Interview with JIN KURAMOTO / JIN KURAMOTO STUDIO

 
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Oiyaがきっかけとなり、淡路瓦の産業が再び盛り上がって欲しいという強い思いがある

— Jin Kuramoto / JIN KURAMOTO STUDIO

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photography : Isao Hashinoki

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 

東京を拠点とするJIN KURAMOTO STUDIOを率いる倉本仁さんは、家具から日用品、電気製品まで幅広いプロダクトを手掛けるデザイナーだ。生まれ故郷である淡路島の瓦の窯元からの依頼を受けて、タイル状の瓦やベンチなど全ラインアップのデザインを行い、先ごろ発表された「Oiya」について開発のストーリーを聞いた。

 
 
淡路瓦の特徴である「いぶし瓦」など独自の技術を用いて、職人とともに新たな建材をつくるプロジェクト「Oiya」。

淡路瓦の特徴である「いぶし瓦」など独自の技術を用いて、職人とともに新たな建材をつくるプロジェクト「Oiya」。

淡路島にある工場の様子。「Oiya」は窯元3社が共同で開発したもので、プロダクトデザインはすべてJIN KURAMOTO STUDIOが手掛けている。

淡路島にある工場の様子。「Oiya」は窯元3社が共同で開発したもので、プロダクトデザインはすべてJIN KURAMOTO STUDIOが手掛けている。

 
 

— Oiyaは、淡路瓦を製造するメーカー3社が共同で立ち上げたブランドとのことですが、プロジェクトの始まりについて教えてください。 

淡路は瓦の産地として有名ですが、いま、屋根瓦はかつてほど売れなくなっています。しかし、そんな中で新しい取り組みをしようという元気のいい3社が集まって始まったのがこの「Oiya」と名付けられたプロジェクトです。過去にも外部のデザイナーを招いた取り組みは単発であったそうですが、長く付き合えるデザイナーに頼んでみようということで、2017年に声を掛けてもらったのが始まりです。窯元は、特注品の鬼瓦を得意とするタツミ、いぶし焼きなど個性的な焼きの技術で知られる御原特殊瓦、大規模な工場を持ち、主に屋根瓦を手掛ける野水瓦産業の3社で、規模も三者三様です。 

— なるほど、得意分野が異なるというのはいいですね。倉本さんがプロダクトデザインを依頼された時に、建材という用途は決まっていたのですか?

 はい。過去には、ペン立てのような小物などに取り組んだこともあったようですが、今回は、最初からタイルのような建材をつくりたいという方針は決まっていました。過去に、著名な建築家からの要望に答えて特注タイルをつくった実績があり、3社はそこに可能性を見出していたのです。 

 
淡路島は瓦に適した良質な粘土が採れることから、瓦の日本三大産地として知られている。

淡路島は瓦に適した良質な粘土が採れることから、瓦の日本三大産地として知られている。

 

— Oiyaという名前にはどんな意味があるのでしょうか。

 Oiyaというのは、北欧で島を意味する「Øy」に由来しており、また、淡路島で気軽なあいさつのように使う「オイヤ」という掛け声にも通じるので選ばれたものです。この名称や、世の中にどう伝えていくかというコミュニケーションの部分は、クリエイティブディレクターのdesegno ltd.の谷内晴彦さんが主導したものです。谷内さんは“架空化”と呼んでいましたが、すでにある、日本各地の地場のものづくりと差別化するために、職人技や淡路島のわかりやすい風景を前面に出すのでなく、どこの国のものか、どんな地域のものかがあいまいに見えるような表現としてくれました。僕にとって淡路は地元なので、自分ごととして中に入り込み過ぎる部分もあったので、谷内さんのフラットな視点で情報を整理してもらえたのはとても良かったと思います。

 
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二つを合わせると六角形になるブロック「B-01」。各プロダクトの製造は、3社の得意分野に応じた工場で製作されたという。

二つを合わせると六角形になるブロック「B-01」。各プロダクトの製造は、3社の得意分野に応じた工場で製作されたという。

 

—それはいい役割分担ですね。プロダクトのデザインについては、どんなアイデアから考えていったんでしょう。

 焼き物の製法には湿式と乾式の二種類があるのですが、瓦は土と水をこねていく湿式のつくり方なので、焼成するときに9〜12%くらい縮むし、形に歪みが生まれます。乾式でプレス成形するセラミックタイルと比べると寸法の精度は落ちますが、そうした瓦ならではの不揃いさをデザインのポイントにしたいと考えました。有機的な雰囲気がいまの時代にちょうど合うと思いましたし、独特のゆらぎのような空気感を含め、建築家たちに選んでほしいと考えたのです。

 — なるほど、確かに手仕事の価値が評価される現代に合う素材だというのはよくわかります。

 はい。20年前であれば、ビシッとそろったものをつくってくれと言われたと思いますが、ダイバーシティを大切にする世の中となり、懐の深さやものづくりの背景を大切にする風潮があると感じます。また、形だけでなく、色についても、そうした不揃いな幅があるのも特徴です。例えば、この扇型の瓦「T-04」ではさまざまな茶色が見られますが、それは焼成中の酸素の入り方や、窯の中の位置による温度差で生まれる色の違いです。実際に焼いている職人さんは3社の中でも特にアーティスト的な感覚を持っていて、仲間内ではやりたいことしかやらないと言われているような気質の方なんですが、Oiyaはそうした技術やセンスの部分で勝負しているので、とてもありがたいことです。 

