EMERGE Highlights the Next Generation Asian Designers — FIND-Design Fair Asia 2025
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photography: IDREIT
words: Reiji Yamakura/IDREIT
今年、建国60周年を迎えたシンガポールで、SINGAPORE DESIGN WEEKの中核イベントとなるアジア最大級のトレードフェア「FIND – Design Fair Asia」が2025年9月に開催された。このレポートでは、2022年のFIND誕生と同時にスタートした、アジアの次世代デザイナーに焦点を当てる企画展「EMERGE」に注目し、今年のテーマと展示作品を紹介していきたい。
2022年の第1回EMERGEからキュレーターをを務める、Design AnthologyのSuzy Annetta
EMERGE会場で今年のテーマなどを説明するSupermamaの代表のEdwin Low(中央)
これまでEMERGEを、シンガポールはじめ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、東ティモール、ベトナムなど東南アジアの新たな才能と出会う場として育て上げてきたのは、初回からキュレーターを務めるDesign Anthologyのファウンダー、Suzy Anettaだ。そして今年、シンガポールのデザインブランド「Supermama」を率いるEdwin Lowが新たにキュレーターとして加わった。
Edwinに、キュレーションの意図を尋ねると、次のように語ってくれた。「今年のテーマは "Dialogue Through Design" です。このテーマのもとで私たちが考えていたのは、『デザインはどのように人と人をつなぐ言語になれるだろうか』ということでした。展示作品を選ぶ際にも、私たちは単に美しさで選ぶのではなく、そこにどんなストーリーが込められているかを重視しました。私たちは、より良い世界をつくりたい。そのためにデザインをどう使えるのだろう、素材をどうリユースできるだろうか。そんなことを考えながら、応募者には常に『なぜこのデザインなのか』、『なぜこの形になったのか』と、繰り返し問い掛けながら作品を厳選していきました」。
会場内には、カトラリーから大型の家具までテーマに沿った作品が並ぶ。中央のカラフルなベンチとシェードは、タイのバンコクを拠点とするTHINKK Studioによる「LoopLine」
ロンドンを拠点とする日本人建築家デュオのPAN-PROJECTによる、端材のデニムを極めてプリミティブな方法でロープに仕立てた作品「Entwined Maters」。2024年にエストニアで展示した同名の作品のアイデアを進化させたものだという。
シンガポールとポルトガルを拠点とするGabriel Tanによる「Origin Made」のプロダクト。ハーマンミラーやルイスポールセンとの仕事で知られる、Gabriel Tanのように経験豊富なデザイナーが参加していることもEMERGEの魅力の一つだ
また、共同キュレーターとして今年もEMERGEを支えたSuzyは、今回の特徴を次のように語る。「今年はデザイナーの参加地域が拡大したことが大きな変化です。以前からアジア全域に広げたいというアイデアがありましたが、Edwinが参加したこともよい機会となり、ついに実現することができました。これまでの東南アジアに加え、中国、香港、日本、韓国、台湾へと対象を拡大し、70名を超えるデザイナーから100点以上の作品が集まっています」。さらにSuzyは、年々増加する来場者の様子についてこう話す。「当初から出展デザイナーと来場者、メーカーなどとの交流を想定していましたが、会場ではデザイナー同士が素材やディテールについて意見を交わしたり、ギャラリー関係者や建築家がコラボレーターを探しに訪れています。この会場で、具体的なプロジェクトへと発展する出会いが数多く生まれていることは、私たちにとってとても嬉しいことです」。
コペンハーゲンで建築を学んだ後、現在はロンドンで活動するPAN-PROJECTのYuriko Yagi(左)とKazumasa Takada (右)。「Entwined Maters」は事務所近くの縫製工場で手に入れたデニムの切れ端を、繋ぎ合わせることで巨大なロープに仕立てた
Hong Kong-Britishのバックグラウンドを持つEwan Lamm/Ultramar Studioによる照明器具「Citadel Collection」。東アジアの宮殿と天体の神話からインスピレーションを得て創作したデザインという
DESIGN SOCIALの狙いを語るEdwin。左手のミラーと中央のラタン製の物入れは、インドネシアのAlvin Tjitrowirjoによる「Ndare」。カリマンタン島のソーシャルエンタープライズHANDEPとのコラボレーションによるプロダクトだ
右側のテキスタイルは、東ティモールのNGOであるLO’UD Design Collectiveによる、東ティモールの伝統的な織物にインスピレーションを得た「Mosu」
今年のEMERGEを象徴する展示についてEdwinは、「デザイナーが描いたものが実際に形になるまでには、メーカーや職人など多くの人が関わります。私たちはそうした、ものづくりの背後にあるコミュニティーに光を当てたいと考え、“DESIGN SOCIAL”というセクションを設けました。例えば、東ティモールのLO'UD Design Collectiveによる伝統技法を生かしたテキスタイル『Mosu』は、デザインの素晴らしさだけでなく、その地域社会やつくり手にとって大きな意味を持つ作品なのです」と語る。
目利きのキュレーターがかたちづくるEMERGEは、アジアのハブであるシンガポールの立地を生かした、若きタレントが集う企画展として認知を広めてきた。今年、アジア全域に対象エリアを広げたことで、次世代デザイナーの登竜門として、また、アジアにルーツを持つクリエイターが世界から集う場としての存在意義を、より明確にした第4回展だったと感じた。
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