Interview with TAKASHI KITA/KITA WORKS —part 2
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photography : KITA WORKS
words : Reiji Yamakura/IDREIT
この記事はインタビュー後半です。前半はこちら「Interview with TAKASHI KITA/KITA WORKS —part1」
— 続いて、KITA WORKSのスタンダードとして販売中のハイチェアについて教えてください。
これは、飲食店のカウンター席で使いたいという依頼からデザインしたものです。椅子はテーブルや棚に比べて難しいので、開発に時間はかかりましたが、自分が座るものをあれこれ考えるのが楽しいので、これまで結構な数の椅子やスツールをつくってきました。
— 家具に使う木部の加工は、外注するのでなく、自社工場で行うのですか?
はい。人に伝えるのが得意でないのと、自分で思った通りの形にできないと納得できないので、試行錯誤しながらすべて自分たちのところで加工しています。ハイチェアは、積層合板をプレス成形した背もたれと座面の2枚のパーツを組み合わせています。大きな家具工場であれば、背もたれと座面を一つのパーツとして成形することは難しくないと思いますが、うちにはそこまでの設備がないので、曲面に成形した二つを金物で接合しました。制約から生まれたデザインですが、金具がよいアクセントとなっていると思います。足置きの形状は、床に接する部分の形状と、座面の要素を取り入れるように考えたものです。
— スタンダードシリーズのプロダクトでもう一つ、とても華奢なウォールシェルフのことを教えてください。このフレームは径は何ミリでしょうか。
6mm角のスチールです。
— え、6mm……?!
このシェルフは、自分たちのショールームの壁にシェルフをつけたいと思ったのがきっかけでして。壁に1900×800mmのコンパネを貼っているのですが、その規格サイズに合うように考えたものです。
— 6mmで強度は足りるのでしょうか。
はい。自立式のシェルフだと6mmではぐらついて実用的でないのですが、壁にビスでもむことで使えるものになっています。限界まで細くすることで、棚の存在が目立たず、棚に置いてあるものがよく見えるようになりました。
— なるほど。細い部材でつくりたいというデザイナーは多いと思うのですが、用途により製作者が安全をみた寸法となるので、ここまで細いものは見かけないのでしょうね。木多さんの場合は、自身で製作まで完結できるので、限界まで攻めていけるように思いました。
確かにそうですね。これくらい細ければイメージと合うというところから始めて、試作してダメならつくり直せばいいと考えているので、トライすることはまったく苦ではないですね。このシェルフは、手間は掛かりますが、技術的に難しいことは実はあまりないのです。棚板は、置いたものが浮いたように見えるガラスと木製の二種類です。このウォールシェルフも真鍮キャビネットも、ガラス屋さんには細かい作業に対応してもらい、いつも助けてもらっています。
— ここまで事例を元に話を聞いてきましたが、最後に、ものづくりの際に大切にしていることを教えてください。
KITA WORKSを立ち上げたときから考えていることの一つは、強度以上の太さは要らないし、必要でない部材はつけないということです。日本の“もったいない”という考え方や、北欧家具のデザインの影響があると思いますし、ミース・ファンデルローエの「Less is more」という思想に共感しており、その言葉はずっと心にあります。
ただ、この2、3年は、シンプルにするだけではなく、何か別の要素を加えたデザインの方法もあるのではないかと考えているところです。例えば、チェアNo.9は、一本のスチールの丸パイプを曲げ加工することでアームチェアをつくろうと試みたもので、つくり方から発想しました。他にも、スリーレッグチェアのレザークッションのように、分厚い座面と細い脚というバランスを試してみたり、用途を超えた要素を取り入れたデザインを考えたりもしています。
— なるほど。一本の材料からというのは、まさに工房で加工するプロセスから生まれたデザインですね。最後に今製作しているものや、今後の予定を聞かせてください。
新作ではありませんが、いま「KITA “Brass”」で展示したものを発展させて、真鍮でオープンシェルフをつくりたいと思っています。また、7年ほど前にデザインした折りたたみのできる椅子の改良に取り組んでいます。いま、鉄と木材の加工は自社工場である程度できるので、将来的にはファブリックやレザーなど張り物を本格的に扱えるパートナーがいると、椅子の張り地などで新しい表現ができるのでは、と考えています。
スチールの加工と溶接という確固たるバックボーンがあることで生まれるKITA WORKSの家具。かつて、尾道の複合施設「LOG」に納めたスタジオ・ムンバイとの仕事では、「当初、コミュニケーションが難しいと感じたが、美しいと思うディテールや、違和感を持つ部分に共通点があり、お互いのイメージを共有することができた」と振り返るように、木多のプロダクトには国境や背景を超えて伝わる価値がある。工房同士の連携があり、ものづくりに適した岡山のカルチャーと、納得のいく方法で最終品まで仕上げていく実直な方法が、彼らのオリジナリティーを育んでいるのだろう。