SNOW PEAK LAND STATION Kyoto Arashiyama by cafe co.

Kyoto, Japan

SNOW PEAK LAND STATION Kyoto Arashiyama | cafe co. | photography : Yasunori Shimomura

SNOW PEAK LAND STATION Kyoto Arashiyama | cafe co. | photography : Yasunori Shimomura

 

DESIGN NOTE

  • 築100年の旅館を曳家したリノベーション

  • 既存を生かすことに徹したデザイン

  • 竹を型枠としたカフェカウンター

EN

photography : Yasunori Shimomura

words : Rika Ito+IDREIT

 
 

豊かな自然のある京都・嵐山にオープンした「スノーピークランドステーション京都嵐山」は、アウトドアブランドのスノーピークが「衣・食・住」を提案するコンセプトストアだ。デザインは森井良幸率いるcafe co.が手掛けている。もともと旅館として建てられ、近年は料亭として使われてきた築約100年の建物を改修し、カフェと物販、宿泊施設を備える体験型施設として設えた。

 
かつて旅館として建てられた木造建築を、前面道路側に曳家し、店舗として再生している。

かつて旅館として建てられた木造建築を、前面道路側に曳家し、店舗として再生している。

 

「この建築を気に入っていたスノーピークの代表からは、『歴史ある既存建物の姿を残したい』という要望があったので、もとの状態をきちんと残し、構造など弱った部分は補修して生かす方向でプランニングを進めました」と森井は計画当初を振り返る。敷地内には石畳のアプローチが延び、東西に長い建物の入り口側にカフェ、中央に物販スペースがあり、裏庭にはモバイルハウス「住箱」を利用した宿泊棟が並ぶ。

この計画でまず驚かされたのは、もとの建築を曳家で移動したことだ。「かつて、建物は敷地内のかなり奥まった場所、今の宿泊施設がある側に立っていました。建物のオーナーもクライアント側も既存建築を生かす意向だったこと、また、メインストリートに近づけなければ商売ができないという考えから、双方の希望を満たす解として曳家を提案しました」。曳家時にジャッキで持ち上げた建物を移動するために鉄骨を通した穴は、工事後に塞がずに小窓として残し、生まれ変わる過程を意匠として残している。

全体のデザインコンセプトを聞くと、「足すことだけがデザインではないと考え、元の姿を正しく残すことを徹底しました。既存の床の間や欄間、左官壁、木製建具やお手洗いのサインなどは補修しながら使えるものは残し、一部新しくつくった建具はもとの形状に合わせてデザインしています。畳敷きの床は板張りに変更しましたが、新しい材料を継いだ部分では新旧の材をそのまま見せるなど、手の形跡が見える空間としました」と語る。新設した空調はスリット内に隠すなど、一見、デザインしてないように見えて、もとの空間を保つことに手間とコストを掛けたという。物販エリアでは靴を脱いで上がるスタイルにしたのも、日本建築の感覚を残そうとした表現の一つだ。

また、物販スペースにダウンライトをいっさい設けない照明計画もユニークだ。「来店のピークとなる時間帯は昼間で、外光が入る環境でした。また、商品はアウトドア用品なので、本来、自然光の中で見るものなので、商業施設内ではあり得ない方法ですが思い切ってダウンライトは付けず、既存のペンダントを中心に計画しました」。既存のペンダント照明は和紙を張り替えて活用し、オリジナルのハンガー什器には、真下の商品を照らす照明を設けることで、必要な照度を補っている。ディスプレイ什器には、繊細な素材づかいが特徴的なKITA WORKSの真鍮キャビネットや、pejiteのアンティーク家具などが使われた。その意図は「軽やかな什器にしたかったことと、彼らの古典的なものづくりがこの店舗にぴったりだと思ったから」という。

 
ペンダント照明は改修前に使われていた器具の和紙を張り替えて再利用したもの。左手のハンガー什器は、上部に照明器具を設けたオリジナル

ペンダント照明は改修前に使われていた器具の和紙を張り替えて再利用したもの。左手のハンガー什器は、上部に照明器具を設けたオリジナル

かつての床の間にある小窓は、曳家した際に鉄骨を通すために開けた穴をそのまま残したもの。

かつての床の間にある小窓は、曳家した際に鉄骨を通すために開けた穴をそのまま残したもの。

 

一方、エントランス側に設けたカフェスペースでは、型枠に竹を用いて節の模様までくっきりとそのテクスチャーを写し取ったコンクリート製のカウンターが来店者を迎える。2階の床の一部を取り払い、明るい吹き抜け空間としたイートインスペースには、構造材を天板にリメイクしたテーブルが据えられた。これは、今回の改修より以前に、建築の一部を解体した時の材料を再利用したものだ。

全体を振り返り、森井は「こんな時期で普段よりは時間があったので、数多く現場に行くことができました。曳家した時の穴を窓として残した部分など、現場でアドリブ的なデザインができたことが、ディテールや仕上がりに影響していると思います。この穴なんて、僕らが行かなければ絶対に埋められていたでしょうから」と笑う。また、この改修では表から見える部分を整えるだけでなく、構造計算をもとに、屋根瓦の量を減らしたり構造補強の金物を足すなど耐震改修を施したことも大きなポイントだったという。これまでの歴史に敬意を表し、より洗練された姿へとアップデートしたことで、この地の記憶を未来へつなぐプロジェクトとなった。

(文中敬称略)

 

DETAIL

エントランス前にあるコンクリート製カフェカウンターは、型枠に竹を用いた。

エントランス前にあるコンクリート製カフェカウンターは、型枠に竹を用いた。

老朽化した構造材の一部は、新材で補強して再生し、その形跡が見える状態としている。

老朽化した構造材の一部は、新材で補強して再生し、その形跡が見える状態としている。

カフェエリアのテーブルは、この建築に使われていた構造材を組み合わせてリ・デザインしたもの。天井のペンダントはイサム・ノグチのAKARIシリーズ

カフェエリアのテーブルは、この建築に使われていた構造材を組み合わせてリ・デザインしたもの。天井のペンダントはイサム・ノグチのAKARIシリーズ

繊細なディスプレイ什器はcafe co.のデザインにより、岡山県のKITA WORKSが製作したもの。

繊細なディスプレイ什器はcafe co.のデザインにより、岡山県のKITA WORKSが製作したもの。

裏庭の宿泊エリア。隈研吾とスノーピークが共同開発したというモバイルハウス「住箱-JYUBAKO-」に泊まることができる。

裏庭の宿泊エリア。隈研吾とスノーピークが共同開発したというモバイルハウス「住箱-JYUBAKO-」に泊まることができる。

 

CREDIT

名称:スノーピークランドステーション京都嵐山

設計:cafe co. 森井良幸 難波浩司 小倉基弘(建築担当)

植栽:GREEN SPACE

家具・什器:KITA WORKS

特注ハンガー・ミラー:八木製作所

スツール:木工 森

石ベンチ・踏石:和泉屋石材店

施工:小林工務店

所在地:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺今堀町7

経営:株式会社スノーピーク

用途:複合施設(物販、カフェ、宿泊)

開業:2020年8月

面積:314.41m2/1階260.7m2、2階53.71m2

仕上げ材料:

床:杉材フローリング

壁:既存土壁補修

天井:既存木天井補修

カフェカウンター:腰/コンクリート竹化粧型枠 + 天板(ステンレス2B仕上げ)

カフェテーブル:解体構造材再利用

什器:ナラ無垢材OS+内部ナラ突き板貼り

ペンダント照明:AKARI(オゼキ)

 

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