供/Kodai Iwamoto)

「PVC HANDBLOWING PROJECT」の作品と制作に使う型。型に入れた作品は、リブ状の模様ができる。これらは、2018年4月のミラノデザインウィークで最初に発表された。(写真提供/Kodai Iwamoto)

 

— なるほど。すべてご自身で制作していると聞きましたが、実際にはどんなつくり方をしているのですか。

 塩ビ管を赤外線ヒーターで上下から加熱して柔らかくし、一方から空気を入れて制作しています。当初は、口で吹いていたのですが、最近は空気入れのチューブを取り付けて膨らませたりしています。実は、赤外線ヒーターを使うまでには、かなりの試行錯誤がありました。初期は石油ストーブを使い、均等に温まるように手で回転させながら温めていましたが、夏場はとにかく暑くて(笑)。現在の方法にしてからは、かなり効率的になりましたが、均一に加熱しないと膨らみが偏ってしまうので、加熱と空気を入れるタイミングは、現在も調整しつつ制作しているところです。

 — 使っている素材は現代の大量生産される素材ですが、そうした経験則から手でつくるというのは、とてもクラフト的ですね。いま、形のバリエーションは何種類あるのでしょうか。

 型を使うものを含め、全部で3種類あります。現在、表面にリブ状の凹凸があるタイプの新作を試作しているところです。

 — それは楽しみです。最後に、これまでの反響などを教えてください。

 幾度かメディアに取り上げてもらう機会があり、日本だけでなく、さまざまな地域の人に面白がってもらっています。実際に手に取った方からは、軽くて驚いたと言われますね。また、海外の美術館主催の企画展などに呼ばれることが増え、単独展ではありませんが、イタリア、イギリス、オランダなどで巡回展示されました。また、2020年8月29日〜9月13日の会期でCIBONE(東京・神宮前)のポップアップイベントとして展示を行い、会期中の週末にはお客さんの前で制作のデモンストレーションをする予定なので、制作用の器具を準備しているところです。

 
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取材後に届いた、2020年8月末に始まった「CIBONE」でのポップアップイベントの様子。赤外線ヒーターを備え付けたオリジナルの作業台で柔らかくなるまで加熱した後に、空気を吹き込んで成形する。 photography: Tomohiko Ogihara

取材後に届いた、2020年8月末に始まった「CIBONE」でのポップアップイベントの様子。赤外線ヒーターを備え付けたオリジナルの作業台で柔らかくなるまで加熱した後に、空気を吹き込んで成形する。 photography: Tomohiko Ogihara


人間が定める価値観に対する違和感から生まれたアートや、コンセプトづくりから携わり、現代のライフスタイルに最適化しようとする岩元のプロダクトデザインからは、既存の方法にとらわれず、自らの手でものを生み出していくことを厭わないデザイナーの強い意思を感じる。

(文中敬称略)

 
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KODAI IWAMOTO

岩元航大 / 鹿児島県生まれ。2009年神戸芸術工科大学プロダクトデザイン学科入学後、デザインプロジェクト「Design Soil」に在籍し、イタリアのミラノ・サローネやフィンランドのハビターレ等、海外の展示会に多数参加。2016年にスイスのEcole cantonale d’art de Lausanne(ECAL)の Master in Product Designを卒業後、現在は東京を拠点に、精力的に活動を行っている。

https://www.kohdaiiwamoto.com

 

 

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