池田励一率いるREIICHI IKEDA DESIGNによる「玉造の住居 / HOUSE IN TAMATSUKURI」 — IDREIT®

大阪を拠点とするREIICHI IKEDA DESIGNの池田励一がリノベーションのデザインを自ら手掛けた大阪市内の自邸。角地に立つ鉄骨3階建て住宅の内外装を一新したプロジェクトだ。

「住宅のデザインは、不特定多数のためにつくる店舗とは異なり、住み手の暮らし方に沿った、機能に従うデザインが優先されるように普段から感じています。今回は、躯体をいじらない制約の中で、かつて住んでいた人のライフスタイルに歩幅を合わせるような感覚を持ちながらデザインを進めていきました」と池田は計画当初を振り返る。

16坪の敷地に、廊下を設けずに部屋を積み重ねた「鉄骨3階建て + 屋上」という4層の既存建築を活用するために、各階の境界を壁のように捉え、“階層を縦に仕切る”という考え方がデザインの起点になったという。玄関とワークスペースのある1階から2階に上がると、廊下ではなくリビングダイニングを通過して寝室のある3階に上がるレイアウト。部屋同士を壁ではなく、縦に仕切るコンセプトに加え、階層を適切に“繋げる”ことも大切なポイントになった。屋外から1階室内へと続く土間のモルタル仕上げを2階の床の一部にまで連続させ、1、2階の天井はともにデッキプレートを表したスケルトンとすることで低層部には共通した印象をつくり出している。また、2階リビングのチェリー材フローリングと3階のカーペットは素材を変えながら、色は同色で揃えた。「3階にカーペットを敷いたのは、例えば旅行中のホテルで、客室に着いてカーペットを踏んだ時にホッとするように、触覚でも1、2階とは異なるプライベートな感覚を与えるようにしたかったからです。素材を変えることで、別の部屋に入った感覚をより明確にし、それぞれの階層で意識が切り替わるデザインを試みています」。

また、もとの建物では開口部が必要以上に多く、断熱性を考慮して不要な窓は塞がれた。「北向きの窓からの優しい光が好きなので」という池田は、リビングダイニングでは既存の出窓を外し、そこにフルハイトの複層はめ殺し窓を設けることで、断熱性能に配慮しながらやわらかい光を室内に取り込んでいる。

キッチン側から見たリビングエリア。右手の壁に掛かるのは、台湾の作家范揚宗（Fan Yang-tsung）によるアート

外壁は、断熱材一体型のガルバリウム鋼板を採用。1階コーナーの開口部には、一般的な面格子の代わりに、エキスパンドメタルを加工したオリジナルのカバーリングを設置した。また、同様の曲げ加工したエキスパンドメタルは、室内の配管を隠すダクトレールにも用いられている。そうしたユニークな意匠に加え、インテリアでは断熱材なしで壁から突き出した鉄骨や、取り付け部分を露出させたオリジナルのブラケット照明、そして、ごく薄いクリア仕上げとしたラワン合板の収納など、ラフなディテールが随所に見られる。

残す部分と手を加えて生かす部分に対するきめ細い操作と、池田が厳選したアートワーク、そこに加えられた、ちょっとした遊び心のあるデザインが、既存部のマスプロダクションの気配を打ち消し、改修でしか生まれない独自のトーンをつくり出している。