KAZAKOSHI RESIDENCE by Puddle

Nagano, Japan

KAZAKOSHI RESIDENCE | Puddle | photography : Daisuke Shima

 

DESIGN NOTE

  • 風が通り抜ける、建築家の自邸

  • クリエイティブなスペースとして計画されたキッチン

  • 使い手の視点から考えられた独自のディテールと素材

EN

photography : Daisuke Shima

words : Reiji Yamakura/IDREIT

 
 

Puddleの加藤匡毅が建築、インテリアの設計を手掛けた、南軽井沢の自邸「風越の家」。それまで、東京・渋谷に自宅兼事務所を構えていたが、都市部だけでなく自然豊かな環境での空間デザインを積極的に手掛けていくフェーズへの移行や、子育てに適した環境を考えるなかで、東京を離れ、軽井沢に暮らす決断をしたと加藤匡毅・奈香夫妻は振り返る。

軽井沢でエリアを絞り込んだ後、中古物件のリノベーションも検討したというが、それまでインテリアデザインを中心に手掛けてきたPuddleを、一級建築士事務所として登録するタイミングも決まっていたことから、戸建ての新築を選択。南側に林が広がる敷地を選んだ決め手を尋ねると、「絶景に建築が立つロケーションよりも、地べたに近く、すぐ外に走り出していける環境がいいなと思っていました。また、天気が良くて、それを感じられれば機嫌が良くなる家族なので、外に開けることや周辺との距離などを考慮して」と加藤匡毅は笑う。

北側に接道する長方形の敷地が決まってから、プランが固まるまではひと月も掛からなかったという。「道路から5m、隣地から3mセットバックさせる条例により建築可能なエリアが限定されたこと、そして、ワンルームで平屋の暮らし方が好きだったので、東西に長い8間×4間という形がおのずと決まりました。家の中は、南側をパブリック、北側をプライベートエリアとして、その中間に水回りがある配置です」。水周りを中心に回遊できるレイアウトは、中央部の扉を閉ざせば、片側に家族、もう一方をゲスト用とエリアを分けることができる機能的なものだ。パブリックエリアの中心となるキッチンについては「家の中でもっともクリエイティブな場所として、キッチンを中心にパブリックゾーンの設計をしました」という。

 

生活の中心に、もっともクリエイティブな場所として設計されたキッチン

 

家の中を“パブリック”と“プライベート”に分け、キッチンをクリエイティブな場と位置付けるのは、これまで数多くの店舗やオフィスを手掛けてきた加藤らしい考え方だが、その中でも際立つのは、アイランド型のカウンターまわりの設えだろう。「このカウンターは、これまで暮らしてきた自邸のキッチンをアップデートする形で考えています。アイランドキッチンは、中に立った時の対面との関係性で語られることが多いですが、その裏手、西向きの窓と接するアイランドの内側にカウチを設けたのは、今回の設計における小さな“発明”でした。リビングで子供が走り回っていても、カウンター内のカウチに座れば適度な距離があり、落ち着いて本を読んだり、ちょっとした作業に集中することができる」。キッチンカウンターのトップには、素地の銅板の小口を見せながら軽やかに用い、外向きの収納扉には木製フレームにパンチング加工したレザーを張り内側にはスピーカーを仕込むなど、ユニークな工夫が随所に見られる。音響面では、自身がデザインしたアンプに、本棚上部の可動式スピーカーと窓際ベンチの側面に埋めたスピーカーとを組み合わせ、ソファ周囲にサラウンドの環境を整えている。また、天井まで届く本棚は、「木造ですが柱を室内に出したくなかったので、LVL(単板積層材)で組んだ本棚を構造体として、この建築を支えるように計画した」ものだ。

もう一つ、この住居を特徴付けるポイントとして、サッシを引き込んで全面開放できる開口部が挙げられる。「自然光が入り、風が流れる家にしたいというのが、僕ら夫婦にとって、土地を探すときの条件だったので、南側のテラス、東側の縁側と繋がる大開口を設け、室内側には段差を利用したベンチをつくり、内外を連続して使えるようにしています。季節の良い時期に窓を全開にできるのは、とても気持ちがいいものです」。また、真冬はマイナス15度になる寒冷地のため、開口部にはへーベーシーベの木製サッシを用いるなど各部の断熱性に配慮した上で、床下を空調機で温める全館空調システムを採用している。また、背面をオープンにした大型の本棚の裏手には、天窓のある半個室の子供の遊び場があり、収納と一体的に設えた階段を上がるとキッチン上のロフトへと繋がる。このロフトはカーテンを吊り、来客が泊まるスペースとしても活用されているという。

外壁には周囲との調和を考慮し、グリーンがかったブルーを採用。ブルーの染色剤を黄みのあるレッドシダー材に塗ることで、独特の深みのある色合いとなっている。また、前面道路から1.5mほど上がる土地だったため、駐車場側に設けた土留めには、鋼製型枠のリサイクル材を使用し、自然に赤錆の表れたスチールの表情がアクセントとなっている。これら外構まわりの設計と施工はYard Worksが手掛けた。

全体のプロセスを振り返り、「開口の取り方などこだわった部分はありますが、空間構成は極めてシンプルな家となりました。自邸の設計というのは、つい自身でやりたいことが勝ってしまうのが難しいところなのですが、外からどう見えるかよりも、生活様式から考えた実験的なアイデアなど、細かな部分に時間と手間を割くことでこの家が完成したように思います。また、それまでずっと生活の中心だった渋谷エリアを離れたことで、東京を拠点とすることの良し悪しではなく、別の視座から東京を見られることを新鮮に感じています」と語ってくれた。

(文中敬称略)

 

DETAIL

機密性の高い、ヘーベシーベ(ドイツ語でlift and slideの意)のサッシを用いた二重ガラスの開口部は、引き込み式でフルオープンにすることができる

加藤曰く、今回の小さな“発見”だったという、キッチンカウンターの奥につくりつくり付けたカウチ。

キッチンカウンターの天板には素地の銅板を用いた。扉にはパンチングしたレザーを使用。

構造体として機能する、リビング中央のLVL製ブックシェルフ

東側には、屋外の縁側と高さをそろえ、デッキと同材で仕上げたベンチがある。側面にはスピーカーを仕込んでいる。

側板にラワンをまわした、ベンチまわりのディテール

デッキと同じく再生木材を用いた、オリジナルのブラケットライト。外壁は青く染色したレッドシダーを使用。

 

CREDIT

名称:風越の家

設計:Puddle 加藤匡毅 廣瀬  蒼

キッチン造作:&S

構造設計:オーノJAPAN

外構:Yard Works

照明計画:Modulex

施工:新建築

所在地:長野県

竣工:2021年4月

敷地面積:561m2

建築面積:112m2

延べ床面積:124m2

仕上げ材料:

外壁:レッドシダー材染色

床:オーク材フローリングオイル仕上げ

壁:AEP塗装 寝室/銅粉塗装

天井:AEP塗装

家具:書棚/LVL t38mm キッチンカウンター/銅板t1.5mm オーク材染色 ベンチ収納側板/リサイクル内装ボードsolido

暖炉:hergom(スペイン)

外部デッキ:再生木材(EIN superwood)

 

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