KOKU by REIICHI IKEDA DESIGN

Workplace | Kyoto, Japan

KOKU | REIICHI IKEDA DESIGN | photography : Yoshiro Masuda

 

DESIGN NOTE

  • 自由な使い方を許容するワークスペース

  • 外部を屋内に引き込んだV字型のガラスウォール

  • 襖をモチーフにしたセミオープンな間仕切り

EN

photography : Yoshiro Masuda

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 
 

大阪を拠点とするデザイン事務所、REIICHI IKEDA DESIGNの池田励一がデザインを手掛けた、日本新薬のワークプレイス「KOKU」。京都市内にある日本新薬の本社敷地内で、食堂などのある棟の1階を全面改装して設けられた、社員が必要に応じて利用できるフレキシブルなスペースだ。創立100周年を記念するプロジェクトとして企画され、同社初となるフリーアドレス方式の執務スペースと、靴を脱いだり寝転がったりしてリラックスできる場所が求められたという。

地上から直接アクセスできる立地で自然光の入る恵まれたロケーションから、まず池田は、内外の境界を内部空間に食い込ませるデザインを提案する。「僕は、“境界をコントロールする”という考え方を常々意識していて、ここでは外と内との境界線をずらし、屋外の情報を中に入れてあげることで、室内でも外にいるかのような感覚が芽生えたら良いのではないか、と考えました。そこで、前面の通路と並行していたファサード面をV字型にすることで開口部面積を広げ、より開放的なスペースとしています」。床には、屋外の既存タイルと同じ品番のタイルを室内側にも敷き込むことで、「内外の関係性をデザインでコントロールした」(池田)という狙い通り、内外の“あいまいさ”がオープンカフェのような心地良さを生み出している。

 

既存の外壁ラインをV字型に内側に引き混んだガラスウォール。中央の円形の柱は新設したもの。室内の床には、外部と同じ品番のタイルを貼っている

日本古来の「続き間」の考え方から、襖のアウトラインを元にしたフレームを連続させた

 

境界のデザインに加え、もう一つの大切な要素が、現場でコンクリートを打設したというカフェカウンターだ。「シンボリックなカウンターを中央に置くことで、人が自然と集まり、そこを中心に回遊する動きを誘発したいと考えました」。また、開口部側のテーブルとカウンターとの間には、空間を緩やかに分ける仕切りが設けられている。「オープンなスペースが求められましたが、椅子に座って作業をするときには、広過ぎると落ち着けないので、視線は通るけれど、意識的には境界となる壁を設けようと、襖のアウトラインをトレースしたフレームを立て、奥を見通すことのできるファブリックを吊っています」。このフレーム形状は、二条城の大広間の襖からインスピレーションを得たもので、配置については日本古来の「続き間」を参照したという。個性的なフレームの色は、敷地内に立ち並ぶ社屋のレンガ色の外壁からピックアップしたものだ。

過去の仕事から、素地の色をベースにしながら時に大胆な差し色を使う印象のある池田に、色選びの考え方と尋ねると、「色選びは確かに難しいですね。基本的に、選んだ理由が明確にある場合には使いますが、意味なく色を使うのは避けたい。今回は、敷地内の建物がみなレンガ色で統一されていたので、迷いなくその赤茶色を選び、そこを基準に相性の良いカラーを合わせていきました。また、とても感覚的なことですが、普段から、視界に入る色の分量を気にしています。いったんテクスチャーを無視して空間全体をぼんやりと見た時に、その色の見え方や量が適切かどうか、というバランスを必ずチェックして微調整をしていくんです」と答えてくれた。

天井からボルト吊りした、むき出しのダウンライトにも同色が用いられた。固定式と可動式のダウンライトを二つずつセットにしてグリッド状に配した照明は、真鍮の塊から削り出したカウンター上のペンダント照明とともに、この空間をユニークさを印象付けている。

2019年のコンペでの提案時から2021年8月の竣工までには、コロナ禍での中断を経て利用方法の見直しがあったというが、リラックスのためのスペースを減らし、よりニュートラルに使えるように変更することで、現状の形に落ち着いたという。今後、変わりゆく働き方に適応する余地を残したこの空間には、「個々の領域がゆるやかにつながったワークスペースをつくる」、「出社した時に楽しみが感じられる場所とすべき」という、設計者が企図した二つのコアコンセプトが結実している。

(文中敬称略)

 

DETAIL

通常は天井内に隠蔽するダウンライトを二つセットにして天井から吊った。また、室内の鉄配管や、写真に見えるダクトレール上の配線などを精度高く施工することで、極めて整然としたスケルトン天井を実現している

現場でコンクリートを打設したカフェカウンター。背後に見える木製シェルフはビッグテーブルとテーブルと意匠を揃えている

真鍮の塊から成形したというオリジナルのペンダント照明

角形のソファはREIICHI IKEDA DESIGNによるオリジナルデザイン。カフェカウンター上のシンクは銅板、配管には真鍮を用いた

ガラス面に設置された真鍮とアクリルを用いたサイン。利用者が好きな場所で、好きなように時を“刻”んでほしいという思いから、「KOKU」という名称を池田が提案して採用されたという

 

CREDIT

名称:日本新薬株式会社  KOKU
設計:REIICHI IKEDA DESIGN 池田励一
設計協力:長弘智子
カーテン:fabricscape
アート:加納徳博
サイン:看太郎 廣田  碧
家具:inter office
特注照明:vao place
照明計画:ModuleX 
音響計画:e-spec
施工:かなざわ工務店

所在地:京都府京都市
経営: 日本新薬株式会社
用途:オフィス
竣工:2021年8月
床面積:369.8 m2

仕上げ材料

床:タイル貼り、モルタル金ゴテ押さえ
壁:AEP塗装   間仕切り/スチール組み焼き付け塗装+レース生地しわ加工
天井:AEP塗装
家具:ビッグテーブル/木製板染色貼り+メラミン化粧板 角形オリジナルソファ/ファブリック張り 二人掛け、一人掛けソファ/カリモクニュースタンダードELEPHANT SOFA特注ファブリック仕様
カフェカウンター:コンクリート打ち放し + 銅板製特注シンク
照明器具:ペンダント照明/真鍮製オリジナル

 

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