Interview with KEISUKE NAKAMURA / DAIKEI MILLS —part 1

1/2

 
skwat_003-1200x843-12-3.png

さらなる混沌に突入する時代性を見据え、SKWATに行き着いた

— Keisuke Nakamura / DAIKEI MILLS

photography : Daisuke Shima

words : Reiji Yamakura/IDREIT

EN

 
 

いま、「SKWAT」(スクワット)というインディペンデントな活動が、東京の原宿・青山界隈で新たなカルチャーの震源地となっている。それを仕掛けるのは、設計事務所DAIKEI MILLSの中村圭佑さんだ。発案者である中村さんが声を掛け、現在、アートブックのディストリビューターであるtwelvebooksの濱中敦史さんらがボードメンバーとして活動に加わっている。SKWATという名称は、かつて中村さんがロンドンで学生時代に体感した、放棄された土地や建物(通常は住居)を占拠する行為 Squatting * からインスピレーションを得たという。

2019年の12月に原宿の一軒家でスタートしたSKWATの軌跡を、中村さんに聞いた。 

* squat=占拠する、の意


 
skwat-exterior-idreit.jpg
神宮前2丁目の、ビルに挟まれた立地に立つ小さな2階建ての一軒家を改修して始まった「SKWAT」。内外装には、鮮やかなブルーが用いられた。

神宮前2丁目の、ビルに挟まれた立地に立つ小さな2階建ての一軒家を改修して始まった「SKWAT」。内外装には、鮮やかなブルーが用いられた。

 

— 原宿の一軒家を、まさに“squat”したようなかたちで始まったSKWATですが、この活動を始めたきっかけを教えてください。  

僕らがDAIKEI MILLSとして、デザインの仕事を始めてから10年ほどが経ちました。その間、設計する対象が広がるとともに、良くも悪くも自分たちの色がついてきたように感じ、2年ほど前から今後どうやって進化し続けていくのが良いかを考えるようになりました。普段から、デザインをする際に建築やインテリアという枠組みの中ではあまり考えないのですが、さらに一歩外に出て、よりクリティカルな表現を届ける方法を探っていたのです。

そんな折、従来のクライアントワーク形態だけではなく、こちらから仕掛ける形で表現を打ち出し、そこに賛同してくれる仲間を募る方法が思い浮かびました。クライアント、設計者、施工者を分ける従来の構図ではなく、なにか一つの強い方向性を共有し、もっとピュアな方法で新しいモノをつくれるんじゃないかって。 

— なるほど。その強い方向性の一つとして、Squattingが頭に浮かんだのでしょうか?

そうなんです。僕たちDAIKEI MILLSの主体は、よい空間を生み出すことです。建築、デザイン、現代美術といった分類とは関係なく、空間をつくること自体にずっと魅力を感じており、その根底には、ある種のフェティシズムのように、ピュアな表現を追い求めずにはいられない、という感覚があります。また、これまでの経験を振り返ると、設計事務所としての活動と、オルタナティブスペース「VACANT」(2019年12月に閉館)の運営という両軸がありました。そこで得てきたことを、純度を下げずに表現しようとした時に、さらなる混沌に突入するであろう今後の時代性を見据え、Squattingの記憶から「SKWAT」に行き着きました。 

— 東京ではあり得ないような手法に目をつけたのが興味深いですね。また、先に“場”をつくってしまうというのが、これまで10年間、VACANTというさまざまな使い方を許容するハコを運営してきた中村さんらしいと思いました。 

自分たちのやり方で空間を先につくってしまい、そのフィロソフィーに共感してくれる方たちと一緒に何かを生み出していこう、と考えたのです。ただ、SKWATの目的は場所をつくることではなく、前提としてある、街の中を“占拠していく”というコンセプチュアルな活動であり、その活動が表現だと思っています。

そんな考えに至った背景の一つには、昨今の東京の状況があります。この数年、都心部では高層ビルや大型商業施設が増え続け、それ自体は悪いことではないのですが、予定調和のものばかりが増えていくような印象を受けていました。インディペンデントな人間が声を上げたり、インパクトを残すことが難しくなる現代社会の中で、メインストリームに対するカウンターを、という意識もあります。 

— 第一弾となったSKWAT(神宮前)は立地と建物が特徴的ですが、どうやって見つけたのですか。 

Squattingからインスピレーションを得たとはいえ、違法な形ではできないので、ローカルの不動産会社に依頼して、東京のど真ん中で「何だこれは」と思える物件を、半年ほど探していました。そうして巡り合ったのが、かつてクリーニング店だった2階建ての一軒家です。ユナイテッドアローズ原宿本店やクロムハーツのすぐ近くで、ビルに挟まれたすき間に特徴のない小さなプレハブが鎮座している景色が最高だったので、見た瞬間にここだ!、と。小さいながらも、自分たちの色を表現できる一軒家だったことも理想的でした。 

skwat_006-1200x800-2.jpg
青い外装の一軒家に展開したSKWATで、「Thousandbooks」として営業していた室内の様子。

青い外装の一軒家に展開したSKWATで、「Thousandbooks」として営業していた室内の様子。

壁の一部には、プラハにある「ストラホフ修道院図書館」の哲学の間の写真を壁紙にプリントして用いた。

壁の一部には、プラハにある「ストラホフ修道院図書館」の哲学の間の写真を壁紙にプリントして用いた。

 

— 青い色を使ったのはどうしてですか? 

