HONKE OWARIYA by TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO
Confectionery | Kyoto, Japan
DESIGN NOTE
約550年続く老舗菓子店
京都の川砂利を混ぜた研ぎ出しカウンター
本店と菓子処をつなぐ“山草庭園”
photography : Takumi Ota
words : Reiji Yamakura/IDREIT
京都で菓子店として約550年前に創業し、その後、1700年頃から蕎麦店としても営業を続けてきた「本家尾張屋」の菓子専門店。新店舗のデザインは、これまで同店のビジュアルアイデンティティーのアドバイスを行なってきた、柳原照弘率いるTERUHIRO YANAGIHARA STUDIOが手掛けた。
柳原に当初のアイデアを聞くと「蕎麦の老舗としてよく知られる『本家尾張屋』では、蕎麦店内の一角や百貨店で菓子を販売していました。しかし、創業時からつくり続けてきた菓子の魅力をきちんと伝える場をつくりたいという、十六代当主である現オーナーの思いから、本家尾張屋本店に隣接する駐輪場だった場所に、菓子専用の店舗をつくることになりました。デザインについては、もともと海外からのお客さんが多かったので、日本らしい要素を保ちながら、従来の老舗のイメージを変えるものにしようと考えました」と振り返る。
店内中央の精緻なコンクリート製カウンターのデザイン意図を尋ねると「商品の素材やつくり方などの背景をきちんと伝えることができるように、菓子店で一般的なガラス張りのショーケースではなく、スタッフと対話をしながらお菓子を選んでもらえるカウンターを設けました。素材は、京都の川砂利を混ぜた特注の墨入りコンクリートで、側面は打ち放し、上面は研ぎ出しで仕上げています。打ち継ぎの無いシームレスな仕上がりにしたかったことと、天板に段差があることで、難しい工程になりましたが、過去に仕事をしたことのある左官職人の協力で実現できました。また、商品をディスプレイするために、番重と呼ばれる木箱をオリジナルでつくりました。ここは伝統的な菓子を扱う店ですが、純和風のデザインにかすかな違和感をつくりたいと考え、番重には日本建築で見かけないブラックウォールナットを使っています」と語る。
番重だけでなく、壁際に備え付けたベンチや、引き戸の戸当たりとなる木部にもブラックウォールナットが使われた。戸当たりは、引き戸を開放した時に建具としての存在感が見えることを嫌い、土壁を仕上げる前に見切りとなるスチール枠を埋め込み、壁塗り後にその隙き間にウォールナットを柱のように納めることで、日本建築のルールにはない、土壁よりも木部が奥にある独特のディテールとしている。
同様のデザインに対する配慮は、引き戸のガラス全周に銅製のフレームを取り付けて手掛けとしたり、照明器具やスライドドアの吊り具を天井のスリット内に隠蔽するなど、表から見えにくい部分にまで徹底されている。そして、そば殻を混ぜたオリジナルの左官仕上げの壁では、耐候性の面から屋外と室内用で配合を変える必要があったが、内外の質感を合わせることにこだわり、何度も調整を行いながら30近いサンプルから菓子の表面のような風合いの仕上げを選んだという。
また、蕎麦店に向かうアプローチに面した庭は、今回の改装と合わせて整えられたものだ。「作庭は、かつて京都で修行し、今は長崎の波佐見を拠点とする庭師の山口陽介さんに依頼しました。自生する樹木や山野草も取り入れ、菓子店に隣接する茶室や通路側からの視界の“抜け”を意識するなど、全体の構成は京都の庭の作法をあえてくずしたものになっています。また、蕎麦店の入り口側から菓子店に至る敷石は、角度をつけることで自然と足が向くようにしたものです」と、人の行き来を考慮した庭づくりの意図を柳原は説明する。
この計画は、わずか20m2の改装ながら、施工者や庭師と密度の高いコミュニケーションを重ね、伝統的な手法に独自の工夫を加えることで、現代にアップデートした老舗の姿を実現している。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT + INFO
名称: 本家尾張屋 菓子処
設計:TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO 柳原照弘 許瀚升(Hansheng Hsu)
造作家具:青木志郎
左官:斎藤左官
木材:原田銘木店・松田企画
作庭:西海園芸 山口陽介
施工:RAKU
所在地:京都府京都市中京区車屋町通二条下る
経営:稲岡亜里子
開業:2020年3月
面積:店舗/20m2 庭/13 m2
用途:菓子店
仕上げ材料
床: 墨入りモルタル金ゴテ押さえ
壁: 左官蕎麦殻入り掻き落とし 柱 / 既存
天井:左官蕎麦殻入り掻き落とし
家具:ブラックウォールナット 無塗装
カウンター:川砂利混入コンクリート打ち放し 蜜蝋仕上げ 天端 / 左官研ぎ出し
縁側:栗材ナグリ仕上げ