VILLA B by teamSTAR
Chiba, Japan
Villa B | teamSTAR | photography : Tetsuya Ito
DESIGN NOTE
敷地内で湧く源泉を用いた、多彩な温浴設備
ユニークな木トラスとテント屋根を組み合わせたガレージ
環境負荷に配慮したロー・インパクト建築
photography : Tetsuya Ito
words : Reiji Yamakura/IDREIT
エスティエイアールの佐竹永太郎さん率いるteamSTARがデザインした、房総半島の山間部に計画された「Villa B」は、“心と身体を癒し、趣味に没頭できるサンクチュアリ”をコンセプトに、施主が望んだ多種多様な温浴施設と大型ガレージを設けた分棟スタイルの別荘建築だ。
「当初は他県での計画が進んでいたのですが、クライアントが敷地内で温泉が出る土地を南房総で見つけたことから、この敷地に合わせて一から設計し直したプロジェクトです。多忙な日々を過ごすクライアントは、プライバシーが確立された場所で、心と身体を癒したいというご希望がありました。また、温泉好きな方だったので、個人邸ながらスーパー銭湯を超えるクオリティーの温浴設備を備えています」と佐竹さん。
計画地の山側のリトリートエリアでは、既存の日本家屋をメイン棟として内外装をリノベーションし、その左右にスパ棟とパーキング棟を新築。それらの3棟を透明のポリカーボネート素材の屋根を掛けた回廊で繋ぐ構成となっている。
「過去のやりとりで望まれるデザインの方向性は共有できていたので、当計画では、ここでどんな時間を過ごしたいのかを繰り返し聞きながら、温浴施設で一日じゅう過ごせるようにしたい、ハーブ園が欲しい、といった具体的な要望を整理していきました」。
メイン棟では既存の梁を一部構造補強してそのまま見せるデザインとし、天井には葦簀、壁には珪藻土を用いるなど自然素材を多用。また、脚にやさしい素材を求められたことから、床は全面畳敷きとしている。キッチンや洗面エリアは、家具的な脚付きの意匠とすることで、現代的な和のテイストに空間はまとめられた。ダイニングテーブルは、施主指定の天板に対し、鉄の作家古渡大さんの協力のもと、畳を痛めないよう接地面を広くとった特注製作の脚を組み合わせたものだ。
メイン棟内の自然光が注ぐバスルーム
メイン棟、パーキング棟、スパ棟に共通して用いた、光と風を通すオリジナルデザインの木製建具
また、このヴィラを特徴付けるのは、メイン棟と回廊で繋がれたスパ棟だ。一般的には、ジェットバスなどはメンテナンス上の理由から水道水が使われるが、このヴィラでは、敷地内から出る泉質を調査し、設備メーカーへの確認を経て、すべての設備に温泉水を用いたという。「スパ棟には、クライアントのこだわりで選んだ天照石(てんしょうせき)を用いた岩盤浴とミストサウナ、ドライサウナ、ジャクジー、シルキー、打たせ湯、立ち湯、電気風呂、ハンド、水風呂、薪で沸かす露天風呂があります。スパ棟内には、畳敷きで休憩できる部屋もあるので、クライアントは源泉掛け流しのさまざまなお風呂に繰り返し入りながら、このスパ棟でゆっくりと過ごせるようになっています」。そして、この建築に豊かな表情を与えるのが、各棟に用いられた、縦格子の木製建具だ。佐竹さんらは、日本建築の欄間のように閉じていても光の入るシーンにインスピレーションを得て、いわば“光の入る雨戸”として、閉じても光と風が抜けるオリジナルの建具を製作した。セキュリティーにも配慮したこの建具は各棟に配され、自然光と風が通り抜ける、心地よい室内空間をつくり出している。
温浴設備と並び、この別荘を際立たせるもう一つの要素が、敷地のエントランス側に建てられた木架構を用いたガレージだ。「丘の麓に位置するこのガレージはクライアントの趣味のためのエリアとして計画しています。ここにはサーキット走行する車を9台、上のパーキング棟には日常使いの車を3台の計12台が停められます。ガレージではRC壁の上部に、和小屋と洋小屋を併用した木製トラスを掛けることで、リトリートエリアの建築と呼応するデザインとしました。屋根には、光を透過する白いテント地を用いることで、昼間は光天井のように車をショーアップし、夜間には行灯のように見える視覚効果を意図しています」と佐竹さん。
敷地内のエントランス横に設けられた、9台を収納するガレージ
RC造の躯体の上に左右非対称の木トラスが掛かる。光を透過するテント地の屋根が光天井のような効果をもたらす
敷地内の道路側にガレージ、山側にメイン棟、スパ棟、パーキング棟が計画された
それぞれ異なる機能を持つ棟が集う集落のような構成と、心身をリフレッシュさせることを主眼とした和のテイストを取り入れたデザインには、“Old Meets New”をデザイン哲学に掲げ、ホスピタリティーデザインを多数手掛けてきたエスティエイアールの経験が生かされている。インタビューの最後に「このヴィラではデザイン上の工夫だけでなく、地元で採れる山武杉(さんぶすぎ)の利用、自然採光や太陽熱給湯システムの導入、高効率焼却炉を敷地内に設けて廃棄物の排出量を減らすこと、土の掘削量を抑える造成計画など、環境に対してロー・インパクトな計画とすることで、自然に寄り添う建築を実現できたことも大きな成果でした」と佐竹さんはプロジェクトを総括してくれた。
DETAIL
メイン棟、スパ棟、パーキング棟のためにオリジナル製作された、オーク材を用いたオリジナルの建具
岩盤浴のあるミストサウナ。壁はスプルース、床には天照石を用いている
座湯、立ち湯、電気風呂、打たせ湯の機能を複合した浴槽。壁には山武杉を用いた
スパ棟の温浴設備を示すダイアグラム
メイン棟との調和を意図して設けられたガレージの木トラス。屋根には不燃テント布を採用
ガレージの構造を示すダイアグラム
CREDIT
名称:Villa B
設計:teamSTAR
クリエイティブディレクター/アーキテクト:佐竹永太郎(エスティエイアール)
メインアーキテクト:奥野 幹(Moo Flat design)
アーキテクト:市江龍之介(ICE)
アシスタント:簗瀬晃希(エスティエイアール)
マネジメント:山田慎一郎 (Yamada Studio)
構造設計:AIG
設備設計:EM design
照明デザイン:Plus y
施工:三浦建設
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所在地:千葉県
竣工:2024年11月
敷地面積:5020 m2
建築面積:424.8 m2
延床面積:416.6 m2
用途:別荘
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仕上げ材料
〈メイン棟、スパ棟、パーキング棟〉
外装:山武杉ガラス塗装仕上げ(ビアンコートW/ビアンコジャパン)
床:床暖房の上畳敷き キッチン一部タイル貼り (フラメンタ/リビエラ)
壁:珪藻土仕上げ
天井:葭仕上げ(プランツボード/竹六商店)
造作キッチン、洗面台:オーク材染色UC艶消し
オリジナル木製建具:オーク材染色UC艶消し
スパ棟内浴室(ミストサウナ):壁/スプルース 床/天照石
スパ棟内浴室(立ち湯・ジェット・電気風呂):壁/山武杉 床/タイル貼り(アルティカ/リビエラ)
テラス:スチールフレーム+ ポリカーボネート
テラス床:タイル貼り(シエラ/マリスト)
〈ガレージ〉
壁:RC撥水材塗布
トラス:オウシュウカラマツ集成材 素地
屋根:不燃テント布