SANU 2nd Home Ichinomiya 1st

Chiba, Japan

SANU 2nd Home Ichinomiya 1st | Puddle | photography : Tatsuya Kondo

 

DESIGN NOTE

  • 敷地中央に軸を通したシンメトリーな構成

  • キッチンを中心とした三重構造のレイアウト

  • FRP防水を現したバスルームのディテール

 

photography : Tatsuya Kondo
words : Reiji Yamakura/IDREIT

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Puddleの加藤匡毅さんがデザインを手掛けた、千葉・一宮の海近くに計画されたシェア型宿泊サービス 「SANU 2nd home」の会員向け施設。SANUは、Live with natureをスローガンとして掲げ、現在2024年12月現在、27拠点にて展開中のブランドだ。

設計を依頼された経緯を尋ねると、SANUとの最初の出会いは3年ほど前に遡る。加藤さんが自らの生活拠点を東京から軽井沢に移した頃に、SANUの創業メンバーを紹介され、「加藤さんならば、都心から自然豊かな地を訪れるユーザーの感覚と、開発者側の意図の両方に共感できるのでは」という理由から、SANUのクリエイティブボードの一員に招かれたのだ。当時の役割について、「すでに進行中だったSANU案件に対して建築家として意見をするというよりも、空間づくりに限らず、会員を増やしていくためのアプローチなど幅広い話題での壁打ち役のようなものでした」と加藤さんは振り返る。そんな折に、海近くへの展開を熱望していたSANU創業者でブランドディレクターを務める本間貴裕さんから、「(海に展開するなら)加藤さんだったらどうする?」という突然の問いかけから、1枚のスケッチを提出したという。

「海際では土地価格が山間部よりも一桁高いので、建築を一つにまとめることでコストを抑えつつ、二つの棟をシンメトリーに配し、個々の部屋を雁行させるイメージを描きました。部屋をただ横に繋げるとアパートのような画一的なものになってしまうので、雁行させて少しずらしていくことで、プライベートを確保する部分と、人と人が触れ合う部分ができるのではないか、と考えたアイデアです」と加藤さん。千葉の一宮が候補地の一つだったものの、具体的な敷地が決まっていない漠然とした問いへの回答だったが、本間さんに「これをやろう!」と即答され、そこから設計者としてプロジェクトに携わることになる。

 

SANU 2nd homeから海までは徒歩5分ほどの距離にある

当初に提案したドローイングのイメージがそのまま実現したというシンメトリーな建築

 

加藤さんは、この建築のデザインコンセプトを、以下のように記している。「海に向かい両手をひろげたようにシンメトリーに配置された建築は、その中心に日の出を迎える何もない『空(くう)』をつくり出す。空は万物の起点となることを願い、人が人と出逢い自然とつながる共有の庭となる」。「空(くう)」という言葉の意味を尋ねると、何もないところから物事は生まれるので、何もないこと、つまり空の状態が、そこに生まれるものごとの始まりであり、「この建築の中心は建築がない場所であり、そこに人々が集い、コミュニケーションが生まれたり、植物が茂ったりしていく中で、この場がより強い力を持てたらいいなと考えた」というのだ。

「中央に軸を通す」という強いルールをもとにデザインを進めた狙いを聞くと、「これまでは、敷地の前にある事象との関係性において空間をつくることが多く、そこで起こる営みから滲み出してくるものを取り入れていく発想をしてきました。しかし、この計画では近隣の状況よりも、朝日が昇る真東に向けて建築を配することに、より大きなインスピレーションを得ていました。人間の時間、自然の時間、宇宙の時間という三つの時間軸を考えたときに、現代人の暮らしは人間の時間を中心にし過ぎているように感じていたので、建物の中心に空があることで、自然や宇宙の時間にチューニングを合わせ、太陽の動きや潮の満ち引きに意識を向けるきっかけになってほしいと考えたのです」とのこと。

話を聞く中で大きく興味を惹かれたのが、このプロジェクトで目指した建築のあり様だ。本間さんとイメージを共有するために、米西海岸の建築のイメージを2点見せたというのだが、その共通項は、“建築が主役になっていそうで、主役になっていない建築”だった。「地と図の関係で言うと、建築は図として主役のように扱われることが多いですが、そうではなく、ここでは字に目がいくような図のあり方を目指しました」。そんな主従の関係性は、土地と建築がともに経年変化していくことを良しとする考え方や、真ん中に空があるというストーリーへと繋がっている。

