Sushi KAUTO by cafe co.
Restaurant | Osaka, Japan
DESIGN NOTE
吉野杉を用いた柾目のカウンター
既存インテリアを生かした鮨店
photography : Yasunori Shimomura
words : Reiji Yamakura/IDREIT
cafe co.の森井良幸が、大阪・梅田でインテリアデザインを手掛けた「鮨 かうと」。20年ほど前にcafe co.がデザインした和食店「橙花(とうか)」の宴会場だったスペースを独立した鮨店にしたいという依頼から計画されたという。店内中央には、面取りなど特徴的なディテールを持つ杉柾目のカウンターが設けられた。
「コロナ禍で、宴会がまったく取れなくなった状況で相談を受けました。クライアントからの要望は、改装コストを抑えたいことと、客単価を上げたいという2点。そこで、まずカウンターからデザインを考えていきました。高級な鮨店ではヒノキのカウンターが好まれますが、費用の面から今回は吉野杉を使い、木工作家の森幸太郎さんにカウンター天板の製作を依頼しました」と森井は計画当初を振り返る。
奈良県・吉野で家具工房を営む森による家具は、数種類の小さなカンナで丁寧に仕上げていくことで、独特の奥行きのある木目が現れてくるという。
「森さんはかつて船大工の経験があり、接合部のディテールや表面の仕上げなど、いつも自分たちの想像を超えるものを提供してくれるので、最高の料理人に出会ったような感覚で家具づくりを依頼しています。彼の家具は、サンドペーパーではなく、カンナで仕上げるため、手触りがとても滑らかなことも特徴の一つです。杉は柔らかい素材ですが、表面には森さんが選んだガラス系のクリアコーティングを用いて染みや汚れへの対策を施しており、クライアントは喜んで使ってくれています」。
また、カウンター内には来店者の目を引きつける、氷室のようなヒノキ製扉の冷蔵庫が設置された。この店舗では、カウンターバックの壁の奥に和食店の厨房があるため、木製扉の奥は氷で冷やす方式ではなく、一般的な冷蔵庫をつくり付け、その背面の厨房から食材の出し入れができる機能的なものとしている。
そして、天井にも個性的なテクスチャーがある。「天井高さが2mもない条件でしたが、カウンター上にはエッジを薄く見せる天井を新設し、その表面には寒冷紗を張って塗装で仕上げました。和紙とはまた異なる雰囲気の布らしいテクスチャーがあり、かつ、ひび割れしないので基本的にメンテナンス不要というオリジナルの仕上げです」(森井)。新設した天井の下に見える既存の柱と梁はすべて既存であり、その表面を研磨することで素地の表情を現している。ともに設計を担当したcafe co.のチーフデザイナー柳楽博行は、「カウンター以外の部分では、コスト上の制約から使えるものは生かそうという考え方をもとに、床の御影石は既存のままとし、かつての宴会場を仕切る鴨居は、歴史を見せるかのように手を付けずに残しました。店舗への入り口は既存の格子の一部を、新たに入手したアンティーク扉のサイズに合わせて切り欠き、にじり口のような鮨店専用のエントランスとして再構成しています」と既存部を生かした設計を語る。
全体を振り返り、森井は「インテリアデザイナーという立場から環境問題を考えると、綺麗ごとばかりは言えませんが、長く使える材料を選ぶことが正しいのではないかと思い、昨今はそうした提案をすることが多くなりました。この店舗の吉野杉のカウンターや一部に新設した板壁は、手入れをすれば長く使えるものですし、美しい柾目の材は、将来別のものに再利用できるかもしれない。そんな思いでデザインをしました。この空間では既存を生かし、制約の中で工夫を重ねたことで、デザインは金額だけではないと改めて感じたプロジェクトでした」と語ってくれた。
(文中敬称略)
DETAIL
所在地:大阪府大阪市北区曽根崎新地2-5-28
経営:株式会社 オペレーションファクトリー
用途:レストラン
開業:2020年10月
面積:31.14m2
仕上げ材料:
壁:杉柾目 目板張り
壁:塗り壁 ワラスサ撫切り仕上げ
天井:PB下地 寒冷紗の上塗装仕上げ
カウンター:杉柾目無垢材クリアコーティング仕上げ
つくり付け冷蔵庫:ヒノキ製扉