The Restaurant at L'Hôtel du Lac by Teruhiro Yanagihara Studio
Shiga, Japan
The Restaurant at L'Hôtel du Lac | Teruhiro Yanagihara Studio | photography: Takumi Ota
DESIGN NOTE
土地の個性を最大限に生かすコンセプト
琵琶湖で廃棄される貝殻を釉薬に用いた大判タイル
インテリアから食を提供する器まで一貫するデザイン
































photography: Takumi Ota
words : Reiji Yamakura/IDREIT
滋賀県北部の奥琵琶湖に位置するオーベルジュ「ロテル・デュ・ラク」内のレストランのデザインは、柳原照弘さん率いるTeruhiro Yanagihara Studio(以下TYS)が手掛けた。柳原さんと旧知の、H3 Food Designの菊池博文さんがこのレストランのプロデュースを担当しており、菊池さんからの依頼でプロジェクトの上流工程から店づくりに携わることになったという。
「陸の孤島のような立地だからこそ、この場所は日本のディスティネーションレストランになれると菊池さんは考え、僕たちに声を掛けてくれました。そして、イタリア語で"テリトーリオ"と呼ばれる、その土地でしかできないローカルな体験を価値として集客するエリア戦略をこの敷地にトレースしながら、菊池さんらと共に食の部分を含めて一緒に考えていきました」と柳原さんは包括的なプロジェクトとの関わりを振り返る。
リサーチを経て、かつてこのエリアは北陸から京都へ鯖を運ぶ鯖街道があり、人や文化がクロスする場所だったという歴史的背景から、食においては、琵琶湖周辺など滋賀県の食材、日本海の海産物といった立地上のポテンシャルを活用する方向性が定まっていく。そして、インテリアデザインについても食と同様に、土地の個性を最大限に生かそうと「空間のテロワール」というコンセプトのもとに、土地に縁のある素材を生かしたオリジナルの意匠が形づくられていった。
「調べてみると、琵琶湖の底にある土と信楽の土は同種だったことがわかったので、信楽を拠点とするNOTA_SHOPに依頼し、琵琶湖で真珠を養殖する時に廃棄物となる貝殻を釉薬に用いたオリジナルの大判タイルを焼いてもらい、カウンターの腰や壁などに用いています。また、研ぎ出しのカウンター天板には、琵琶湖に流れ込む安曇川の砂利を入れたり、天井や壁の左官にも地元の川砂を混ぜるなど、土地の素材を取り入れたオリジナル素材をもとにデザインを進めていきました」と柳原さん。
研ぎ出しのカウンターに並ぶのは、このレストランのためにNOTA_SHOPが制作したオリジナルの器。奥の壁面には琵琶湖の湖面からインスピレーションを得て青色のタイルが採用された
ホテル前から望む琵琶湖
また、オープンキッチン内に見えるタイルにも、彼らの考え方がよく現れている。「薪を使う焼き場まわりの壁面タイルは、一度焼いたタイルに琵琶湖の真珠貝の釉薬を掛けて焼き直すことであえて歪みを出しています。この空間には直線的なテラゾのカウンターがあり、シェフに照明をきっちりと当てる照明計画としているので、背景に綺麗なタイルがあると緊張感が出過ぎてしまう。そこで、カウンター内で調理に使う薪の炎の揺らぎに合わせるように、壁のタイルもより自然な風合いにすることで緊張感をやわらげたかった」というのだ。
メインの客席については、あくまで料理とシェフが主役という理由から、窓に背を向けてオープンキッチンを囲むようにレイアウトされた。この土地の魅力は自然の濃度にあるので、静けさや暗さを体験できるよう、あえてライトアップせず、レストランへの動線も暗さを保つようにしたという。そうした"土地らしさ"を尊重する気配りが、屋外に掲げられた信楽焼の店名サイン、タイルと同じ釉薬を用いたオリジナルの器、内装の設えに至るまで徹底されたことで、ローカル食材を活かした料理に呼応する空間体験が実現した。
DETAIL
壁に貼り込んだタイルとブラケット照明は、NOTA_SHOPによるオリジナル。タイル表面には、真珠貝の貝殻を用いた釉薬による光沢がある
オープンキッチンまわりの壁面の赤褐色のタイルは2度焼きすることであえて不規則な歪みを出している
天井と壁は地元の川砂を混ぜた左官仕上げ。施工はTeruhiro Yanagihara Studioがいつも依頼するという職人の手で仕上げられている
エントランス側に設けたバーカウンター。ハイスツールは柳原さんがデザインし、さしものかぐたかはしが制作したオリジナル
素焼きのサインもNOTA_SHOPが手掛けている
CREDIT
名称: The Restaurant at L'Hôtel du Lac
コンセプト開発:H3 Food Design
設計:Teruhiro Yanagihara Studio 柳原照弘
照明計画:NEW LIGHT POTTERY
左官:齊藤左官
家具:エムケーマテリアル さしものかぐたかはし
タイル・器:NOTA_SHOP
造園:西海園芸
施工:洛
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所在地:滋賀県長浜市西浅井町大浦2064
※ 2025年11月1日より営業再開予定
運営:新木産業株式会社
竣工:2022年4月
面積:客席、バー、オープンキッチン/235m2 屋外テラス/125m2
用途:レストラン
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仕上げ材料
屋外サイン:特注タイル(NOTA_SHOP)
床:左官押さえ仕上げ
壁:左官掻き落とし仕上げ オープンキッチン/特注タイル貼り 意匠壁・カウンター腰/一部特注タイル張り(NOTA_SHOP)
天井:左官撫でもの仕上げ
カウンター:左官研ぎ出し仕上げ
家具:バースツール(オリジナル制作/さしものかぐたかはし)、ダイニングチェア(&Tradition)
ブラケット照明:特注セラミック仕上げ(NOTA_SHOP)
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