— 焼く前に割った断面をそのまま見せているタイルもあるそうですね。

 はい。不揃いの表現を取り入れたいと考え、H型に押し出し成形したものを、焼く前にHの中央部分で割ってT字型にしたのが「T-01」です。割った部分は整えず、割ったままの自然な凹凸があり、あたたかみのある表情になっています。 

 
 
窯に入れる前に一部を割ることで、中央に割ったままのテクスチャーを表したタイル「T-01」。倉本は湿式製法による寸法精度や色合いの不均一さを長所と捉え、あたたかみを感じさせるユニークなデザインに挑んだ。

窯に入れる前に一部を割ることで、中央に割ったままのテクスチャーを表したタイル「T-01」。倉本は湿式製法による寸法精度や色合いの不均一さを長所と捉え、あたたかみを感じさせるユニークなデザインに挑んだ。

焼成中の温度変化により爆発してしまうため、実現までにかなり苦労したというブロック状の塊に半円を穿った「B-02」。

焼成中の温度変化により爆発してしまうため、実現までにかなり苦労したというブロック状の塊に半円を穿った「B-02」。

 
 

— 全体のデザインで気をつけたことはありますか? 

デザインをし過ぎないことです。その加減は難しいのですが、静かなものは目に当たってこないし、デザインしなければユニークネスは生まれません。しかし、デザインを強くし過ぎてはデザイナーに選んでもらえなくなる。今回のバリエーションの中で、縦格子や織物のように見えるパターンや扇型のタイルなどは、僕たちが独自にデザインしたというよりは、もとからあるスタイルを最適化する、というアプローチで考えたものです。建築の用途にもよりますが、例えば、個性が強く、その空間を全部もっていってしまうようなコンスタンチン・グルチッチの椅子よりも、ジャスパー・モリソンの静かな椅子を設計者が望むようなことが家具選びのシーンであると聞いたことがあるのですが、同様に、どんなデザインであれば設計者に受け入れられるか、ということは常に意識しながらデザインをしました。

また、タイルは並べて使う素材なので、集まった時にどう見えるかをスタディしながらデザインをしました。1枚だけで見ると、並べた時とまったく印象が違うものもあり、そうした表現はデザインしていて、とてもおもしろいと感じました。 

— 製作に苦労したものは? 

半円形の穴を中央に設けた「B-02」のように、厚みがあるタイプは、焼成中に爆発してしまうことがあるのでかなり難しかったですね。これは、厚さは95mmあるのですが、縦でも横でも使えて、二つの凹みを組み合わせて円形の孔を開けたり、さまざまな並べ方ができるようにデザインしています。実は、製造が難しいものは、これ以外にも数多く提案していて開発途上なんですよ。 

 
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瓦を脚に用いたベンチ「F-03」(上)と「F-05」(下)。家具としては、他に座面に瓦を用いたものやテーブルがある

瓦を脚に用いたベンチ「F-03」(上)と「F-05」(下)。家具としては、他に座面に瓦を用いたものやテーブルがある

 

— それは楽しみです。瓦がベンチの脚になった家具のシリーズには驚きました。

 瓦には十分な強度があるので、ホテルや公共空間などで、連結して使えるようなベンチを数種類デザインしました。これらは、彫刻のようにオーダーメイドで自由な形をつくることのできる、鬼瓦の職人さんに製作してもらっています。使用しているいぶし瓦は、焼成中に窯の中で炭素の膜を付けた、淡路瓦の特徴的なものです。また、いぶし瓦は焼いたままの状態では表面の指紋が目立つため、サンドペーパーで仕上げることで鈍い光沢のある質感になっています。

— 最後に、今後の使われ方や展開のイメージを聞かせてください。

僕は瓦が産業として衰退していく様子を間近で見てきたので、Oiyaがきっかけとなって、淡路瓦の産業が再び盛り上がって欲しいという強い思いがあります。ものをつくって買ってもらうだけでは産業として広がっていかないので、まずは、今あるシリーズをサンプルと思って瓦の技術の面白さを知ってもらいたいですね。短納期、少量生産で特注対応できることもこのOiyaの特徴ですので、このブランドが地場産業への入り口となり、興味を持った建築家やインテリアデザイナーがプロジェクト単位で特注デザインしたものが、定番商品としてもラインナップされていくオープンなクリエイティブサービスとなることを思い描いています。 

 
一連の「Oiya」のプロダクトは、desegno ltd.のアートディレクションにより、地域や国をぼかしながらも、その土地の魅力を伝えるビジュアルとともに展開された。

一連の「Oiya」のプロダクトは、desegno ltd.のアートディレクションにより、地域や国をぼかしながらも、その土地の魅力を伝えるビジュアルとともに展開された。

 

2021年3月にOiyaのウェブサイトは公開されたが、同時期に予定されていた展示会はコロナ禍で延期となっていたという。その後、Oiyaのタイルやファニチャーシリーズは東京・西麻布の「Karimoku Commons Tokyo」のギャラリーで8月27日から9月30日までの会期で展示されている。

 
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JIN KURAMOTO

倉本 仁 / プロジェクトのコンセプトやストーリーを明快な造形表現で伝えるアプローチで、家具や家電製品、アイウェアから自動車まで多彩なジャンルの製品デザイン開発に携わり、国内外の様々なクライアントにデザインを提供している

http://www.jinkuramoto.com

 

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