Interview with SEIJI KUMAMOTO/ design ground 55 —part 1
2007年に自身のデザイン事務所design ground 55を設立した隈元誠司さんは、大阪を拠点に、ホテル、レストランから住空間までを幅広く手掛けている。質感のある素材を厳選し、自然にエイジングしたものと組み合わせてつくり上げた二つの蕎麦店について、設計コンセプトと、和の印象を生み出すポイントについて聞いた。
—「手打蕎麦 守破離 堂島店」では、荒々しさのある土壁の印象が鮮烈でした。ここが同店との最初のお仕事だったと思うのですが、計画当初はどのような要望があったのでしょうか。
蕎麦だけを食べる店ではなく、日本酒やアテを提供し、ゆったりしてもらえる店にしたいこと。人で常に賑わっている雰囲気にしたいが、大衆的な野暮ったい雰囲気にはせず、かといって高級感を出すのも避けたいという、なかなか難しい依頼だったことを覚えています。
店内で製粉を行う、本格的な手打蕎麦を提供する店舗でしたので、そうした姿勢にふさわしい空間が必要だと考え、既製品を極力使わず、時間が経つほどに風合いが増す本物の素材を使った、伝統技術を生かすデザインを考えていきました。客席レイアウトは、サービスのタイミングを計るため、厨房から客席が見渡せるように計画しています。また、特にお客さんの目につきやすい、壁のテクスチャーと客席の照明器具は、他店と差別化するために守破離だけのオリジナルなものにしようと力を入れた部分です。
— 凹凸のある土壁はどのように完成したのでしょうか。
ここにたどり着くまでにかなり時間が掛かりました。こだわりと高い技術を持つ左官職人に依頼し、彼らが持つオリジナルの配合をいくつもテストしながら、土と漆喰、セメントなどの割合を調整し、表面がくずれずに立体感のある仕上げを実現することができました。見えている色は、着色したものではなく、実際の土そのものの色です。
— 店内から見える苔庭も、この空間にとって大切な要素となっていますね。
はい。この店舗はオフィス街に位置するのですが、街中の店舗で苔庭というのはあまり見たことがなかったので、どうしてもここに苔庭を眺めながらくつろげる環境をつくろうと、オーナーとの話のもとにつくり込みました。目立たないように塀の笠木の裏側にスプリンクラーを等間隔で設置し、1日に何度も散水するようにしています。
— その苦労のおかげで、昼も夜も青々とした苔庭を見ながらゆったりできるのですね。また、店内中央の無垢材のカウンターは迫力がありますね。
使いやすさと見栄えを両立するために、脚無しにしたかったので、強固な下地をH鋼で組み、柱に飲み込ませるかたちで固定しています。モンキーポッド材の天板自体は、安全性を確認した上でクギ痕やカスガイ、検品のためのチョークで書かれた番号をそのまま残し、荒々しい表情のままで用いています。
全体を振り返ると、オーナー、施工会社、左官、造園の職人の方々と、互いに提案をしながら質を高めていき、こだわりを結集した空間になりました。
— 続いて、堂島店の2年後に開業した「手打蕎麦 守破離 黒門店」のデザインについて聞かせてください。依頼された時に敷地はすでに決まっていたのですか?
ここでは、敷地を探すところから同行しました。かつて畳屋兼住居だった古い建物が見つかり、建築事務所と連携して構造補強から始まった計画でした。建物の一部が傾くほど劣化が激しかったのですが、残せる部分はできるだけ残すという方針で、小屋裏に見える野地板は一度取り外して補強、清掃後に元に戻すなど、手間を惜しまず既存部を生かしたことで、新しい建物にはない空気が生まれたと思います。また、一部、交換が必要だった構造材には、この建物の年代に合うような古材を探し出して使いました。
後半に続く(文中敬称略)
design ground 55の隈元さんに、デザインで大切にしていることを聞いたインタビュー後半はこちら「Interview with SEIJI KUMAMOTO/design ground 55 —part 2」