Musashino Art University ZERO SPACE by Igarashi Design Studio

Recreational space | Tokyo, Japan

Musashino Art University ZERO SPACE | Igarashi Design Studio | photography : Nacasa & Partners

Musashino Art University ZERO SPACE | Igarashi Design Studio | photography : Nacasa & Partners

 

DESIGN NOTE

  • 学生の利用シーンを検証したヒューマンセンターデザイン

  • 石ころを模した、機能性を考慮したベンチ

  • 落ち着いたカラースキームと高性能ダウンライトを用いた照明計画

EN

photography : Nacasa & Partners

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 
 

武蔵野美術大学内に計画された多目的スペースのデザイン。従来、パソコンや書棚が並ぶ進路情報スペースとして使われていた場所を、学生の休憩、グループワークや展示などに使うことのできる多用途のスペースへと改修したものだ。

デザインを手掛けた、同大学・空間演出デザイン学科教授の五十嵐久枝さんは、計画当初をこう振り返る。

「この場所は二面に大きなガラス開口部があり、緑の見えるよい環境でしたが、約20年の時を経て利用者が減り、通路のような使われ方をしていました。そこで、このスペースを有効活用するために学内にワーキングチームが結成され、利用者である学生へのリサーチを経て、美大にふさわしい創造的な“居場所”をつくる方針となりました」

改修前に、東西と南北の出入り口を結ぶ十字形の通路のように使われる現況を観察した五十嵐さんは「休憩する場をつくるにあたり、少しでも歩行スピードを緩められないかと考えている時に、川の流れの中で、小石の陰に身を潜める魚のイメージがひらめきました。なにか安心できる物のまわりで休むように、人の居場所となる石ころを中央に集合させることで、人の流れをコントロールできるのでは、と考えたのです」と当初のアイデアを語る。

「川の流れと石のイメージから、私が河原で拾ってきた小石の形状をトレースしたものを含め、座って一休みするものから、上で寝転がることができるものまで、石ころを模した大小さまざまなベンチをデザインし、スペースの中央に置くことで、多様な領域をつくることを意図しました」。

ベンチにはウレタン素材を用い、わずかに柔らかさを感じる座り心地を実現。積み重ねて使うことも考慮し、上下をフラットにした大小8種類のベンチとワーキングテーブルが用意された。

表面塗装は、そのマテリアルでは従来できなかった全ツヤ消しのマットな質感とし、色味がわずかに異なる6種類のグレーで仕上げられている。また、椅子のデザインに精通した五十嵐さんらしく、快適性と汚れ防止のために座った時に踵が当たらないような配慮や、膝上でラップトップが使いやすい高さの検討など、ナチュラルに見せながらも緻密なデザインがなされている。

また、天井の白いサークル状の意匠については、「ただの通路となっていた中央部を、利用者がくつろぐことのできる居場所とするにはベンチを置くだけではなく、何かで領域をつくる必要があると考えました。パーティションを立てれば明確に仕切ることはできますが、物理的に仕切らなくても、人はエリアを感じ取ることができるし、そうすることがこの場には相応しいと考え、天井にドーナツ状の白いサークルを配し、そのサークル内に石ころを集めることで、中央が休憩エリアであることを利用者に伝えるデザインとしました」。

その狙いは的中し、学生たちは休憩エリアの範囲を察知し、通り抜ける際には石ころの周りを迂回するようになったという。

また、この空間を語る上でもう一つ大きなポイントとなっているのが照明計画だ。

「空間デザインを学ぶ学生には、光と空間の関係を探るために高品質の機能照明を体験して欲しいと考え、筐体の奥に光源が配置された最新の照明器具をブラックアウトした天井に設置しました。時間帯に合わせた演出モードを設定し、自然光が差し込む朝には、まるで朝日を浴びるような強い光で空間全体を照らし、夕方になるに連れて、光を中央に集約する制御をしています」。夕方以降は、1日の終わりを告げる濃淡のある光が、昼間とは全く別のシーンを見せる。

