Interview with YUSUKE SEKI—part 2
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photography: Takumi Ota, Tomooki Kengaku
words : Reiji Yamakura/IDREIT
この記事はインタビュー後半です。前半はこちら「Interview with YUSUKE SEKI —part1」
— 続いて、どうしても関さんに発想のきっかけを聞きたかった、大阪のファッションストア「I SEE ALL」についても聞かせてください。
ここは、大阪でセレクトショップを運営しているオーナーからの依頼でした。とても低予算のプロジェクトだったので当初は難しいと考えていたのですが、大阪の歴史あるビル内にある出店場所を見たところ、既存の梁やコーナーの窓などがとても魅力的で、それらを生かして何かができるのではないかという直感から引き受けることにしました。また、ちょうどデザインの相談を受けたころに、古い雑誌の名前から取ったそうなのですが、「I SEE ALL」という店名が決まり、その言葉通り、すべてを隠さず見せてしまおう、というコンセプトを基にデザインを進めました。
— 空間の中で目を引く、バックヤードとショップの境界にある、赤い線のような棚はどうやって生まれたのでしょうか。
「空間に線を引く」というアイデアから考えたものです。この棚は、平面図上で見ると、ただの2本線なので、壁のように見えるかもしれません。僕の中では、この線は二次元と三次元を行き来しているようなものとして考えました。また、色を鮮やかな赤にしたのは、図面上のやりとりでは注意事項を赤い線で書き加えますが、そのイメージから赤にしています。
— この赤い線の奥はバックヤードということですが、フィッティングルームは境界の奥にあるのですね。
はい、この赤い棚の下をくぐってフィッティングルームを使うレイアウトです。赤い棚については、両サイドの壁だけで支えたかったので、コの字型のスチールの部材を上下に重ね、軽量化を計りながら十分な強度を保つようにしました。支えたり吊ったりせずに、4m以上の長さをこの細い物体が浮いているのは、生で見るとなかなか面白いものです。実際には、上に商品を載せたり本をディスプレイしたり、自由に使ってもらっています。また、この赤いラインだけで売り場とバックヤードを区切り、壁を立てなかったのは、ショップ側から美しい開口部を見せたかったという理由もあります。
— なるほど。引き出しの什器も、半分がスケルトンのようになっていてユニークです。
これも、予算が少ないので側板を無くし、工程を一つでも減らそうというアイデアからのデザインです。スライドレールをそのまま見せる引き出しなんて、そうないと思いますが、これも赤い棚と同様、“I SEE ALL”というコンセプトに繋がっています。
— すべて、一貫した考えが元になっているのですね。
はい。このショップでは、細く赤い線がこの場所に一本にあるだけで、空間を一変させるものになりました。普段から僕は、設計者の意図と関係なく偶然にできた謎のディテールや、無作為に後付けされたものなど、街にある変わったデザインを採集する癖があるのですが、そうした習性というか、その場所固有の状況から考えるようなモノの見方が生かされたように思います。また、このプロジェクトを通して、予算がないからデザインができないということは無い、と改めて感じました。
— 最後にもう一つ、2019年に3ヶ月の期間限定で京都の四条河原町にオープンした「Bang & Olufsen Pop-Up Store Kyoto」での、現場打ちコンクリートを使ったデザインについて教えてください。
このポップアップストアは、あるファッションストアの跡地を期間限定で利用するという出店形態でした。Bang & Olufsenの製品が、手作業で丁寧に仕上げられているというブランドストーリーを聞くうちに、今思えば「OGAWA COFFEE LABORATORY」での素材選びとも通じますが、彼らの製品に相応しい空間は職人によるクラフトマンシップで表現するしか無いと考えました。一般的な店舗では仕上がった状態しか見えないので、ユーザーが目にする機会があるのは、工事前のゼロか竣工後の10だけで1〜9の過程は見えません。僕がデザインするものでは、その過程をなんとか伝えられないかという思いが常にあったので、普段は人の手の痕跡を感じないコンクリートを素材として、何か違う見せ方をしてみようと考えたのです。
— それで、現場で打った生々しい感覚が残るコンクリートを什器の一部として使ったのですね。
はい。ここは期間限定の店舗だったので、無駄を減らしたいという思いもあり、型枠の半分を残すデザインをすることで、型枠自体を什器にしてやろうと考えました。型枠の素材には、日本の伝統を意識して、什器として残す2枚には寺社仏閣や神前で使われるツガを、取り外す側の2枚は通常のコンパネを使用しています。試作段階では、コンクリートの上面を粗く仕上げたものも試しましたが、最終的にはコテでフラットに均すデザインとしました。サイズの異なるディスプレイテーブルなども、同じアイデアからつくったものです。
— 外した後の型枠を店内に残したのはなぜですか?
製作の過程を感じてほしかったので、展示物のように並べてみました。ものづくりへのこだわりがあるBang & Olufsenの製品と、使用済みの型枠が並んでいるというのは、クラフトマンシップの集合体のような、不思議なコントラストを見せていると思います。現場でコンクリートを打っている動画(Bang & Olufsen Pop-Up Store Kyotoのページで近日公開予定)があるので、それを見てもらうと実際の様子がよくわかると思いますよ。
— 工事過程を見せるというのは、ショップとしてはとても異質で興味深いです。Bang & Olufsenのポップアップでは、神前に使われるツガ材や、白い砂利を使っていましたが、普段デザインをする時に、日本らしさを意識することはあるのでしょうか。
そこまで大きなことは考えませんね。日本らしさを意識するわけでもないし、海外の人からの目を意識するということもありません。ただ、自分の居るところが日本なので、意識しなくても日本の要素が出るようには思います。あとは、デザインの違いというよりは、職人さんの手による繊細さの差はあると思います。
— なるほど。先ほど、工事のプロセスを見せたいというお話などもありましたが、普段、デザインする上で大切にしていることを教えてください。
僕はいつも、施主や工事に関わる人、店づくりに関わる人にいい経験をしてもらいたいと思っています。携わった皆に経験値を高めてもらいたいし、例えば職人さんであれば、1日の仕事を終えた後に達成感を得てもらいたい。飲みに行く時に、こんな仕事したって話題になるような何かを持ち帰ってもらいたいのです。
いいものをつくるとか、お店が利益を出すということは、僕は最低レベルのハードルだと思っているので、言うまでも無いし目指すべきところでもない。お客さんのお金を預かってデザインを任されているのだから、そこは結果を出すのが当然だと思うんです。
かつて、佐賀県の有田町で手掛けた陶器のショップ「マルヒロ」では、器を積み上げた床をデザインしましたが、施工者からすると、何をしたいのかわからない作業だったと思います。
それでも、最終的に仕上がったものを見て他にないものができたという達成感を共有できたし、やりがいがあって良かったと言ってもらえる現場などもあり、そうした関係性があるのは本当にありがたいと思います。
僕が子供の頃、街の大工さんはヒーローでしたが、今は職人離れなどと言われる状況があります。ほんの小さなことですが、僕らがやりがいのある仕事を頼むことで、そんな流れが少しでもよい方向に変わるといいなと思っています。
時には、施主に対して嫌がられるほど意見することもあるという関は、「いいものをつくりたかったら自分のところで妥協したら絶対にダメじゃないですか」と笑う。自身で描くデザインや、採用した素材、避けた素材など一つひとつの判断の裏にはクリアな思考があり、デザインのプロとして施主や施工者と渡り合う中で築いてきた現場との一体感と独自の選択眼が、既に世の中にあるデザインとの違いを生んでいるのだろう。