Interview with Tadahiro Butsugan / ABOUT
photography : Takumi Ota, Yoshiro Masuda (before renovation)
words : Chisa Sato
日本を代表する焼きものの産地として知られる滋賀県・信楽。歴史あるものづくりの里に、かつて製陶所だった広大なスペースを改装したショップ&ギャラリー「NOTA_SHOP」が誕生したのは、2017年のことだ。木造の梁や柱を露わにした開放的な空間に、木の存在感のある什器がゴロンと転がり、陶芸作品やモダンなオブジェが絶妙に組み合わされる。アートインスタレーションのようなディスプレイや店の佇まいが話題を呼び、オープンから5年が経った今わざわざ都会から足を運ぶデスティネーションショップとなった。店舗をデザインしたABOUTの佛願忠洋さんに、足掛け4年にもわたる店づくりについて振り返ってもらった。
— 店づくりに関わるきっかけとなった、オーナーであり、プロダクトデザインも手掛ける加藤駿介さんとの出会いを教えてください。
2012年頃、当時はまだgrafに所属していたのですが、同世代が集まるピクニックで出会ったのが最初です。アウトドアっぽい格好の人が多かったのですが、その中で抜群にオシャレな二人が加藤さん夫妻だった。山中なのに、CARVENのシャツを着た駿介さんと、COSMIC WONDERの真っ白いシャツワンピースを着た佳世子さんは異色でした。聞けば、信楽で土をこねているという。イギリスでデザインを学び、東京でデザイナーとして働いた後、故郷の信楽に戻ってきたという経歴も面白いなと思って、すぐに意気投合しました。
— プロジェクトはどのように始まったのでしょうか。
2013年頃に「大きな建物買ったから、見に来てよ」と誘われて行ったら、鉄骨造2棟、木造1棟に離れがあって、とにかく広大な物件だった。全部で500坪はある工場でしたが、とにかくモノがいっぱいで。製陶所だった頃の窯や材料がそのまま残っていたんです。鉄骨造の建物を加藤さんのアトリエに、木造の方をショップにすることにして、まずはゴミを片付け、掃除することから始まりました。毎月1回大阪から信楽に通いながら、結局片付けに2年間掛かりましたね。
同時に、ポテンシャルも感じていたのです。信楽高原鉄道が走り、のどかな田園風景が広がるロケーション、信楽の歴史を感じる巨大な物件。何かが始まるという期待感、高揚感に突き動かされていました。
— 店の構想はどのように考えましたか。
まわりに店もないエリアなので、目的地として来てもらえるショップにしたいという話はしていました。陶磁器の産地としての信楽の現状はなかなか厳しい。窯業が衰退し、このままでは産業自体がなくなってしまうという危機感を加藤さんは抱いていました。そば屋の店先に飾られているようなタヌキの置物のイメージを払拭し、信楽のものづくりに光を当て、注目されるようにしたい、と。地域の一番星になれば、後が続くはずという加藤さんの夢に巻き込まれたというか、遊びに付き合わされちゃったというか。でも、情熱を感じられる人でないと、信楽にこんな場所をつくることはできないと思いますし、そうした思いは僕も大事にしているところです。そして、気づいたら船は出てしまっていた(笑)。
ちょうどその頃、僕自身「地方の店の可能性」に関心があったこともあります。アメリカでサードウェーブコーヒーやヒップスターカルチャーが注目されていた時代であり、SNSの隆盛で個人でも発信できるようになって、個人商店の力が見直されていました。
— 空間のデザインはどのように考えたのでしょうか。
予算もなくて、広大なので、あるものを使う、あるものを生かすというのが大前提でした。打ち合わせは、加藤さんの自宅ですることが多かったのですが、そこはただの古民家なんだけど、とにかくセンスが抜群で。大枠だけ決めれば後は彼らならうまく使いこなせるだろうと感じていました。
ショップにした木造の大空間は、天井を剥がすと立派なトラス組みが現れましたが、損傷が激しく、補強が必要でした。そこで、中央部に直径60mmのスチール柱を密度高く入れて補強し、中央にホワイトキューブのギャラリーを挿入しました。中央の壁で空間を分けたのは、午前と午後で光の入り方が全く違い、空間の印象が変わるので、その移り変わりを際立たせる意図もありました。また、ショップとは別に企画展を行う予定があったので、ホワイトキューブの中を企画展、両サイドをショップと使い分けるレイアウトにしています。
全体としては、とにかく大空間のスケールアウトした感覚をそのまま体験してもらえるよう、力強さや生命力を意識しました。ディスプレイ台に使った、存在感のあるケヤキの柱材や、7mもあるウェンジの無垢板は僕の個人的なコレクションを提供したもの。工場に残っていたパレットや焼き物に使う道具も転用して、ディスプレイに使っています。床は研ぎ出し。加藤さんの自宅で、床にものを置いてスタイリングしているのを見て、すっきりした床があれば映えるだろうと思った。壁や扱う器は土でできているので、床は石を素材に使い、質感の変化をつけたかったこともあります。
— レンガの階段があるスペースは何ですか
ショップに隣接する、この鉄骨造の建物は、NOTA&designのアトリエとして使われている場所で、階段の穴の空いたレンガはエクステリア用の素材です。外部を内部に取り込む意図がありました。階段まわりの図面は僕が書いていますが、壁は加藤さんたちが自ら白くペイントしています。
— NOTA _SHOPはかなりの大空間ですが、床の研ぎ出しや外壁の細かいピッチの板貼りなど、細やかな手仕事も感じられます。
手間の掛かる細かなディテールがあることで、大空間のスケールとのコントラストが生まれると考えました。外壁は40mm弱の胴縁材を3mmほどの間隔を開けて、延々と目透かし貼りしたもの。研ぎ出しの床も施工は全部自分たちで行なったDIYです。だから時間が掛かってしまったのですが……。僕はgraf出身なので、自分で手を動かすのを厭わないということもありますが、働くスタッフも施工に関わることで、空間に愛着が湧きますよね。
— ディスプレイはもちろん、カフェのしつらいなど、家具ともの、空間のバランスが見事ですね。
家具やオブジェは全部加藤さんの私物です。元々モノが好きなコレクター気質で倉庫にストックしていたんですね。この頃が“見立て”の時代の始まりだったんだと思います。どこのブランドの服を着ているかではなくて、いかにスタイリングして着こなすかが注目されるようになった。「美とは、それを観た者の発見である」と稀代の数寄者であった青山二郎が言ったように。昭和の初期の青山二郎のような目利きの世界が、ここ最近になって一般化したように感じます。もちろんインスタのようなSNSがあるからこそ急速に広まったわけですが、個人個人が“見立て”て、発信するようになった。
— 地方の店のあり方に関心を持っていたということでしたが、結論は出ましたか。
店に行っても、モノは買わずに写真を撮る時代になってしまいました。だからこそ、いかに扱うものを深く理解できるか、お店の考えを伝えられるかという体験価値が重要なのだと思います。やはり、地方のまちの文化水準を上げるのは、お店だと思うんです。黒磯の「CAFE SHOZO」や奈良の「くるみの木」など、地元の人たちもちょっとオシャレして出掛ける場所、そこへ集まる人がまちの文化をつくってきた。そこで体験する空間、モノ、味、接客などが若い人を育てる場所にもなる。そうしたお店の姿勢をどう示すか。それが“見立て”の時代にリアルな空間をつくるために、僕ら空間デザイナーができることなのではないかと思っています。
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