ubushina の生み出す、多様な日本らしさの表現
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日本全国の生産地とのネットワークを持ち、伝統技術の担い手である職人と、デザイナーをつなぐ「ubushina」というものづくりのプロジェクトがある。ubushinaの名は、産土(うぶすな)という古語の同意語で、その人が生まれた場所、という意味を持つ「産品(うぶしな)」に由来する。
同プロジェクトを2000年に立ち上げ、建築家やデザイナーが求める特注オブジェや内装材などで日本らしい独創的なデザインを具現化してきたのが、伝統技術ディレクターの立川裕大さんだ。日本の美意識という大きなテーマの中で、今回は「多様なニッポン」を表す二つのプロジェクトについて話を聞いた。
「東京スカイツリー」の常設オブジェ
デザイナー自身が伝統工芸の技を見つけることはできても、進行中の案件に納めるまでのコントロールをすることは難しい。そこで、ubushinaのスタッフが産地とデザイナーの間に入り、時に伝統技術だけでは成し得ない表現には現代の加工技術を組み合わせ、インテリアエレメントを生み出していく。そんな彼らの総合力が発揮されたのが、東京スカイツリーのエントランスにある、橋本夕紀夫デザインスタジオがデザインを手掛けた「スーパークラフトツリー」だ。
「ここでは、空間デザイナーの橋本夕紀夫さんのデザインにより、“そりむくり”や、“心柱”といった東京スカイツリーの特徴を抽象化し、工芸で表した12体のオブジェの制作をサポートしました」。ここで使われた技術は、大分県・別府の竹細工、長野県・木曽の漆、東京の和紙、簾、染小紋、組子、江戸切子、バネ、岐阜県の提灯、長崎県・波佐見の磁器、京都の飾り結びだ。日本各地に散らばる多様な技術を、ワンストップで揃えられるチームはubushinaの他には無いだろう。
苦労した点を尋ねると「この時は伝統工芸だけでなく、墨田区の町工場の技術である“バネ”を橋本夕紀夫さんの発案で取り入れたのですが、通常バネは機械内で使う部品なので、表に見せるようにはつくられていません。ですから、経験豊富な職人たちも、どんな強度でつくれば美しいバランスになるかというノウハウが無く、試作を繰り返しました。最終形ができたときには、苦労した職人のかたはとても晴れがましい顔をして、孫に見せたいとおっしゃってくれたのが嬉しい思い出ですね」と当時を振り返る。他にも、高精度で仕上げた純白の磁器を積み重ねたオブジェや、現代的な基盤の柄にチャレンジした染小紋など、どれも手間の掛かるものだったという。
東北地方の技と素材を集めたアートウォール
また、日本のものづくりの多様性を示すもう一つの事例は、乃村工藝社が設計を手掛けた「メトロポリタンホテル仙台」のアートウォールだ。
「ここでは、ローカルの素材や技術を取り入れたいという設計者からのリクエストに、手練手管を尽くし、東北エリア一帯の工芸品を見つけ出し、期待に応えることができました。私たちubushinaでは、ラフスケッチの段階からデザイナーと“連歌”のようにやりとりを重ね、生産者とデザイナー間の通訳として要望を伝えることで完成度を高めていくのです」。チェックインカウンター背面の壁には、東北地方を代表する素材がパッチワークのようにレイアウトされた。
「有名な仙台の七夕祭りの短冊をモチーフとして、玉虫塗、雄勝石、白石和紙、会津もめん、など質感の異なる仕上げを、短冊飾りが重なり合うように配置しました」。遠くからは平面的なアートに見えるが、近寄ると凹凸のある雄勝石や、クッション張りしたファブリックといった手触りの違いが見えるのが楽しい。
「このホテルを手掛けた2010年頃から、日本各地でローカリティーを表現しようという気運が一段と高まったように感じます。伝統技術は、いわば地域の授かりもの。その土地でしか手に入らない素材や、ライフスタイルと密接に結びついており、そこに真の豊かさがある。そうした各地のエッセンスを、デザイナーとの協働により洗練した形で見せることができました」と時代背景を語る。
新たな生産者との信頼関係を築く難しさを尋ねると「実績が少なかった当初は苦労がありましたが、ubushinaのものづくりでは、職人には仕上がりの質を高めることに専念してもらい、こちらは納まりや設置方法を考えるという明確な役割分担があります。また、僕たちと一緒にものづくりをしている職人の方は、皆さん好奇心がものすごく旺盛です。僕らの依頼内容は、普段の仕事に比べて時間も手間も掛かるでしょう。しかし、やったことがないからチャレンジしてみようと、より一層力を入れてくれるのです」
ubushinaは、化学反応を引き起こす触媒のように作用して、クリエイターと職人の未知なるコラボレーションを誘発しているのだ。
取材の最後に、デザイナーに伝えたいメッセージを聞くと、「僕たちはいつも、守破離の精神を大切にしています。型のある世界でよく言われる言葉ですが、型を身に付けた後は、いずれ、自分の型をつくれるようにならなければいけません。例えば、江戸時代から続く技術には400年ほどの歴史がありますが、そうした先人たちに恥じないような仕事を残したいと思っていますし、デザイナーには、皆さんのクリエイティビティーで、どう伝統を生かすか、どう進化させられるかを僕らに問いかけてほしい」と語る。
先人へ敬意を払った上で、伝統を現代のインテリアに活かすubushinaのものづくり。次回以降も、日本の美意識をテーマに事例を紹介していきたい。
words : IDREIT
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