本場のSquattingには、不法に占拠している生々しさがあるのですが、そんな感覚をデザインで表せないかと考えました。また、SKWATの活動を一気に可視化したかったので、外壁を含め、わかりやすい鮮やかな青で表現することにしました。 

— 内部はどんな使い方をしていたのでしょうか。 

VACANTを一緒に運営していた仲間でもあるtwelvebooksと連携し、彼らの不良在庫をオール1000円で販売するアートブックストア「Thousandbooks」として、2020年2月まで営業しました。床と一部の壁には、真っ青なパンチカーペットを張り巡らせています。敷地や建物の特性に応じてカラーを一つ選ぶことと、汎用性が高く、原状回復が容易なパンチカーペットの使用は、その後のSKWATでも共通するものです。 

 
skwat-2-cibone-idreit-11.jpg
skwat-2-cibone-idreit-1.jpg
「CIBONE Aoyama」の移転に伴い、同店の営業終了までの2週間をSKWATした時の様子。店内の一角には、カフェ Shachill がポップアップ出店した。

「CIBONE Aoyama」の移転に伴い、同店の営業終了までの2週間をSKWATした時の様子。店内の一角には、カフェ Shachill がポップアップ出店した。

 

— 続いて2020年3月に、「シボネ 青山」の移転時に展開されたSKWATついて教えてください。 

過去に設計を手掛けた「シボネ 青山」(2014年開業)が移転することになり、移転計画のテーマとなった“引っ越し”という言葉から、新店舗の僕たちが携わる区画では、既存店の壁や什器の一部を切り取って“移築する”アプローチをしました。

その過程で、旧店舗の一部を仮囲いしながら営業する期間があり、制約がある状況を逆手にとって面白いことができるのではないかとSKWATを提案し、営業終了までの約2週間実施したものです。床から立ち上がるグリーンの幾何形態パビリオンは、実は、シボネ新店舗の平面形状を部分的にトレースして組み合わせたもので、移転先への期待値を高めるメッセージを含めてデザインしたものです。 

— 通常営業ができないネガティブなタイミングに仕掛けていくというのがユニークです。続いて、デンマークのテキスタイルメーカー Kvadrat(クヴァドラ)とコラボレーションした第三弾となるSKWATもほぼ同時期に始まったのですね。 

はい。日本でもサスティナブルという言葉をよく聞くようになりましたが、現実的にはまだ浸透していないように感じます。そんな状況を背景に、Thousandbooksでアートブックを販売した時には、在庫として積み上がった本を消費者に格安で手に取ってもらい、少しでもお互いにとっての無駄を減らしたいという思いがありました。Kvadratとのコラボレーションでも、物を大切にしたいという考えがもとにあり、廃盤になった彼らの生地を初めて一般客向けに安く販売する場として、青い一軒家の内装に一部手を入れて行いました。あいにく、コロナウイルスの影響で数日しかオープンできなかったので、その後、青山で始めたSKWATでも一時的に営業をしました。 

 
daikei-mills-skwat-kvadrat_interior-design-tokyo-japan-idreit-08.jpg
SKWAT 第三弾となった、青い一軒家で行われたKvadratとのコラボレーションでは、廃盤となったテキスタイルが販売された。

SKWAT 第三弾となった、青い一軒家で行われたKvadratとのコラボレーションでは、廃盤となったテキスタイルが販売された。

 

— なるほど。大きな転機となった、青山のみゆき通り沿いにある商業施設「The Jewels of Aoyama」でのSKWAT(南青山)の展開について教えてください。 

原宿で小さく始めたSKWATの活動に興味を持ったディベロッパーの方が声を掛けてくれて、東京での緊急事態宣言が解除された5月末に、twelvebooksと再び連携する形で第四弾となるSKWATをThe Jewels of Aoyama内で始めました。いまの東京に必要な、文化的でリアルな場所をつくるという意義を理解してもらい、同ビルの1、2階にまたがる約200m2のスペースを賃借しています。

後半に続く

 

DAIKEI MILLSの中村圭佑さんに、今後のSKWATの展開を聞いた後半はこちら

 

インテリアデザイン・建築系の仕事に特化した求人情報ページ。掲載のご案内はこちら

 

RELATED POST

#DAIKEI MILLS

 

#STORY