Interview with TOMOYUKI SAKAKIDA / Tomoyuki Sakakida Architect
photography : Koichi Torimura (NTV PROJECT), Shinichi Sato (SHANON), Daici Ano (SUN-AD)
words : Reiji Yamakura/IDREIT
EN
現代美術作家の杉本博司さんとともに設立した新素材研究所では、日本古来の美意識をアイデンティティーとするデザインを探求しつつ、並行して榊田倫之建築設計事務所を主宰する建築家の榊田倫之さんに、「NTV Project」(設計/榊田倫之建築設計事務所)の設計プロセスや、使用する素材へのこだわりなどを聞いた。
— 企業の役員向け応接スペース「NTV Project」では、どのような機能、デザインが求められたのでしょうか。
ビジネスミーティングと、その後のちょっとした懇談、軽い飲食ができるスペースが必要とされました。デザインについては、外国からのゲストが多く訪れるので、伝統的な和風ではないが日本らしい雰囲気が欲しい、というリクエストがありました。
— 陶板を用いたアートの壁面は迫力がありますね。
ここは、施主が所有していた加藤唐九郎作の巨大な陶壁の一部を使いたいという要望があり、一番見栄えのする部分を移設したものです。この空間全体の構成はシンプルなものですが、瓦敷きの通路を経てメインルームに至るシークエンスや、座面の低いソファ、バルコニーの天井を庇のように低く抑え、横長のプロポーションとして重心を下げるなど、日本らしい構成を意識してデザインをしていきました。また、当初の与件には無かったのですが、ここではどうしても内外を感じられる設えが必要だと考え、バルコニーには根府川石を敷き、周囲には黒竹の鉄砲垣を配して、小さいながらも庭を眺められるようにしました。
— 繊細な縦格子やダイナミックなテーブルなど、各部の素材について教えてください。
秋田杉でつくった縦格子のパーティションは、テーブルのあるエリアと前室を一体的にも使えるように設置したものです。よりシャープに見せるために、寺社などで使われる“捻り子”という、材を45度振った格子としています。
また、床と壁は好んでよく使う軟らかい表情の芦野石、アプローチの床に敷いたのは奈良県で焼かれた低焼成瓦です。この瓦屋さんは文化財の修復などを手掛けているところで、昔ながらの低温で焼かれた瓦のマットな質感はとても趣があるものです。
ロングテーブルの天板は、永年地中に埋まっていた、いわば木の化石のような神代杉です。
— どれも厳選された材料を使っていますが、実際に工房などに行くこともあるのでしょうか。
はい、工場での作業を見るのが好きなのでよく行きます。昔ながらのつくり方をしているところは、現代の工業製品のように均質な仕上がりにはなりません。その自然な個体差が良いのですが、希望通りの質を得るためには自分の目で選び、希望を的確に伝える必要があるのです。
また、伝統的なつくり手は、みな高い技術を持っています。例えば、木の節を埋め木する時に、ひょうたんなど古典的なパターンにすることも自在にできるのですが、そうした意匠がそぐわない場合もあるわけです。
細かいコントロールをするためにも、まめに現場に通い、できるだけ実際の作業をする人たちとコミュニケーションを取るようにしています。
私は、昔からカタログで選ぶ建材をできるだけ避けたいと思っているので、市場で食材を選ぶように、製造現場に行って「この部分だけちょうだい」っていうやり方が好きなんですよ。
そして当然、自然の素材には不均一なところがあります。私はそうした個性を、石であれば石の“景色”と呼んでいるのですが、その個性が魅力になると思っています。
— 現在は海外クライアントとの仕事も多いと思うのですが、そこではどんなデザインを求められるのですか?
私の場合、伝統的な和風建築を求められるのではなく、日本のエッセンスが感じられる空間を求められることが多いように感じます。
海外の施主であれば、日本を訪れた時に感じた自然観や天然素材の風合い、風を感じられる空間、といったことを要望される。そうした要素を取り込みながら、現代的なアプローチで設計していくという方向性です。外国人とはいえ、日本文化への理解が深い方からの依頼が多いので、逆に提案しやすいこともあるように思います。
— なるほど。日本を感じさせる要素は、榊田さん自身のボキャブラリーから自然にでてくるのですか?
日本ということを意識して建築を始めたわけではありませんが、おそらく、スケッチや図面に出てくる身体感覚やスケール感に、日本的な文脈が影響していると思います。そして、視線の流れや重心の低さなど、デザインにそれが現れる。
自分の建築的な作法は、学生時代に学び、恩師である岸和郎先生から学んだものです。具体的にいうと、壁は壁らしく、床は床らしく、柱は柱らしく、といった各部の扱いやディテールの納め方などですね。そうした岸先生の構成主義や近代建築の思想が、私の中に骨格としてある。
それを肉付けするものとして、日本的なエレメントやものの考え方は、新素材研究所で協働する杉本博司さんから得たものが大きい。そして最近は、日本のものを使ってどれだけやれるかということを常に意識しています。
私は、モノが持つ本来の状態を生かしたいし、素材からにじみ出る気配のようなものに細心の注意を払っているので、時を経ても褪せない質実な空間をつくっていきたいと思っています。
瓦一つとっても、産地のことから製法、割った時の中の様子までこと細かにその違いが語られ、また、現代のデザインから、吉田五十八や堀口捨己といった現代数寄屋の名手のディテールにまで話は及んだ。
国や時代を問わず、榊田が体験したものが独自のフィルターを通して、彼の設計する美しい空間に立ち現れるのだろう。次回は、新素材研究所でのプロジェクトについて聞いてみたい。