Interview with KOICHI FUTATSUMATA / CASE-REAL —part 1

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“落ち着くホテル”とするために、機能として必要なものだけをきちんとつくる

— Koichi Futatsumata / Case-Real

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photography : Daisuke Shima

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 
 

福岡と東京を拠点に、CASE-REALとして建築やインテリアのデザインを、Koichi Futatsumata Studioと個人名を冠した名義でプロダクトデザインを手掛ける二俣公一さんに、「DDD HOTEL」のデザインプロセスと、これまでに手掛けたインテリアのプロジェクトを例に挙げながら、細部へのこだわりについて話を聞いた。


—「DDD HOTEL」は、既存のビジネスホテルを全面改修するプロジェクトでしたが、ホテル丸ごとのデザインというのは初めてのことですか?

はい。ここでは、客室、共用部、レストラン機能を備えるキッチンスタジオからアートギャラリーまですべての空間をデザインしました。かつて、香川県・豊島で一棟貸しの宿泊施設を設計したり、旅館の改修を手掛たことはありましたが、ホテル全体というのは初めての経験でした。

— まず、全体のコンセプトを聞かせてください。

すごく大まかに言うならば、「これまで営業していたビジネスホテルをブラッシュアップして、正しいビジネスホテルにする」という計画です。アッパーなホテルにつくり変えるのではなく、デザインだけに特化したホテルを目指したわけでもない。ビジネスホテルというのは、日本独特のスタイルですよね。ビジネスとは言うけれど仕事をしやすい場所でもなく、一般的には出張の予算内で泊まれて、朝食が取れたらよい、というイメージだと思います。ここでは、華美ではなく、また、価格帯を上げ過ぎることなく、でもきちんと使えるホテルを目指しました。

メインエントランスでは、真鍮で製作されたスライドドアがゲストを迎える

メインエントランスでは、真鍮で製作されたスライドドアがゲストを迎える

 

— メインエントランスの真鍮のスライドドアや、壁や家具のグリーンが印象的ですが、まず、素材や色の選び方について、教えてください。

 “落ちつくホテル”にしたいという思いがあり、飾ったり意匠的に盛ることは極力したくないと考え、オーナーやディレクターともその意思は共有できていました。

そこで、機能として必要なものだけをきちんとつくる、という方向性の中で、客室の“落ち着き”をどう演出するかを考えた時に、ダークグリーンを使うアイデアが生まれました。

モスグリーンの家具は、木目が見える仕上げとした

モスグリーンの家具は、木目が見える仕上げとした

 

もともと、僕の感覚として、グリーンが落ち着く色だと感じていることもあります。また、ホテルで過ごす1日を考えた時に、昼間の鮮やかなグリーンの見え方と、夜の照明に照らされたほぼ黒に近いグリーンには大きなギャップがあり、その印象の差が生まれることがとても良いと考えました。木の導管が見えるように目弾き塗装で仕上げたモスグリーンの面は、夜には光を吸い込んで、ぐっーと空気が沈んだような一段と落ち着いた表情になります。

また、2階カフェカウンター上の照明器具や、客室階のサインなどポイントとなる部分には真鍮を使いました。メインエントランスのドアも真鍮板を曲げてつくりました。プレオープンから半年ほどが経ったので、ドアの屋外側は少し変色して程良い経年変化が現れ始めているところです。

2階のカフェカウンター

2階のカフェカウンター

 

— 1階のすっきりとしたデザインと、2階の共用部がとても印象的です。改修前、2階はすべて客室だったそうですね

はい。吹き抜けを設けて1、2階の繋がりが生まれたこと、そして、広々とした共用部の必要性などから、2階にあった客室をすべて無くして共用部とする判断をしました。また、共用部はとにかく明るい空間にしたかったので、1階と2階の壁を一部抜き、大型のサッシを入れたことで自然光が入るようになりました。客室は広くありませんが、この2階では人と会ったり、気持ちよく仕事ができるようになっています。

