Interview with MAKOTO KOIZUMI / Koizumi Studio —part 2

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研ぎ澄ますことで見えてくる、これしかないという嘘のないかたちがある

— Makoto Koizumi / Koizumi Studio

photography : Nacasa & Partners

words : Reiji Yamakura/IDREIT

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この記事はインタビュー後半です。前半はこちら「Interview with MAKOTO KOIZUMI / Koizumi Studio —part1


 

— 使う建材からスタイリングまで、目線が一貫しているというのは素敵ですね。ここまでお聞きした Plantation青山店と、同・銀座店に限らず、小泉さんが普段、空間デザインで大切にしていることを教えてください。 

大事にしていることは二つあります。一つは、「Plantation」の話と重複しますが、持続性です。ただ長く使うことを目指す、ということではなく、例えば数日間しか使わない展示会場は発泡スチロールや段ボールで簡易につくってみたり、将来使いわませる仕組みを考えるなど、使用サイクルの長短に応じてデザインを使い分けたいと思っています。

 
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Koizumi Studioによる、発泡スチロールを用いた2001年のPlantationの展示会の会場デザイン。

Koizumi Studioによる、発泡スチロールを用いた2001年のPlantationの展示会の会場デザイン。

 

また、つくるだけでなく、使う方たちが使い続けたいと思えるものになっているのかどうか、長く使えることがプログラムとして伝わっているかを常に意識します。かつて設計した「tocoro cafe」(2005年開業)という都内のカフェでは、10年ほどの営業を終えた後に、解体した内装材をオーナーが保存していて、その後、別の場所で彼らのお菓子づくりのアトリエとして再構築したことがありました。これは、設計者としてはとても嬉しいことでしたね。 

— 耐用年数だけでなく、ずっと使いたいと思ってもらうことが大事なのですね。 

そう、人がどう持続させたいと思うかが大切なのです。「Plantation 銀座店」の白く見える壁は、実は不要になったブランドのDMやタグなど廃棄する紙を混ぜ込んだ漆喰で仕上げました。何を混ぜるかはブランドの皆さんに考えてもらったのですが、その結果、お店で働く方たちを含め、より“自分ごと”として店舗を感じてもらうことができました。また、そうなるとお店に来るお客さんにも伝えたくなるようで、「人の記憶の中で持続していく」という理想的な状態になっています。 

 
「Plantation 銀座店」の壁は、廃棄するブランドのDMやタグなどをシュレッダーに掛けたものを混ぜ込んだオリジナルの漆喰により、独特の風合いのある表情に仕上げられた。こうした“ひと手間”が、ブランドと店舗への愛着を生むきっかけとして機能している。

「Plantation 銀座店」の壁は、廃棄するブランドのDMやタグなどをシュレッダーに掛けたものを混ぜ込んだオリジナルの漆喰により、独特の風合いのある表情に仕上げられた。こうした“ひと手間”が、ブランドと店舗への愛着を生むきっかけとして機能している。

「Plantation 青山店」に用いられた、華奢なハンガー什器。(詳細は、インタビュー前半参照)

「Plantation 青山店」に用いられた、華奢なハンガー什器。(詳細は、インタビュー前半参照)

 

二つあるという、もう一つは何でしょうか。 

少し抽象的に聞こえるかもしれませんが、「用に向けて、どう向かい合うか」ということをいつも考えています。僕らは、空間をデザインする際に数千、数万の線を引きますが、一本一本の線に責任を持たなければいけない。

そして、安易な線や装飾的な線ではなく、理にかなう線しか引けない体質になっているのですね。例えば、青山店のハンガーパイプを支える垂木の切り欠きは、ちょっと削ることで強度が増す。そうした意味を常に探りながらデザインをしています。

一般的にデザインというと、図と地の関係で言うならば、図をどうつくるかに関心がいくと思うのですが、僕は、図の部分では最小限に抑えて、どうやって地の部分をつくり、その余白をいかにうまく使ってもらえるかを考える。住宅設計などは特にそうした考えで進めていくので、決して派手なデザインにはならないわけです。 

— なるほど。小泉さんが手掛けた空間からは、要素を絞り込んでつくる印象を受けますが、デザインにおいて、日本らしさを意識することはあるのでしょうか。 

日本らしくしようと意識することは特にありません。ミニマムな表現を日本らしいと呼ぶ人は多いですが、僕は要素を削ぎ落とすことがミニマムではないと思っています。いつも僕は「不用を無くして、用を足す」と言うのですが、自分のデザインでは、必要ないものを無くした上に、足し算で“用”を足し、その結果、ミニマムなものができるように感じます。

また、日本らしさという意味では、弱いから補強材を加えるのではなく、ある部分を削って接合することで強度を出すように、ちょっとした知恵で解決していく創意工夫や、一本の線を引くために徹底的に考え、これで十分という方法を見つけ出す過程が日本的だと感じます。

 
「Plantation 銀座店」の窓際には、ディスプレイテーブルとしても使うことのできるベンチが設けられた。ベンチやテーブルには国産杉のパネル材を使用。

「Plantation 銀座店」の窓際には、ディスプレイテーブルとしても使うことのできるベンチが設けられた。ベンチやテーブルには国産杉のパネル材を使用。

Plantationの店舗で使われている木製のドアハンドル。(以下3点, 写真提供/Koizumi Studio)

Plantationの店舗で使われている木製のドアハンドル。(以下3点, 写真提供/Koizumi Studio)

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川原で見つけた小石を壁面フックとして、Plantationのデザインに取り込んでいる。

川原で見つけた小石を壁面フックとして、Plantationのデザインに取り込んでいる。

 

一方で、僕が手掛けた空間では、素材から現れる日本らしさはあるかもしれませんね。Plantationの店舗では、杉、鉄、漆喰など、経年変化していくものだけを使っています。例えば木材であれば、信頼できる国産材を使いたいですし、海外の材を使う場合にも適正に採ったものを使いたい。要は安心して使える素材を使いたいのです。使う人が説明を受けて、それはいいよねと納得してもらえるものでつくりたいし、そこで嘘をつきたくない。

この感覚はデザインを考える時も同様です。デザインする際に、ごまかして何かで補強する方法ではなく、研ぎ澄ましていくことで見えてくる、これしかないという嘘の無いかたちがある。そんな線が見つかると嬉しいのです。


移り変わりの激しいファッションの世界で、一つのブランドの店舗を20年間手掛けているという事実と、「モノの持続性よりも、人の持続性。人がどう持続させたいと思うかが大切」という言葉が、デザイナー・小泉誠の一貫する姿勢をよく表している。丁寧なものづくりの背景には、ユーザーが愛着を持って使い続けられるデザインへの飽くなき追求と、誠実に一本の線と向き合う、コイズミスタジオが長年大切にしてきた信念がある。

(文中敬称略)

 
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MAKOTO KOIZUMI

小泉 誠 / 1960年東京生まれ。デザイナー原兆英と原成光に師事。1990年 Koizumi Studio設立。2003年にデザインを伝える場として「こいずみ道具店」を開設。建築から箸置きまで生活に関わる全てのデザインを手掛け、現在は日本全国のものづくりの現場と恊働を続けている。2012年毎日デザイン賞受賞。2015年日本クラフト展大賞。

www.koizumi-studio.jp

 
 

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