KOFFEE MAMEYA -Kakeru- by 14sd / Fourteen stones design
Coffee shop & cafe | Tokyo, Japan
DESIGN NOTE
倉庫に挿入されたKOFFEE MAMEYAの世界観
象徴的なホワイトオーク材の壁面デザイン
バリスタの手元を見せるカフェ空間
photography : Ooki Jingu
words : Reiji Yamakura/IDREIT
14sd / Fourteen stones designの林洋介がデザインを手掛けた「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」は、清澄白河に建つ倉庫を一棟借りして計画された、27のカウンター席を備えたコーヒーの専門店だ。
店づくりは、オーナーである嗜好品研究所の國友栄一、クリエイティブディレクションを担当するEDING:POSTの加藤智啓、空間デザインを担う林の3人が、時間を惜しまず意見を交わしながら進められたという。この3人の連携の始まりは、2011年に表参道の路地裏で、コーヒーショップ 「OMOTESANDO KOFFEE」を古民家内に出店した時に遡る。
出店の概要を林に尋ねると、「國友さんとのプロジェクトは、OMOTESANDO KOFFEEから数えて5店目となりました。今回は、古民家の建て替え後に同じ場所に出店したコーヒー豆の専門店『KOFFEE MAMEYA』をさらに進化させたものとして、バリスタの技術を生かすフルサービスの店舗をつくる、という計画でした。その背景には、バリスタはマシンオペレーションだけでなく、ワイン界のソムリエのように生産者とお客さんの中間に立ち、プロフェッショナルとしてその職能を高めていけるシーンをつくるべきだという國友さんの思想があり、彼らのもとに高い技術のある人材がいるから成り立つ業態です」と振り返る。
運営面では、パティシエやシェフ、国内外のバリスタらと連携したフードやサービスを提供することを想定しており、人と人を“掛け合わせる”コラボレーションからKakeruと名付けられた。店内は、顧客の好みに応じた豆選びをサポートする販売カウンターと、キャッシュオンではなく、テーブルチェックでゆったりと過ごすことのできる奥の客席という二つのゾーンで構成されている。
空間デザインについては、「米西海岸にあるサードウェーブのカフェのように、倉庫の広々とした環境を生かした空間づくりをすることもできる立地でしたが、コーヒーと向き合い、集中できる場にするという彼らのコンセプトに、その雰囲気は合致しません。そこで、店舗として使う部分だけを丁寧につくり込み、その空間が倉庫の奥まで挿入されている、そんなあり方であれば、これまで培ってきたMAMEYAのブランドとこの倉庫の雰囲気とが共存できるのではないかと考えました。また、かつて水運の拠点だった清澄白河の名残でもある、この街の風景として数多く見られる倉庫のたたずまいをできるだけ残したいと考え、外壁に目立つサインは付けず、既存シャッターの位置を全面ガラス張りとして、その中央に店舗の顔となるコーヒー販売カウンターを配置し、街ゆく人がここは何だろうと思わせるようにデザインしました」という。
これまで手掛けてきた一連の設計との関連性を聞くと、「新たな業態だからデザインを刷新するやり方もありますが、僕はこれまでのデザインを踏襲することも一つの大切な方法だと考えています。ここでは、コーヒー豆のパッケージを並べる棚などのフォーマットは変えず、その周囲は、MEMEYAの門型の意匠を残したまま、階段状にずらすデザインとしました。このカウンターバックの壁では、90mmに満たない幅の部材に照明を内蔵したり、扉までも段状に設えるなど、施工にかなり手間が掛かかりましたが、表から見ても店内側から見ても象徴的なものとなりました」。
奥の客席配置については、「喫茶スタイルをどのように表現するかという部分は、かなり時間を掛けて3人で議論しました。バリスタとの対話に集中でき、同時に、彼らの手元がよく見えることを考慮し、コの字型にカウンターを設け、内側からバリスタがすべてサーブできる今の形に落ち着きました。カウンター内に三つある黒いワークテーブルは、コーヒーを淹れるだけでなく、外部のシェフやパティシエが自由に使えるように考えたものです。國友さんからは、バリスタの技術をすべて見てもらえるように客席とワークテーブルの天板高さを揃えたいというリクエストがありました。このカウンター内の設えは、MAMEYAの技術力の表現であり、彼らのプライドが表れたものです」と語る。前面道路から見える販売カウンターの裏側には、正面と同様にコーヒーパッケージの棚を設け、オペレーションしやすく、バリスタの姿が引き立つ背景となっている。
また、オリジナルデザインした家具にも、個性的な意匠が施された。「この空間に合う椅子は既製品では選びきれず、キューブの形を引用したオリジナルを製作しました。カウンター長辺に並ぶ椅子は、座面を低く抑え、ソファと椅子の中間のような座り心地とし、座面は、焙煎により色を変えた彼らのコーヒーパッケージから発想を得て、3色の張り地を用意しました。また、カウンター奥では、そこだけ低くなった床面に合わせ、ハイスツールを3脚つくりました。気づく人は多くないでしょうが、椅子とスツールともに、背やフットレストの一部に階段状の凹凸をつけ、空間デザインとのつながりを与えています」。
全体を振り返り、オペレーションとグラフィック、空間が三位一体となったデザインについて、「このカウンターを中心にした接客スタイルは、デザイナー側が見栄えだけで提案できるようなものではなく、彼らが目指すものが明確で、さらに技術があり接客もできるバリスタが5人、6人いることで初めて成立するものです。これまで10年ほど協働してきたオーナー、クリテイティブディレクターとのフラットな関係性があり、同じ考え方を深く共有した上でデザインを進められたことで、簡単に真似できない“強さ”のあるものができたように思います」と語ってくれた。
1時間以上掛けて一つの豆をさまざまな抽出方法で提供するコースメニューや、コーヒーカクテルなど、この店でしか味わえないコーヒーの飲み方とホスピタリティーは、コアなファンのみならず、バリスタとの会話を楽しみに訪れる地元客にも好評だという。
(文中敬称略)
DETAIL
CREDIT + INFO
名称:KOFFEE MAMEYA -Kakeru-
クリエイティブディレクション:EDING:POST 加藤智啓
設計:14sd / Fourteen stones design 林 洋介
家具製作:E&Y
施工:栗原内装
所在地:東京都江東区平野2-16-14
経営:嗜好品研究所 國友栄一
用途:物販店+カフェ
開業:2021年1月27日
面積:1階126.71m2(うち厨房6.6m2) 2階23m2
〈仕上げ材料〉
床:モルタル金ゴテ仕上げ+防塵塗料、客席部分のみサイザルカーペット敷き
壁:ジョリパット吹き付け仕上げ
カウンターバック/ホワイトオーク突き板貼り自然系塗料ツヤ消しクリア仕上げ
天井:AEPツヤ消し
什器:カウンター天板/ライムストーン+小口ホワイトオーク無垢材t8 自然系塗料 ツヤ消しクリア仕上げ カウンター腰/モルタル コーヒー豆シェルフ/スチールシェルフ+モルタル コーヒー豆サンプルケース:真鍮 + ガラス落とし込み ワークテーブル/大理石+スチール
家具:オリジナルチェア/ホワイトオーク無垢材オイル ツヤ消しクリア仕上げ+ファブリック張り