メゾネットとした全9室ある客室に入ってみると、部屋の中心にはキッチンカウンターがあり、カウンターの一部に食い込むようにし円形のダイニングテーブルが設えてある。居室の中心にキッチンがあるのは、加藤さんの設計事例ではお馴染みの光景と言えるが、これは彼らが「家の中で一番クリエイティブな場所はキッチンだと考えている」からだ。さらに興味深いのは、限られたスペースを有効かつ快適に使えるように、料理をする場所が中心にあり、それと接する円形のダイニングがあり、そのもう一つ外郭には備え付けのソファという、“三重構造”にしたというのだ。

 

キッチンカウンター内からの眺め。カウンターに接するようにダイニングテーブルがあり、その外郭、壁際にはL字型のソファが配置された。リビングの天井高さは5m

 

天井高さ5.0mとした部屋の最奥、壁際のソファには絶妙な包まれ感があり、長椅子のようにも使えるレイアウトにより、コンパクトながら最高に気持ちがよい場所となっていた。「四角い部屋の角(カド)は、どちらを向いたら良いのかわからない居心地の悪さが生まれがちなので、ほどよく視線をずらすためにコーナーをアール形状にしたL字型ソファを設け、座り心地のよいクッションを置きました。屋外テラスとソファ座面の高さを揃えることで、外との繋がりを感じられるようにもしています」(加藤さん)という、利用者への気遣いと設計者視点での工夫を積み重ねて生み出されたワンルーム空間だ。また、サーフィン後でもすぐ使えるようにとエントランス横に設けられた、FRPを内装材として用いたバスルームも印象深い。防水下地をそのまま露出させて仕上げることで、既製品のバスタブを使いながらもユニークなインテリアが立ち上がっており、あかり採りの開口には視線を通さない半透明のFRP成形板が使われていたり、枠の無い円形ミラーが壁内に落とし込まれていたりと、都心部で見かける工業化された集合住宅とは対極にあり、また、ハイエンドな個人邸でも決して見られないような、Puddle独自の意匠性とコストバランスを両立したディテールに満ちている。

敷地の中央を貫くシンボリックな屋外スペースについては、「数年経てば、地元の山武杉を用いた外壁はグレーに変化し、ヤードワークスが手掛けてくれた、地元の種を中心にセレクトした植栽が生い茂っていくでしょう。将来的には、この場所がお祭りのような催事があれば自然と人が集まってくるような、地元の方たちにとって神社の森のような存在になってほしい」と今後への期待を語ってくれた。その後、2024年4月には1stの敷地から徒歩5分ほどの立地に、同じくPuddleの設計による全16室の「SANU 2nd Home 一宮 2nd」が開業したが、そこでも真東を向いたシンメトリーな建築のコンセプトは継承されている。 

 

DETAIL

外壁には地元の材を使いたいという意図から、千葉県の山武杉(サンブスギ)が採用された

壁際に設けられたL字型のソファ。テラスの床レベルと座面高さを揃えることで、内外のつながりを感じられるように計画されている

キッチンカウンターに一部、食い込むように設けられた円形のダイニングテーブル

階段下を活用した、キッチンの収納スペース

バスルームの壁は、一般的には防水下地材として使われるFRPをクリア仕上げして用いた。円形のミラーは壁の中に埋め込まれている

奥に見える、円弧状にデザインされたバスルームの開口部には視線は通さずに光を透過するFRP成形板が用いられた

地元に生える種を中心にセレクトしたという植栽は、天野慶さん率いるYard Worksが手掛けている

 

CREDIT

名称:SANU 2nd Home 一宮1st

建築設計:Puddle  加藤匡毅 立川 慧  林 巧

     あわデザインスタジオ 岸田一輝 安藤亮介

内装設計:Puddle  加藤匡毅 立川 慧 一場ちひろ 

構造設計・設計コンサルティング エヌ・シー・エヌ 大口 仁 門馬由佳

造成計画:二葉測量設計事務所 泉地進吾

ランドスケープデザイン:Yard Works 天野 慶

照明計画:大光電機 姫野真佳

家具・什器製作:SHERPA wood works 唐川優樹 寺田篤実

施工:大和ランテック

所在地:千葉県長生郡一宮町10147

経営: SANU

用途:メンバーシップ制セカンドホームサービス

竣工:2023年11月

敷地面積:1693.54m2

建築面積:721.39m2

床面積:718.89m2(客室は各62.10m2)

仕上げ材料

外壁:山武杉羽目板鋸目仕上げ

床:ヒノキ合板貼り

壁:ヒノキ合板貼り、左官仕上げ

バスルーム壁:FRP防水トップコート仕上げ

天井:AEP

階段手すり:スプルースクリア塗装仕上げ

 

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