Interview with KEIJI ASHIZAWA/ Keiji Ashizawa Design —part 1
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photography : Daici Ano(SUSHI MIZUKAMI), Jonas Bjerre-Poulse(KUFUKU±)
words : Reiji Yamakura/IDREIT
EN
—「鮨 みずかみ」のデザインからは、飾らない正統派の寿司店という印象を受けました。依頼時の要望はどのようなものだったのですか。
8席のカウンターが必要で、そこでは2人の職人が寿司を握ること。また、全体の雰囲気としては、日本の伝統が感じられるようにしてほしい、という話がありました。また、夜の客単価は2万円以上という価格帯でしたので、本格的な数寄屋づくりとまではいかないまでも、カウンターなど中心となる部分にきっちり予算を掛けて、8人のお客さんが寿司に集中できる環境をつくることを目指しました。
それに加え、さほど大きくはない店舗ですが、アプローチに前室を設けることも求められました。わざわざ扉を2枚通過して店内に入るのは面倒かもしれませんが、都会の喧騒から気持ちを切り替えるにはある程度の歩数が必要で、これは必要な儀式のようなものだと思います。また、待合に人がいても、カウンター席から気になりにくい配置としました。
— アプローチはコンパクトながら、入り口側の花台や奥のディスプレイにより、より奥行きが感じられるようなデザインと感じました。ケヤキ材のベンチも個性的ですね。
そうですね、寿司カウンターのヒノキと対象的に、かなり猛々しいケヤキ材をオーナーと一緒に選びました。このような材料は扱いが難しくて、上手く使わないと街の蕎麦屋さんのような雰囲気になってしまう。また、格子を使う時も同様です。
ここでは、そうした日常的な雰囲気にはしたくなかったので、空間にピリっとした緊張感やデザイン性をもたらすような使い方を心掛けました。
— 縦のラインだけで構成されたファサードは美しいですね。格子を使う時に気をつけることはありますか。
毎回決まったルールがあるわけではないのですが、繊細に見えているか、ということをいつも原寸でチェックしています。そこに狭いゴールがあるのではなく、大切なのはプロポーションのバランスで、ここまでは良いけれど、これ以上太くしてはいけない、といった許容範囲の幅が自分の中にはあります。
— なるほど。外部では、既存のアーチをうまく活用したのですね。
はい、入り口位置を検討した際に、現状の位置が効率的に良いと判断し、アーチは残しました。また、食事に来たお客さんが気付くかは別として、内外の空間を一つの建築として成立させるために、反復するディテールがあるべきだろうと考え、室内のカウンターバックの壁にもアーチを用いています。
この敷地はマンションの1階なので、どうしてもこちらの意図しない場所に柱があったりして、普通に解いていくと一つひとつの要素がバラバラになってしまう。そこで、このアーチを使って、空間としての一体感と奥行きを持たせようと試みました。
また、細かいことですが、室内は土壁の左官仕上げなので、室内のアーチ部分ではより左官らしいやさしさを出すためにエッジを丸く仕上げています。ピリッとした直線的なカウンターと差別化したくて。
— 入り口正面の小窓にもアーチを使ったのですね。
はい。こういった小窓は、普段の建築設計ではやらないことなので、実は、形状や位置を決めるのに、かなり頭を悩ませました。音や影の動きでお客さんの存在を感じるための窓として、内側に照明を入れるかなどを検討し、最終的に光源は入れずに障子のように両面に和紙を貼ったものとしました。
設計全体を振り返ると、主にインテリアの計画でしたが、ファサードも含め、ちゃんと内外のある建築として考えていったこと。また、機能上求められた広い厨房とアプローチの要件を満たしたプランニングを早い段階でまとめることができた、という2点が大きなポイントになったように思います。
— 続いて、同じ飲食店ながら、大きく雰囲気の異なる「KUFUKU±」の計画について聞かせてください。
ここは趣があって素晴らしい建物でしたが、構造的な課題が多くありました。
昭和初期の建物を現在の基準に適合させることは困難ですし、また、今回の改修で建築が弱くなっては絶対にいけないので、構造事務所と連携し、地面を掘り返して基礎を打ったり、弱くなった柱を鉄筋で補強を施したりと手を尽くしました。補強のために「ここまでやらなければいけないのか」ということの連続で(笑)。
— その甲斐があって、レストランの一つの見せ場となっている土間がとても気持ちよさそうですね。
ここは、食事をしている風景を外から見えるようにしたい、という施主の要望を踏まえてデザインしたものです。
私たちは、一つひとつ既存建築の要素、例えば土間であれば、土間に対するするリアクションとして、墨コンクリートの黒いカウンターを新設し、その機能をサポートする吊り棚を設ける、といったように、従前の構成やディテールに対応する考え方で進めていきました。
既存の台所はあえてタイル貼りのカウンターを残し、蔵はそのままワインセラーとして活用するなど、できるだけ当時の生活の痕跡を残すデザインをしています。
照明には、イサム・ノグチがデザインしたAKARIのペンダントを、カウンター席には、デンマークのNorm Architectsが日本の家具ブランドARIAKEのためにデザインしたスツールなどを使っています。これらは、古民家が持つコンテクストを共有するものとして選びました。
建物自体はすでに幾度かの手直しを経ていたので、私たちはオリジナルの状態に戻すことに固執するのではなく、現状を受け入れた上に新たな要素を加えることで、東京ではほぼ見られない戦前の古民家をレストランとして活用する、という貴重なプロジェクトでした。
Keiji Ashizawa Designの芦沢啓治さんへのインタビュー後半はこちら