EARTHBOAT Shirakabako by PAN- PROJECTS
Accomodation | Nagano, Japan
EARTHBOAT Shirakabako | PAN- PROJECTS | photography: Yuta Sawamura
DESIGN NOTE
CLTを用いて最適化したサウナ付きトレーラーハウス
サッシレスで納めた開口部
現場での手数を極限まで減らす設計思想
photography: Yuta Sawamura
words : Reiji Yamakura/IDREIT
ロンドンを拠点とする、八木祐理子さんと高田一正さん率いる建築デザインスタジオPAN- PROJECTSが継続的にデザインに携わってきたトレーラーハウスを用いた宿泊施設「Earthboat Shirakabako」が、長野県の「白樺リゾート池の平ホテル&リゾート」内にオープンした。宿泊棟としてゲストを迎えるのは、ネイチャー・エスケープをコンセプトとして掲げるEarthboatのために開発されたトレーラーハウス「Earthboat Cave」。これは、豪雪地帯向けに開発された初期モデル「Earthboat Hut」に続く第二弾であり、随所にアップデートがなされたものだ。
初期モデルを手掛けた経緯を聞くと、トレーラーハウスを使ったビジネスを構想していた、長野県・信濃町を拠点に宿泊施設「LAMP」などを運営する施主から相談を受けたのが始まりだったという。「コペンハーゲンでのペーパーパビリオンなど、私たちがこれまでに仮設的なプロジェクトを多く手掛けているのを見て、知人を介して声を掛けてくれました。最初のミーティングでの会話は今も強く印象に残っています。日本にはスキー場などレジャー施設として開発されたものの、現在は活用されず、打ち捨てられたような場所が多くあるというのですが、そこに人の流れを生み出し、新しい風を吹かせたい、という大きな考え方をお聞きしました。スキー場であれば、冬しか人は来ませんが、そこに魅力的な宿泊施設があれば、冬以外のシーズンでも経済効果を生みだせる、と」と高田さんは計画当初を振り返る。
土地を傷めることがなく、また、建築行為が許されていない場所でも宿泊施設として使えることが、オーナーがトレーラーハウスを選んだ理由だった。そうしたストーリーに大いに共感した2人は、初期モデルの計画時に、CLT(Cross Laminated Timber/直交集成板)を使ったトレーラーハウスを提案する。
小規模建築の建材として一般的ではなかったCLTを使った理由を聞くと、「トレーラーハウスでは、軽くするためにツーバイフォーや軽量鉄骨を使ったフレーム構法で建てられることが多いのですが、人が入った時に揺れるなど、どうしてもチープな印象になってしまいます。CLTであれば量産化に適しており、また、素材自体に厚みがあるので、"質量"感がはっきりと伝わる。また、CLT自体の厚みで断熱効果が得られるので、従来の工法のように断熱材を入れる必要がない、ということも大きな理由でした。この建物は自然の中で使われるものであり、50年後、100年後に宿泊施設としての役目を終えた先を考えると、断熱材のような化学的な素材をできるだけ使わず、自然に還るものであるべきだと考えたのです」と語る。費用面でも、組み立ての工数を徹底的に減らすことで実現可能なコストに近づいたこと、CLTの断熱性能に関してログハウスを建てた経験のある施主が理解を示したことで、CLTを使うデザインが進められていったという。
今回、白樺湖で採用された「Earthboat Cave」のデザイン上のこだわりを聞くと、「初期モデルでは、立地と法規の都合から切り妻屋根にする必要があり、壁と屋根の接合部の形状が複雑になるという課題がありました。CLTを使う場合には、箱型とするのがもっとも効率が良いので、第二弾となるCaveでは箱型のデザインを採用しました。しかし、シンプルな箱にすると、大きなコンテナのように見えて周囲と馴染まないので、モジュールを設定し直して、ある一定のルールのもとに外壁にリブを配し、大きな面を分割しています」と設計上の工夫を説明してくれた。外壁はCLTの構造体を包む防水透湿シートの上に、外壁材とリブが縦方向に並ぶ。すべての開口部や薪置き場などは、モジュールに沿って計画されているため、リブのピッチに沿った整然とした外観が立ち上がっている。
インテリアの大きな魅力となる、壁一面を全開放したピクチャーウインドーについては、「ツーバイフォーなど他の構法では窓の周囲に梁などがあるので、どうしても枠の部材が出てきてしまいます。この壁をスパッと切ったような形状は、CLTのスラブと壁だけを組み合わせた構造だからこそ実現できたことです」と語る。また、他の開口部もすべてサッシなしで納めたという点にも、プロダクトとしての大きなこだわりが表れている。換気設備を備えているため、防虫対策としてすべての窓はペアガラスのFIX窓となっており、精密にCLTを切り欠いた部分にガラスを嵌め、四方を外側から押さえる仕様だという。窓下にだけは板金を回しているが、サッシを用いなかったのは、コスト削減のためと、断熱材を使わない理由と同じく、木材以外を極力使わない"自然に還る"あり方を目指していたからだ。
