URA by Insideout
Concept Shop
DESIGN NOTE
ガラスを貫通する鏡面カウンター
抽象度の高い要素で構成された実験店
イシマルと三保谷硝子店による仕事
photography : Kozo Takayama
words : Reiji Yamakura/IDREIT
Maison MIHARA YASUHIROなどを運営するソスウのコンセプトショップ「裏(ウラ)」。東京・神宮前の裏通りに面した路面店のデザインは、デザイン事務所Insideoutの久保寛人さんが手掛けた。オープン直後の現在、三原康裕さんが環境配慮と社会的責任への観点から考慮したライン「General Scale」のシューズが置かれ、2024年春にはソスウがハーブティーをローンチ予定という。ロゴなどのアートディレクションは、KIGIの植原亮輔さんによる。
街ゆく人の目を引く、ファサードのガラス面を貫通させたミラー仕上げのディスプレイテーブルを設けた、挑戦的とも言えるデザインについて、久保さんに開発の経緯を尋ねた。「既存店と異なる実験的な店舗をつくりたいという話からスタートし、商業店舗のセオリーにとらわれず、新しいこと、MIHARA YASUHIROらしくないことをしたい、という要望がありました。開業時にはGeneral Scaleの土に還る素材でできたシューズを置くことが決まっていましたが、三原さんからは、環境配慮は当然のこととしてやるべきで、エコ建材でそれを過度にアピールする内装にはせず、クリエイティブで面白いことをしよう、と」。
抽象的な依頼に対して、どのようにデザインを組み立てていったかを聞くと、「セレクトショップが並ぶ表通りに対して、裏通りの住宅地域との際で、どんなことをすれば驚きを与えられるかを考えていく中で、ここで何か事件が起きているような状況をつくろう、というアイデアから、ガラスからカウンターが突き出したデザインに至りました。商品が定まっていない実験店のため、機能を限定した什器を設けるのではなく、パブリックアートだけがあるような空間としたいとも考えていました」。また、ストックを含め50m2という限りある区画に対し、駐車場や前面道路さえもこちらの領域のように捉え、内外のつながりを模索したという。
荒々しい石や砂利といった素材と余白を生かした構成に、日本を感じさせる意匠を意図したのかを尋ねると、「和を狙ったわけではありません。普段から、自然物と人工物や、単位質量の異なる素材の組み合わせなど、二つの相反するものによるコントラストを表現したいと思っており、ここでは商品を際立たせるために、ミラーやガラス、自然石を選びました。今振り返ると、ファッション店の什器をデザインするというよりも、各要素の角度や重なりを考慮しながら、ここに風景をつくる作庭のようなアプローチで考えていった結果、こうしたデザインになったのだと思います」と語る。
施工は、内装施工をイシマル、ガラス工事を三保谷硝子店が手掛け、「決してできないと言わないイシマルさんたちのチームだからこそ、自分の思い描いたデザインを精度高く実現できた」と振り返る。「内外の境界を消すディテール」を意図したというガラス開口部では、上下の枠を見せないことはもちろん、外壁と接する右手側面にも枠を隠蔽し、外壁材を店内まで一部貼り伸ばすことで、極力ガラスの存在を感じさせない配慮がなされている。ケンドン式で施工するために生じるドア付近の床面のスリットは、ドアロックの受け金物に生かすなど、目に入る要素をできるだけ減らすディテールへの気使いは抜かりない。また、外部に突出する鏡面仕上げのカウンターは当初、強化ガラスを貫通するボルトで支持する設計をしていたが、ガラスに穴を開けるよりも面強度で持たせたほうが良いという三保谷さんの判断により、三保谷硝子店でのテストを経て、シール接着を採用したという。施工時の課題の一つだったという自然石の納め方については、イシマル側からの提案により、現場で回転させられる金物を接合部に用いることで理想の配置が可能となった。そうした信頼のおける施工者の経験値と熱意により、カウンター下のガラスボックスには垂直荷重を掛けず、室内にある自然石の脚から窓ガラスまでおよそ3mを無柱で飛ばしたアクロバチックなカウンターが実現している。また、正面から見て右手の壁には、全面にステンレスミラーを用いた壁面棚を備え付け、開花堂の茶筒が並んだ。三原さんの希望によって配したLEDスクリーンは、左右わずか3mmあきの精度で壁全面をLEDユニットで埋めつくし、三方をミラー貼りした梁や光幕天井の効果も相まって、空間的な奥行きを感じさせる設計となっている。
計画全体について「内と外というのは、自分にとってずっと追求しているテーマであり、ここでは店内がほぼ外部のように感じられる状態をつくることに集中しました。また、いつも三原さんとは『商品は点になるので背景には面が欲しいし、点を際立たせるには線が欲しい』といった“もの派”に通じるような対話をしており、商品が変わっても空間的なコンポジションが変わらないことを意識しながらデザインしました」と振り返る。将来的には、KIGIによるライフスタイル雑貨の販売や、社外ブランドとのコラボレーションなど、さまざまな展開が構想されているという。“裏”というファッション界へのカウンターとも取れるユニークなテーマ性のもと、ディテールにこだわり抜いたアート然とした空間が、どのように使われていくかが楽しみだ。
DETAIL
CREDIT
名称:裏
設計:Insideout ltd. 久保寛人 イレーネ・アロンソ
照明計画:HIBIKI Inc.
ガラス工事:三保谷硝子店
石工事:竹林石材店
施工:イシマル
アートディレクション:KIGI
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所在地:東京都渋谷区神宮前2-17-6 神宮前ビルディング地下1F
経営: 株式会社 ソスウ
用途:物販店
竣工:2023年10月
床面積:68m2(ショップ36.5m2、ストック10.5m2、外部テラス21m2)
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仕上げ材料
外壁:SOLIDOパネル(再生セメント系素材)
床:モルタル金ゴテ仕上
壁:PB+EP、SUS鏡面
天井:光幕天井
家具・什器:カウンター/ステンレス鏡面仕上げ + 自然石(小松石) 一部ガラスボックス t10mm +白佐和石敷き 可動ディスプレイテーブル/ガラスt10mm 壁面棚/ステンレス鏡面仕上げ