Interview with TAKASHI KITA/KITA WORKS —part 1
1/2
photography : KITA WORKS
words : Reiji Yamakura/IDREIT
岡山県津山市で、家業である溶接工場を拠点にKITA WORKSを立ち上げ、オリジナル家具や什器の製作を手掛ける木多隆志さんに、2020年2月に岡山市内のギャラリー「MÜTTE」で開催された個展「KITA “Brass”」で展示した繊細な真鍮製キャビネットのデザインや、普段のものづくりで大切にしていることなどを聞いた。
— こんにちは。まず、家具づくりを始めたきっかけを教えてください。
父が創業した木多熔接工業で金属の加工や溶接を一通り身につけた後、2007年頃に、自宅で使う家具をつくりたいと思ったことがきっかけでした。それまでは機械部品を扱うことが中心だったので、日常に使うものというのは自分にとってとても新鮮で、テーブルや食器棚などの製作に取り組みました。
— その時は、扱い慣れているスチールでつくったのでしょうか。
当時、木に魅力を感じていたので、木工を得意とする友人らに教わりながら、木と鉄でつくりました。デザインは独学ですが、自分で使いたいものを自らデザインし、いろいろなディテールを試しながらつくることがとても楽しくて、その後、工場の一角で家具をつくるようになりました。そうした取り組みを始めて3年ほど経ち、家具や特注什器を仕事の中心にしていこうと2009年に社名をKITA WORKSに改め、今に至ります。
— そうだったのですね。半年ほど前の個展「KITA “Brass”」に真鍮製のキャビネットを出展した経緯を教えてください。
かつて個展をしたことのあったギャラリーオーナーに声を掛けてもらったことがきっかけです。内容を話し合う過程で、僕が以前から真鍮のものづくりに取り組んでいることを知っていいたオーナーから、キャビネットを提案されました。これまでも真鍮のドアハンドルや小物を製作したことはありました。真鍮は技術的にハードルが高いので複雑なものは断っていたのですが、いつか手掛けてみたいという気持ちがくすぶっているタイミングだったので、ものづくりの気持ちを奮い立たせる提案だったのです。今しかないとやる気に火が着き、そこから夢中で製作を始めました。
— 真鍮の加工は、どんな点が難しいのでしょうか。
真鍮は合金なので、融点が低い成分から気化してしまうので、溶接する場合にはロウ付けといって、接着材のようなものを間に流し込んで固定します。キャビネットをつくるには、一箇所に2方向から部材を溶接しなければいけないので、その接合部の強度を保つことが難しいのです。数年前に、ヨーロッパでつくられたアンティークの真鍮キャビネットを見たことがあり、技術的に不可能でないことはわかっていたので、試作を繰り返して一つひとつ課題を解決していきました。
— デザイン上、こだわったことを教えてください。
このキャビネットに限ったことではないのですが、自分では必要最低限の強度を保つことと同時に、必要以上の太さは無駄だという思いがあるので、できる限り細い材で構成しました。
また、中空パイプではなく、すべて無垢の素材を使ったので、太い部材では重量が増してしまうという理由もあります。この展示会のために、観音開きタイプを一つ、片開きを二つ、ウォールシェルフを二つの計五点を製作したのですが、どれも必要最低限の径にしたかったので、ウォールシェルフでは12mm、大型のキャビネットでは15mmというように、数種類の部材を使い分けています。寸法的には限界の細さですが、ガラスを嵌めることで面としての強度を保っています。僕は、見た目だけ良くても壊れるようなものは絶対にダメだと思っているので、実用性と強度は、常に気をつけているところです。
— なるほど。観音開きの扉の中央部がとても繊細な納まりで美しいですが、どんな工夫をしているのでしょうか。
ここはとてもこだわったところで、扉が中央で重なる部分は、扉の枠が15mm幅とすると、普通に2枚を合わせれば30mmになります。そこで、正面から見た時にその15mmの枠がぴったり重なるようにして、できるだけ部材の細さが際立つよう工夫しました。また、ロック機構も独自に開発したもので、中央のツマミを90°回転することでロックが解除されるようになっています。
— そこまでオリジナルなのですね! 真鍮そのものの色合いも素敵ですね。
真鍮は、ハイライト部分のきらめきや、鈍く光る質感が独特で、真鍮色塗装とはまったく異なるものだと思っています。また、経年変化していく様子も楽しめる。過去にスチール製キャビネットを真鍮色塗装で仕上げたことがありますが、やはり塗装ではのっぺりとした印象になってしまうのですね。
展示会では、ランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんがキャビネットを気に入ってくださり、その後、行われた中原さんの展示会に使ってもらいました。また、このギャラリーでは3年連続で個展を開催する計画になので、いま、来年に向けて準備をしようとしているところです。
— それは楽しみです。続いて、かつて鳥取市内のレストラン「FEE DES NEIGES」(フェデネージュ)のために製作したスチール製のサッシについて教えてください。特注品では建具のオーダーなどもあるのですね。
はい。ここは、過去の家具の製作を手掛けたことのあるレストランオーナーからの依頼で、店舗の改装時にサッシの製作を依頼されました。この窓は、8枚のガラスが1枚おきに片開きで外側に開くようになっており、先ほどの真鍮キャビネットの観音開き扉と同じ考え方で、閉めた時にフレームの一部重なり、縦のラインが均等に見えるようにしています。
— その結果、とてもシャープな印象となるのですね。
できるだけ繊細に見えるよう各部材を選び、閉めた時に、1枚おきにあるフィックスガラスと片開き部分の見た目がそろうように工夫しました。扉の納め方はキャビネットなどで実験を重ねていたので、技術的にはそれらの応用です。また、片開き窓の下にあるストッパーやネジ部分はシンプルなものですが、既製品ではバランスが悪いので、すべてオリジナルで製作しました。
— すべてカスタムメイドというのはいいですね。続いて……
(後半に続く)
木多隆志さんへのインタビュー後半はこちら