Interview with MAKOTO KOIZUMI / Koizumi Studio —part 1
家具、生活道具などのプロダクトから、住宅設計、商業空間まで幅広い分野で、一貫したフィロソフィーに基づくデザインを手掛ける小泉誠さん。1999年からは、ファッションブランド「Plantation(プランテーション)」の店舗デザインを継続している。銀座と青山で、同ブランドの路面店を続けて二つ手掛けたという小泉さんに、それぞれのデザインコンセプトとともに、普段のデザインで大切にしていることを聞いた。
— 2019年9月開業の「Plantation 銀座店」、そして、同年11月開業の「Plantation 青山店」の計画にあたり、当初どのようなことを考えたのですか。
Plantationとの仕事は、1982年のブランド創業時からずっと設計を手掛けていた近藤康夫さんの後を受けて、1999年にスタートしたもので、今年で21年目になりました。「本物の素材と着心地にこだわった日常着」というブランドのコンセプトは創業以来変わっていません。僕たちが設計を手掛けるようになって約20年の間、初期の店舗と見た目は多少変わっていますが、一貫して「持続可能なもの」というテーマでデザインを続けています。
同ブランドの店づくりでは百貨店内のプロジェクトが多いのですが、今回はほぼ同時に二つの路面店をつくる計画でした。そこで、あらためて店舗のイメージを考え直す機会として、ブランドの中心にいるメンバーたちと話合いを重ね、本物の素材を使うという基本は変わりませんが、「一歩先をゆく日常空間」を目指すことになりました。
— まずは、垂木で支えるハンガー什器が特徴的な青山店について聞かせてください。
青山店は期間限定の可能性があり、ローコストとその後の転用を考慮するという条件下で、ここでなし得る持続の方法を探りながら、限られた要素で何ができるかを考えました。図と地の関係で言うと、わずかな部材で“図”となるものを設け、余白としての“地”を丁寧につくろう、という考え方をしています。1階で図となるのは、乱立させた垂木で支えるハンガーだけ、という極めてシンプルな空間です。開口部側から見ると、1本のハンガーがミラーに映り込み、ずっと続いているように見えるものです。
— 垂木自体が細く、また、本数が少ないのでとても華奢で美しいですね。
使用した材は、一般的に垂木として流通している30x40mmサイズよりもさらに細い、30mm角の国産ツガ材を用いました。ツガにしたのは、細長い部材には広葉樹よりも針葉樹が向いているのと、杉よりも硬い材が必要だったという理由です。円弧を描くハンガーパイプと垂木の接合部では、数少ない垂木で支えるために、垂木をわずかにパイプの断面形状に切り欠いて面で支えることで、ねじれを抑える工夫を施しました。また、数本の垂木は天井に固定することで、全体のバランスを保っています。
— 地下にある箱のようなスペースは何でしょうか。
このカゴのような囲いは、内と外という“場”をつくるために設けたもので、用途を限定せず自由に使ってもらっています。フレームには、1階のハンガーと同じツガの角材を使い、部材を傾けて台形を複数つくることで面としての強度を出しています。また、施工会社からの提案で、より安定させるために接合部分を相じゃくりにしました。地下は、“図”としての二つの塊、この囲いとフィッティングルームをつくり、その周囲を売り場としてどう活かすか、という考え方で設計したものです。
1階と地下をつなぐ壁には、鉄板を使いました。これまでPlantationの店舗で鉄は使ってこなかったのですが、ブランドの方たちと新しい店舗のあり方を探る中で、素材の一つとして鉄を加えたいという提案があり、採用したものです。彼らはファッションに使うマテリアルに対して、いつも素性を理解した上でどう大切に使うかを考えるのですが、鉄はそうした文脈とも重なる素材です。
— 地下1階の壁際にあるハンガー什器も個性的ですね。
実はこの什器は、かつて2006年の展示会のためにデザインしたもので、再び同じデザインでつくり直しました。逆V字型の脚とハンガーを掛ける水平材は接着やビス留めではなく、インローで差し込んでいるだけなので解体と組み立てが容易なものです。今後、お店が移転した時でも、使い続けられることを想定しました。
このブランドでは、年間4、5店のデザインをしますが、内装はあまりつくり込まず、箱ものの什器などは使い回せるデザインを心掛け、細部では、木を使ったオリジナルのドアハンドルや、石ころでつくる壁付けのフックなどを改装や移転後にも使っています。
— 長く使えるというのはいいですね。続いて、銀座店について教えてください。
ここはとても小さい空間ですが、その中で“図”としてフィッティングルームとストックルームをコアのように一角にまとめ、他はハンガーを吊ることで人が通る場所をつくっています。コアと、杉材でつくった一部の造作以外はすべて白、余白のままで良いという考え方です。
杉のパネルでつくったレジカウンターには、ソファを一体化することで、省スペースながらきちんと接客ができるようにしました。また、窓際には、ベンチとしてもディスプレーテーブルとしても使えるような台を設けました。こうした、二つの機能を兼ねるデザインというのは、日本的な考え方かもしれませんね。
— 店内にあるアンティークもよい雰囲気です。
銀座店では、オープン時のスタイリングも初めて僕たちの事務所で手掛けました。壁に掛けた鉄製の棒は、ウナギ掻きという古道具です。とても美しいので個人的に何本か持っているのですが、もともと廃刀令の時に日本刀を漁の道具としてつくり直したものなんです。竣工後に、各部のディテールやオブジェの背景などを説明すると店舗の人たちはとても喜んでくれました。
後半に続く
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