— とても端正というか、シンプルにデザインされた客室についても教えてください。

一般的なビジネスホテルには、実は使わない設備やアメニティがたくさんありますが、ここではテレビもなく、バスタブも標準的な部屋にはありません。しかし、快適に眠れるように高品質のマットレスが採用され、水回りは在来工法でモザイクタイル貼りで端正に仕上げました。こうしたビジネスホテルの改修では、例えば二つの部屋を一つにまとめることは容易ですが、フロア全体の間仕切り壁の位置を変えるのは設備計画上難しいのが現実です。しかし、ここでは客室の印象を一段上に引き上げるために、間仕切り壁を含めて客室レイアウトを大幅に変更しました。その結果、イレギュラーな位置に梁型が出るなどのデメリットはありましたが、それぞれの客室が魅力的になり、苦労はしましたがその効果があったと感じています。

要素を削ぎ落としたデザインの客室

要素を削ぎ落としたデザインの客室

モザイクタイルの在来工法で仕上げた水回り

モザイクタイルの在来工法で仕上げた水回り

 

— なるほど。それから、客室内の細かいことも聞かせてください。ベッドサイドで調光できる照明のスイッチプレートもグリーンなんですね。

はい。今回特注でつくったものは、ほとんどグリーンで統一していますね。さすがにコンセントプレートまではつくることができませんでしたが、ダークグレーのものを採用して周囲のグリーンに馴染むようにしています。椅子やソファなどの家具は、このホテルのために僕らがデザインして、E&Yで製作したオリジナルです。また、オーナーやディレクターがこのグリーンを気に入ってくれて、インテリアから発想された色が、最終的にはホテルのカードキーやウェブサイトなどにも反映されました。

— 1階にある飲食のスペースについても教えてください。宿泊客向けのレストランではないのですね。

レストラン部分は、テナントでは無くホテルに付随しているものですが、営業的にはホテルと完全に連動しているわけではなく、レストランを持たずに活動する実力派フレンチシェフのキッチンスタジオという位置付けです。そのシェフのアトリエとして、また、彼らのワークショップや、完全予約制のシェフズテーブルとして運営されています。デザインについては、スペース名「nôl」のもとになったnoir(黒)から、黒をベースにした空間が要望されました。黒い外観に、室内は黒からダークグレーとブルーグレーへのグラデーションで仕上げています。

1階のキッチンスタジオ「nôl」

1階のキッチンスタジオ「nôl」

 

— 同じく1階にギャラリーがあるというのもユニークですね。そうしたプログラムはどのように決められたのですか。

ギャラリーがあるスペースは、当初はバーにすることなども検討されましたが、オーナーやディレクターと話をしながらアートギャラリーに決まっていきました。既存の立体駐車場は、改装前の段階で既に使われておらず、倉庫になっていました。ただ、その半地下になったロケーション自体が魅力的だったので、展示に活かせるだろうと計画されたものです。

1階のギャラリー「PARCEL」

1階のギャラリー「PARCEL」

 

— 宿泊客向けのレストランではない、強いキャラクターを持つ食のスペースと、アートギャラリーという、ビジネスホテルらしくない二つの要素があることは、このホテルの個性化に大きく影響していますね。

そうですね。それぞれ独立した機能があり、プロフェッショナルなレベルで独自に面白いことをやっている。常に情報が発信され、新しいことが次々と起こっていく場がホテルに同居している、という感覚ですね。ギャラリーとキッチンスタジオの併設はホテルの客層に大きな影響があり、日本国内のクリエイティブな層と、欧米からのゲストが増えたと聞いています。


 「DDD HOTEL」について、二俣はデザインに特化させたわけではないと語るが、過剰な装飾を廃し、Case-Realが細部まで丁寧にデザインを組み立てたことで、アッパーなホテルとは異なる、日本橋馬喰町に静かにたたずむ “落ち着き”のあるホテルとなった。高価格帯に振るのではなく、デザインによるインパクトや写真映えの方向に向かうでもなく、あえて、ビジネスホテルカテゴリー内での刷新を目指し、滞在の質を上げるというゴール設定に的確に応えたデザインと言えるだろう。

(後半へ続く)

 

CASE-REAL 二俣公一さんへのインタビュー後半はこちら

 
 

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