“うつし”の手法によるubushinaのものづくり
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日本の美意識をテーマに、伝統技術とデザイナーをつなぐプロジェクト「ubushina」とのコラボレーションにより生まれた空間や素材を紹介していくインタビューの第二弾。「多様な日本らしさ」を紹介した初回に続く今回は、日本の工芸や文化の発展に寄与してきた手法「うつし」をテーマに、伝統技術ディレクターとしてものづくりを牽引する立川裕大さんに話を聞いた。
「うつし」とは、焼き物や刀剣など工芸の世界で、あるものを倣ってつくられた作品のことや、その手法を指す。語源は、虚、もしくは、無を表す「ウツ」と言われており、ウツロヒへと繋がっていく。
「かつて、内田繁さんは著書『インテリアと日本人』の中で、『ウツロヒから、移る、映す、写し、へと展開する』と書かれていました。内田さんによる考察をubushinaが手掛けるものづくりに当てはめて考えると、“移る”は技術や素材の変遷、“映す”は趣や面影を投影する行為、“写し”というのは何らかの適切な素材または場所に定着して完成させることを表すのではないか、と僕は解釈をしています」と立川さん。
これまで手掛けてきた幾多のプロジェクトの中で、「うつし」によって生まれた個性的な事例を3点挙げてもらった。
真鍮製の網代編み
もともとあった工芸を他の素材に“移す”ことで新たな魅力を引き出したマテリアルが、A.N.D.の小坂竜さんがデザインを手掛けた「パレスホテル東京」 6階の和食エリアでは採用された。それは、天井に用いられた真鍮製の網代だ。
「小坂さんから、左官や無垢材などをふんだんに用いた本格的な和の空間にふさわしいものとして、真鍮で網代をつくれないかという相談がありました。真鍮は、檜や杉の皮のようなしなやかさがないので編むのには苦労しましたが、パネル状に仕立てることで施工性にも配慮したものができました。自然な古美色に仕上げるために、最後まで微調整したことを覚えています」。
設計者の小坂氏が望んだ、最初はほの暗く見えるが目が慣れるに従って編み込まれた表情が見えてくるという、奥ゆかしさを備えた現代の網代となった。
インテンショナリーズのデザインにより、三井寺の妙厳院を宿坊としてリノベーションした「和空 三井寺」。壁に用いられたのは、ubushinaが手掛けた陶磁器のような刷毛引き模様の和紙。photography: Toshiyuki Yano
陶器を投影することで生まれた和紙
滋賀県にある三井寺の妙厳院を、インテンショナリーズの設計により一棟貸しの宿坊としてリノベーションした計画では、ubushinaが手掛けた霞みがかった灰色の和紙が壁全体に用いられた。その開発のプロセスを尋ねると「2003年にホテル『クラスカ』で協働した、インテンショナリーズの鄭秀和さんがある時、粉引の器を見せながら『こんな空間をつくりたい』と。その言葉をきっかけに、陶磁器をインテリアの素材として壁に“移す”チャレンジが始まりました。僕たちと長い付き合いのある和紙職人に話を持ちかけると、『火を水にうつすんだね』とコンセプトを即座に理解してくれて、陶器の質感を和紙で表現する試行錯誤を重ねました」。
そうして誕生した、焼き物のようにマットで自然なムラ感のある和紙は、この場に見合う品格を備え、かつ、素材自体が主張し過ぎることなく宿坊の空間と調度を引き立てている。
この高い技術を持つ和紙職人とのトライアルは粉引に留まらず、青磁や瀬戸へと発展し、現在では10種類の「うつ紙」としてubushinaの定番に加わった。
電気鋳造を用いた麻布の表現
また、伝統工芸を別の素材に置き換えるだけでなく、現代の技術と掛け合わせたハイブリッドな展開があることもubushinaの特徴だ。隈研吾建築都市設計事務所と向後千里デザイン室が設計した東京ステーションホテル内の日本料理店「しち十二候」では、なんと電気鋳造の技術が用いられた。
「しち十二候は、白いファブリックの重なりをテーマにした空間で、隈研吾さんの事務所から、鉄板焼きコーナーの下り壁の素材の相談を受けました。さすがに、鉄板の真上に布地は使えないので、布の質感を金属で表すために目を付けたのが電気鋳造でした。電気鋳造とはメッキ技術の一種で、繊細なパターンを表現することができるため、金属製のエンブレムやジュエリーなどにも使われているものです」。
電気鋳造では、1/1000mm以下の細かい凹凸まで緻密な表現ができるという。ここでは、麻布の表情を出すために寒冷紗を型として、銅とニッケルを合わせた素材に模様が写し取られた。
2003年の創業時から現在まで、ubushinaが共にものづくりをしてきた職人や工房は300社近くに上るというが、「見たことのない素材や未知なる技術が日本にはまだまだたくさんある」と立川さんは目を輝かせる。「電気鋳造を依頼した工場からは、インテリアに使う素材を加工したのは初めてだったと言われたのですが、そうした瞬間に立ち会えるのが僕らはとても嬉しい。例えば、かつて書道や絵画に使われていた熊野筆は、今ではメイクブラシとして世界から注目を浴びています。ちょっと見立てを変えるだけで新しい世界が広がることがあるので、先入観を持たず、常にフラットな目線でものを見ることが大切です」とも。
カタログにある既製品では満足しないアトリエ系事務所からの要望に一つひとつ応えてきた経験と、伝統から革新までを自在に掛け合わせるubushinaの編集力が、唯一無二の空間づくりを支えている。
words : IDREIT
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