また、全室プライベートサウナ付きをうたうEarthboatならではの特徴が、一度屋外に出てからアクセスする、トレーラーハウスの一角に設けられたサウナだ。温泉などの観光資源がなくとも、サウナそのものが一つのエンターテイメントになるという同施設のビジョンを体現している。「オーナーは野尻湖のLAMPで話題となった『The Sauna』を始めるなど、サウナの価値をよく理解されている方だったので、初期モデルの開発時から、全室にサウナを設ける前提で設計を進めました。また、私たちがデンマークにいた頃に、ログハウス内のサウナが持つ蓄熱性の高さと心地よさを実体験していたこともあり、サウナに適した蓄熱性があるという点もCLTを建材に選んだ理由の一つでした」と高田さん。Earthboatのサウナは、床や壁だけでなく、サウナ内のベンチまでCLTでつくられている点もユニークだ。また、サウナに屋外からアプローチする動線は、あくまでアウトドアがリビングであり、屋外での時間を楽しみながら、サウナにもベッドルームやキッチンにも自由に行き来ができるようにする、という考え方に基づいている。
今回の竣工までに、初期モデルの開発におよそ2年半、Caveの開発に1年弱を費やしたというが、その過程では常に細かな改良が繰り返されたという。「量産を前提に設計を始めましたが、着工してわかることも多々ありました。現在は電気配線のスペースやLED照明をはめ込む部分も工場でプレカットしていますし、墨出しの線まで工場で入れているので現場で墨出しをする必要がありません。CLT工場や施工者の協力のもと、彼らと常にミリ単位の確認を行い、私たちが加工図まですべて描く、という日々の中で学べたことが多くあります。現場作業を減らす設計に取り組んできた結果、今では1日で1棟半ほど組み立てられるほどになりました」。
施工中の様子(写真提供: PAN- PROJECTS)
取材の最後に、八木さんと高田さんは、デジタルと建築デザインの交わりに関する、PAN- PROJECTSならではの視点を語ってくれた。「現代建築の多くは、経済合理性からミニマリスティックなデザインに向かっているように感じます。しかしその一方で、CNCの技術を使えば、コスト増を避けながらディテールを復活させられる、という考え方もあるように思います。Earthboatで試みた、CNCでプレカットしてサッシをなくした開口部などは、3Dで緻密に設計することで実現できた部分です。工程や部材を減らすことで、全体のコストを引き下げることができる。デジタル革命の最大の意義は、建築的なスケールの中で、そうした変化を生み出せるところなのです。私たちはCLTに関しては、この2年以上、工場の方たちとかなり細かなやりとりを重ねてきたので、何ができて何ができないかという技術的なことに加え、コスト構造を深いところまで理解できました。ここで得た経験は、今後さまざまなデザインに活かせるように思います」。
この白樺湖でのプロジェクトの後、都市近郊エリア向けとしてPAN- PROJECTSが設計した新たな客室モデル「Earthboat Nomad」を導入した「Earthboat Saitama Kawajima」が2026年4月に、埼玉県内の遊休化していた公園内にオープンしている。Nomadでは、全体の軽量化に挑んだというので、さらなるデザインの進化に注目したい。
Earthboat Saitama Kawajimaのイメージ(画像提供: PAN- PROJECTS)
DETAIL
サッシを使わず、CLTの壁を切り欠いてガラスを外側から押さえる仕様としたFIX窓
ベッドまわりやサウナ内のベンチなど、家具的な機能もCLTで造作されている
トレーラーハウスの床やデッキまわりの階段もすべてCLTで設えることで短工期を実現。外壁面に見える縦方向のリブ材は、意匠上の理由から加えたものだという
CLTとは、繊維方向が直交するように積層することで強度を高めた集成材。躯体の端部では、CLTの切断面が見える
CREDIT
名称: EARTHBOAT Shirakabako
設計:PAN- PROJECTS 八木祐理子 高田一正
構造エンジニア:ARSTR
CLTサプライヤー:サイプレス・スナダヤ
木材コンサルティング:森未来
施工:TICプラン
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所在地:長野県北佐久郡立科町芦田八ケ野1579-1
経営:Earthboat
竣工:2025年10月
面積:25.6m2(1棟あたり)
用途:宿泊施設
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仕上げ材料
床、壁、天井: CLT(国産杉材使用)t120mm オイルステイン仕上げ(LIVOS KARDET No.270 オーク色)
外壁: 国産杉材 t18mm 木材保護塗料仕上げ(ウッドロングエコ)
屋根:ガルバリウム鋼板
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