MEKARI JINJA by ABOUT
Shrine facility | Fukuoka, Japan
DESIGN NOTE
神社の在り方から導かれたミニマルデザイン
黒漆喰磨き仕上げによる重厚な壁
1800年の歴史を持つ神社の授与所
photography : Takumi Ota
words : Reiji Yamakura/IDREIT
東京と大阪を拠点とする、デザイン事務所 ABOUTの佛願忠洋が内外装のリニューアルデザインを手掛けた、和布刈神社(めかりじんじゃ)の授与所。九州最北端の地で、関門海峡に面する社殿を持つ同神社は、1800年の歴史があるという。中川政七商店のコンサルティングによる新装計画の中で、ABOUTが空間デザインを担当した。
「28歳という若さで歴史ある神社を継いだクライアントのもと、今後の神社のあり方を考えていく中で、『在るべき姿に戻す』ことが最初のテーマとなりました。軒下にお守りが並んでいて室内に巫女さんがいる、という現在よくある形の授与所は、本来の姿ではないだろうというところから議論を進め、この場を訪れる人との時間をどう共有できるかが大切だと考えました。まず建屋に入り、精神を落ち着かせ、選んだ授与品に神職が鈴振りをして魂を入れたものを受け取るという一連の所作にふさわしいデザインを考えていきました」と佛願は計画当初を振り返る。また、説明する行為を極力無くし、神社の精神性を感じられる空間づくりを目指したという。
デザインについては、「ここは瀬織津姫(せおりつひめ)という月の女神を祭る神社です。陰と陽で言うと陰側の神様であること、そして、クライアンとからの重みのある表現にして欲しいという要望から、白く明るい雰囲気ではなく、黒でぐっと引き締めるデザインを志向しました。素材は、塩害にも強い漆喰を選び、外壁部分では黒漆喰の磨き仕上げとし、壁の厚さにより重厚な雰囲気としています」と語る。
外部は、壁際に並んでいたお守りの陳列台と建物前面にあったポリカーボネート製の簡易な屋根をすべて撤去し、新たに正面から見て左側にフルオープンできる開口部を設けた。「穴倉のような奥行きのある空間をイメージしながら、内外の風景を適度に遮ることと壁に美しい影を落とすように、既存の瓦屋根の手前に庇を新設しました。深い軒の出とシャープな見栄えを実現するために、ガルバリウム鋼板の庇の下には亜鉛メッキ鋼板による第二の庇を設けています。軒下では雨をしのぐことができ、また、開口部を全開にすれば半屋外の空間としても使える構成です」。アクセスしやすい大きな開口部は、正月など一度に大勢の人が訪れる状況も考慮して設けられたものだ。
一方、黒い外壁とは対照的に白漆喰を用いたインテリアについては「影に対する光のイメージで、新設の壁は白で仕上げました。また、来訪者と神職の目線を近づけ、お札に手書きする様子などをよりよく見せるために、畳敷きの小上がりを設置しました。手前の中央には御神体の一部である『磐座』を置き、その隣には、三宝へのオマージュとして、積み重ねても美しく見える桐のトレーをデザインしています。」と語る。この陳列用の桐製トレーは、内側にはテーパーを付け、端部はウォールナットの契りを入れた丁寧な仕口である。そうした手に触れるものの一つひとつが、ここで過ごす時間を特別なものとしている。また、一般的な対面カウンターではなく小上がりとしたのは、本来、神社は自然と人が集い交わる場だったことから、使い方を規定するのではなく、時にはお茶を点てたりワークショップを開催するなど、その場その場で姿を変える空間を想定したデザインという。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT + INFO
名称:和布刈神社 授与所
コンサルティング:中川政七商店 島田智子
設計:ABOUT 佛願忠洋
グラフィックデザイン:岡本健デザイン事務所 岡本 健、山中 港
照明計画 Filaments inc. 吉岡政浩
施工:ob
所在地:福岡県北九州市門司区門司3492番地
用途:授与所
竣工:2019年12月
面積:83m2
仕上げ材料:
床/墨モルタル
外壁/黒漆喰磨き仕上げ
内壁/漆喰仕上げ
天井/AEP塗装
小上がり/ 框・檜 畳寄せ・檜 地板・古材 畳・琉球畳
庇/ガルバリウム鋼板葺き+亜鉛メッキ鋼板