BEAUTIFUL PEOPLE pop-up store unseen archives during the pandemic by DAISUKE YAMAMOTO
Tokyo, Japan
DESIGN NOTE
コロナ禍で生まれた2カ月限定のPOP-UP
解体後に建材をリユースするプログラム
LGSを用いた家具とインテリア
photography : Kozo Takayama
words : Reiji Yamakura/IDREIT
東京を拠点とするデザイン事務所、DAISUKE YAMAMOTO / de:signの山本大介が手掛けた、beautiful peopleの期間限定ストア「beautiful people pop-up store unseen archives during the pandemic」のデザイン。この店舗は、コロナ禍で発表の場を失ったアイテムを販売するために2カ月限定で計画されたものだ。同ブランドのクリエイティブアドバイザーとして、空間デザインのみならず、ブランドづくりにも携わってきた山本は出店の経緯をこう語る。
「シーズン毎に新作を発表し、販売するというサイクルは変わらない中で、緊急事態宣言により百貨店が営業できない期間があり、お披露目の機会を失った商品を廃棄せざるを得ないという問題に直面しました。そんな状況に対してできることはないだろうか、とブランドと共に考えていく中で生まれたのが、すべての資源を無駄にせず、大切に使うことをコンセプトに掲げたアーカイヴストアでした」。
設計にあたっては、常々感じていたスクラップ&ビルドへの疑問も大きく影響したという。「最近の商業施設では、ブランドと施設の契約期間が1年から3年となることが多く、それは館の新陳代謝を促すためではありますが、そのために1〜3年で解体して廃棄ということが起こり得るわけです。そんな短期間で壊す前提でつくるデザインってなんなんだろう、と思うことがあった」と。また、一生懸命つくったものが一瞬で壊されて産業廃棄物となる様を現場で見るうちに、仕上げをしないことで材料の持続可能性を高めるアイデアに思い至ったという。「例えば、LGS(軽量鉄骨)の上に石膏ボードを貼り、さらに仕上げを施す一般的な施工法では、解体後には複合廃棄物になってしまいます。そこで、仕上げの手数を減らして剛性を保つことができれば、素材としての純度は保てるんじゃないかと考えたのです」。
再利用できる素材の使い方を念頭に設計したのが、2019年にオープンした「beautiful people渋谷パルコ店」だ。壁には接着剤をいっさい使わず、すべてLGSをビス留めすることで自立させている。また、石膏ボードを積み重ねただけの什器や、配線資材を重ねたスツールなど、独特の“見立て”のデザインを見ることができる。渋谷店の後に計画された名古屋店は、1〜2年後の移転が出店時に決まっていたことで、キャスター付きのハンガーや買い物かごを積み重ねたディスプレイ台など、さらにフレキシビリティを高めたデザインがなされた。
そうした経験を踏まえて進められた今回のアーカイヴストアでは、テナントの選び方もユニークだ。出店とはいえ、一からつくるのではなく、賃借契約が切れた後で、かつ解体前の言わば“居抜き”のように使える物件を探したという。「あるものを否定せず、すべてを既存のコンテクストと捉えて、そこに介入していく方法が、この期間限定店にふさわしいと考えました。渋谷と名古屋でも、解体時から考えるというコンセプトはありましたが、その考え方をさらに加速させ、二カ月後になくなる状態から逆算してデザインしました」と山本。
インテリアの主要素材として床と什器に使われたのは、渋谷店でも多用されたLGSだ。今回、LGSのアイデアを進める上で、ポイントになったのが、イタリア人デザイナー、エンツォ・マーリのDIYできる家具の作品集「autoprogettazione?」(1974年刊行)に掲載された椅子「sedia 1」だった。
「マーリさんは、プロでなくてもつくれる家具の図面を公表することで、それまで権威的だった家具デザインを、誰もが取り組めるものだと伝えたかったのだと思います。現在と時代背景は違いますが、その思想に大きく共感したことと、自分に身近なところでできることをすべきだと考え、この椅子をステートメントとして取り入れ、アーカイブストアの設計を行うことにしました」とその理由を説明する。そして、営業が終了した時点から逆算するという言葉どおり、内装に使われたLGSは解体後にsedia 1の椅子としてリメイクすることまでを計画に含めた設計になっている。店内には、木材用のオリジナルの図面をLGSに置き換えて製作した椅子がディスプレイされ、解体後の姿を示唆している。
施工時の苦労を尋ねると、「床には、椅子にする際に使いやすい20×40mmサイズのLGSを敷き込みました。下地なら端部は切りっぱなしですが、仕上げや家具として使うには切り口が危ないので、木工を得意とする大工さんに依頼し、1mm単位で納めの勝ち負けをどうするかを検討しながら製作しています。また、既存のハンガー什器を残した部分では、LGSの床を貫通したようにハンガーの脚を通すなど、現場でかなり無理を聞いてもらい、精度高く仕上げることができました」。また、分電盤のある開き扉の前は、必要に応じて床のLGSを取り外せるようにパネル化するなど、実用性を犠牲にせず工夫したことで、床面を単一素材として見せるデザインが成立している。LGS特有の光の捉え方や奥行きのあるニュアンスに興味があるという山本は、スタッド側面のラインの見え方を気にして、柾目と板目を使い分けるように材の向きを指定したというこだわりには驚かされた。また、床から家具までを丁寧につくったことで、LGSを木材のように扱えると気づいたのは大きな収穫だったと振り返る。
一方、屋外から見えるサインについては、その後に他店に移設できるように、天井からロープで吊ることで固定している。「通常なら天井にボルトで固定するところですが、職人が現場でものを一時的に吊る時と同じように、ただロープで吊る方法としました。この店舗にあるものは、すべて次の行き先が決まっていて、そのために最適な設えをしています。そうした考え方で設計したのは初めてですが、新しい取り組みができたのではないかと思っています」。普段からサスティナブルなデザインだけを志向しているわけではないと言うが、素材の生かし方については、「伊勢神宮のように、建て替え後の古材が別の神社などで活用されていくシステムには、日本の美意識があると感じる。このアーカイブストアが店として形を留めている2カ月は瞬間的なものだが、その後も建材が循環するサイクルをつくれたら、とても日本らしいものになると考えました」とその意図を語ってくれた。
2カ月の営業を終えた後、解体時に床のLGSは現場で椅子にリメイクして搬出された(写真提供:DAISUKE YAMAMOTO/de:sign)
コロナの要因だけでなく、フランスで売れ残った洋服の廃棄を禁止する法律が2020年に施行されたことで、beautiful peopleが廃棄を減らす試みを進めていた中、ここまで振り切った店づくりができたのは、ブランドとビジョンを共有し、空間設計にとどまらない関係性が築けていたからだろう。店舗や建築の耐用年数を真摯に見据え、手の届く範囲でリアリティのあるデザインに取り組む山本の思考に引き続き注目したい。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT
名称:beautiful people pop-up store unseen archives during the pandemic
設計:DAISUKE YAMAMOTO / de:sign 山本大介
施工:デコール 近河一樹 小澤健人
大工:木野内隆幸
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所在地:東京都港区
経営:(有)entertainment ( beautiful people )
用途:物販店
営業期間:2021年5月〜6月
面積:85.2m2 (うちストック10.7m2 )
仕上げ材料:
床:LGS 20×40mm
壁・天井:既存
サイン:透明アクリルボックス一部視線制御シート貼り + LEDネオン
ディスプレイテーブル:LGS 40×40mm
家具:オリジナルチェア/LGS 20×40mm、木製チェア/sedia 1(公開されている図面を元に製作)