取材の最後に、こうした既存施設に対するデザインの難しさを尋ねると、

「すべての要素を一からつくる計画ではなく、今ある環境に対する空間デザインでは、周囲との関係性や、手に入る素材や工法などが空間の着地点を導いてくれることがある。時として、自分ひとりでは経験できないことや知り得ない世界を、インテリアデザインを通じて見ることができるし、空間づくりの過程にある偶然の出会いのようなプロセスに私はいつも惹かれ、デザインすることの面白さを感じるのです」

とのこと。実績を重ねた今も、新鮮な気持ちでインテリアデザインに向き合い続ける理由がそこにある。

 

DETAIL

石ころをモチーフにした一体成型ウレタンのベンチは複数のバリエーションがデザインされた。一番低いものは高さおよそ300mm程度、積み重ねて使えるように上下はフラットになっている。ベンチの一部モデルは、sixinchより2020年3月に発売予定とのこと。

石ころをモチーフにした一体成型ウレタンのベンチは複数のバリエーションがデザインされた。一番低いものは高さおよそ300mm程度、積み重ねて使えるように上下はフラットになっている。ベンチの一部モデルは、sixinchより2020年3月に発売予定とのこと。

柱のある中央付近にベンチを集めることと、天井の白いサークル状の意匠により、このスペースの中央が休憩スペースであることを利用者にゆるやかに伝えるデザインが企図された。その結果、学生たちは自然とベンチ付近を迂回して通り抜けるようになったという。最大のベンチは、長さ3mもあり、上で寝転ぶことができる。

柱のある中央付近にベンチを集めることと、天井の白いサークル状の意匠により、このスペースの中央が休憩スペースであることを利用者にゆるやかに伝えるデザインが企図された。その結果、学生たちは自然とベンチ付近を迂回して通り抜けるようになったという。最大のベンチは、長さ3mもあり、上で寝転ぶことができる。

幅35mほどのガラス開口部を持つスペース。既存のフローリングは表面を削り、つや消しワックスで仕上げることで落ち着いた印象としている。

幅35mほどのガラス開口部を持つスペース。既存のフローリングは表面を削り、つや消しワックスで仕上げることで落ち着いた印象としている。

照明計画は、ライティングデザイナーの山下裕子さん(Y2 ライティング デザイン)との協働により、複数の演出モードが用意された。写真は夜間の中央に光を集めたモード。平常時は天井の特注ダラウンライトのみを使用し、展示会など必要な場合のみスポットライトが点灯されるという。

照明計画は、ライティングデザイナーの山下裕子さん(Y2 ライティング デザイン)との協働により、複数の演出モードが用意された。写真は夜間の中央に光を集めたモード。平常時は天井の特注ダラウンライトのみを使用し、展示会など必要な場合のみスポットライトが点灯されるという。

 

CREDIT

名称: 武蔵野美術大学 ゼロスペース

設計: イガラシデザインスタジオ 五十嵐久枝 稲垣竜也

照明計画:Y2 ライティング デザイン 山下裕子

施工: 清水建設

所在地:東京都小平市小川町1-736 武蔵野美術大学鷹の台キャンバス9号館1階

経営: 武蔵野美術大学

竣工:2018年6月

面積:改修部分 624m2

用途: 多目的スペース

仕上げ材料:

床/既存チーク材フローリング研磨+ツヤ消しワックス仕上げ 

ベンチ(最大サイズW3000 D2000 最小サイズW1500 D1000  高さ300〜)/一体成型ウレタン+フォルムコートコーティング(sixinch) 

照明器具/フランジダウンライト特注(ModuleX) + 壁面用スポットライトMMP-060S/SH(ModuleX) + スポットライトMMP-060S/5H(ModuleX)

天井/既存AEP吹き付け塗装 天井パネル/LGS組みPBt9.5二重貼り+人造木材見切り(アートエース) AEPローラー塗装

 

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