Interview with KEIJI ASHIZAWA / Keiji Ashizawa Design —part 2

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空間というのは、そうした細かい部分の積み重ねでしかない

— Keiji Ashizawa / Keiji Ashizawa Design

photography : Jonas Bjerre-Poulse(KINUTA TERRACE), Daici Ano(SUSHI MIZUKAMI)

words : Reiji Yamakura/IDREIT

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この記事はインタビュー後半です。前半の記事はこちら「Interview with KEIJI ASHIZAWA/ Keiji Ashizawa Design -part1


インタビュー後半では、海外のデザイナーや施主とのプロジェクトが多い芦沢啓治さんに、“日本らしい”デザインについて、また、細部へのこだわりなどを尋ねた。

 
芦沢啓治建築設計事務所とNorm Architectsが共同でデザインを手掛けた「KINUTA TERRACE」 photography : Jonas Bjerre-Poulse

芦沢啓治建築設計事務所とNorm Architectsが共同でデザインを手掛けた「KINUTA TERRACE」 photography : Jonas Bjerre-Poulse

 

— KINUTA TERRACEでは、デンマークのデザインスタジオNorm Architectsと協働していました。また、海外クライアントとのお仕事も多いと思いますが、“日本らしさ”ということを自ら意識することはありますか?

海外の方と仕事をすると、たしかに日本らしいデザインだねと言われることは多いし、そこで特に悪い気はしませんが、なぜそう言われるかを考えると、日本ならではの空間体験をずっとしているからだと思います。

例えば、古くからある旅館を繰り返し見ていると、なんとなくそのものの良さが体に馴染んでくる。具体的に言うと、ある種の合理性、機能、また、非常に素朴な材料の扱い方などからくる良さですね。

普段、生活する東京では、そうした感覚を得ることは少ないけれど、さまざまな場面で日本的なものに触れてきたので、そうした建築的な体験から得たインスピレーションが、自然とデザインの中に生かされているんだと思います。

— 知らずのうちに体に感覚として入っている、と。

そうですね。ここ最近、毎年京都に行って数日滞在するのですが、友人の町家に泊まったり、お寺を見て歩いたりすると、いまだに新鮮な気持ちで感動できる。ものによっては、現代ではこんなことはできない、という諦めを感じることもあるけれど、何か新しい発見や感動がある。そこで得た印象が体に残っているのだと思います。

— なるほど。実際のデザインでは、日本らしさを出そう、とか、日本らしい表現をしようとすることはあるのでしょうか。

自らそうしようと思うことはありません。ただ、自分が好きなものを挙げると、非常にシンプルな中に独特のエッセンスがあるものだとか、機能を十分に果たすもの、などがあります。例えば、イサム・ノグチの照明器具を見ると、「これを超えるものはなかなかできない」と、いまだに打ちのめされる。そして、いつかはそうしたものを自分でも表現したいと思います。

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「KINUTA TERRACE」では、オーク材やスチールなど、ナチュラルで質感に配慮した素材を用いた空間に、Norm Architectsがデザインした家具を多く取り入れている photography : Jonas Bjerre-Poulse

「KINUTA TERRACE」では、オーク材やスチールなど、ナチュラルで質感に配慮した素材を用いた空間に、Norm Architectsがデザインした家具を多く取り入れている photography : Jonas Bjerre-Poulse

 

— 具体的な意匠というよりも、日本の考え方やエッセンスから刺激を受けているのかもしれませんね。海外のデザイナーとの意識の違いなどを感じることはありますか?

日本のデザインの海外からの見え方や、考え方の相違という点では、材料の扱い方や、プロダクトの射程距離のようなものが違うように思います。何か、別の尺度で彼らはものを見ている。また、余白のつくり方などに明らかな違いがあると感じます。

例えば、Norm Architectsのメンバーと話をしていると、彼らはそうした日本らしい考え方にあこがれがあると言うんですね。日本やデンマークでお互いの仕事を見せたり、現地に古くからあるものを共有しながら対話をしてきた中で、私たちと彼らとは違いもあるけれど、また一方で、共通するものや共感できる部分があるから、よいコラボレーションができているのかもしれません。

 
端正な縦のラインで構成された「鮨みずかみ」のエントランスまわり。 photography: Daici Ano

端正な縦のラインで構成された「鮨みずかみ」のエントランスまわり。 photography: Daici Ano

 

— なるほど。最後にもう一つだけ。芦沢さんのデザインにある“繊細さ”に惹かれるのですが、細部へ目の配り方や意識について教えてください。

 空間というのは、そうした細かい部分の積み重ねでしかない。大きなストーリーも大切だけれど、その大きな構成だけでは十分ではなく、ディテールが整っていなければいけないと考えています。細部がちゃんとできていることが空間にとって非常に重要だとも言えるでしょう。

例えば、グラフィックの整っていないミュージアムがもしあったら気持ち悪いでしょうし、飲食店で残念な部分があると、そこでの時間が台無しになってしまう。もし、予算内でディテールまでやりきれないことがあったとしても、その範囲内、その解像度の中で全体のリズムやトーンが整うようにコントロールすべきです。

ただ、誤解のないように言うと、やみくもに細部にこだわるのが良いわけではありません。大きな構成と小さな部分のどちらが大事という話ではなく、それぞれがきちんとリンクしている状態がデザインには大切だと私は考えています。


このインタビューの後に、あらためて芦沢啓治建築設計事務所のプロジェクトを俯瞰すると、敷地条件や規模の大小、業種の違いにかかわらず、一つひとつのデザインには理由があり、悩み、試行錯誤を経て決定された部分の積み重ねの上に、彼ららしいデザインが立ち現れてくるのだと感じた。

 
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KEIJI ASHIZAWA

芦沢啓治/1973年生まれ。横浜国立大学建築学科卒業後、設計事務所architecture WORKSHOP, 家具工房super robotを経て2005年に芦沢啓治建築設計事務所を設立。2011年、東日本大震災で甚大な被害を受けた地域に対し、DIY公共工房である石巻工房を開設、後に会社化させ、家具ブランドとして現在まで活動している。また、芦沢は国内外の建築設計、インテリアのみならずカリモク家具、無印良品やイケアなど多くの家具ブランドに対してのデザインを行っている。(photo by Mario Depicolzuane )

https://www.keijidesign.com/

 
 

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