STANDING ROOM Carlton by Dion Hall

Coffee Shop | Melbourne

STANDING ROOM Carlton | Dion Hall | photography: Traianos Pakioufakis

 

DESIGN NOTE

  • 眺望を引き立てるフレームとしてのインテリア

  • 精緻な回転式のコーヒーテーブル

  • コーヒーから導かれた暖色系のカラーパレット

EN

Photography: Traianos Pakioufakis
Words : Reiji Yamakura/IDREIT

 
 

メルボルンCBDの北側に隣接するサバーブ、カールトンのメルボルン大学と向かい合う好立地に、新たなコーヒーショップが誕生した。メルボルン大学構内をはじめ、フィッツロイ・ノースなどメルボルン周辺に計4店舗を展開するStanding Roomの最新店舗であり、このブランドらしいシンプルなエスプレッソ体験をこのカールトンで提供している。Standing Roomがデザインを依頼したのは、デザイナーのディオン・ホール (Dion Hall) さんだ。彼は、メルボルン中心部の人気店Supernormalを手掛けるなど、メルボルンのホスピタリティデザイン界を牽引するデザイナーで、Standing Roomとは今回が初のコラボレーションとなった。

依頼に際して要望されたのは、「立ち飲みスタイルのエスプレッソバーという本質を維持すること」だった。「Standing Roomの原点は伝統的なエスプレッソバー、つまり、立ち飲みのサービスモデルにあります。店内に入り、立ったまま一杯のコーヒーを楽しむ。座ってくつろいでもらうカフェ業態への移行が目的ではないのです」とホールさん。立ち飲みのゲストをもてなし、コーヒーを淹れる所作を中心に据えた環境をつくる、というタスクに対し、デザインの起点となったのは敷地条件だった。前面道路より少し低いレベルにあり、緑豊かな並木と歴史あるヴィクトリア様式の建築と向かい合うこの区画には、最高の眺望があった。そこで、ホールさんは、その眺望をインテリアの主役としてデザインを進めていった。

「第一の原則は、屋外の並木を手前に引き寄せるようにして、窓外のビューに焦点を当てることでした。そして、眺望を最大限に活かし、インテリアを額縁のように機能させるスタンディングエリアの発想が生まれました」とホールさんは説明する。L字型の区画に対して九つある開口部は連続する木製フレームで縁取られ、窓外の景色を一連の風景画のように切り取っている。店舗へのアプローチもよく考えられたものだ。歩道から階段を数段降りることで、硬いアスファルトの歩道から柔らかく親密な空間への移行を感じさせ、正面に位置する温かい色調のコンクリート製カウンター、そして、コーヒーを扱うバリスタへと視線が導かれる。

また、異素材を組み合わせるのではなく、木材を中心とした素材選びについても、眺望を活かすロジックに沿ったものだ。ホールさんは耐久性の高いBrushboxを選択。これは、微かに赤みを帯びたオーストラリア産の広葉樹だ。「温かみ、安らぎや快適性を求めると、木材以上の素材は思いつきませんでした。木材には他の素材では得られない、触れる人に響くような感覚があるのです」。そして、この空間では素材を絞り込んだことで、デザイン上の工夫がより際立って見える。木製の円柱に取り付けられた、オリジナルの回転式コーヒーテーブルは、機能的な家具であるだけでなく、ここで時間を過ごすゲストにいくつかの選択肢を与えている。「円柱は、垂直方向の密度をやわらげ、空間に親密さをつくるために設けました。フリンジとして、境界をあいまいにするような効果を狙ったのです。この円柱がなければお客さんは壁際に行くしかありませんが、ここでは、コーヒーテーブルを眺めの良い方向に向けたり、腕休めに使ったり、鞄を置いたりして、空間をパーソナライズできるのです」とその設計意図をホールさんは語る。この回転式テーブルは、さりげない「おもてなし」の表現として機能しているのだ。

 

容易に回転させることのできるコーヒーテーブル (Photography: IDREIT)

 

また、回転機構を備えた特注のファイバーグラス製ルーバーも見逃せないディテールの一つだ。これは、ゲストが日光や視線の抜けを調整できるもので、その半透明のルーバー本体には、気泡や繊維などの制作過程にできる痕跡が残されている。「それを不完全さと呼ぶ人もいるかもしれませんが、私にとっては、それこそがこの空間に優美さを与え、価値を与えるものなのです」とホールさんは語る。

こうした制作プロセスにこだわるオリジナルのものづくりは、ホールさんのデザインを特徴づけるアプローチだ。かつて彫刻を学んだ彼は、自身の実践を、装飾ではなく、ナラティブの視点からこう説明する。「デザインの根底にあるのは、物語性です。インテリアデザインとは、単に素材やディテールを決めていくことではありません。空間の中に、どのような感情を生み出していけるか。素材、プロポーション、クラフトマンシップを駆使して、そこに感情的な反応をつくり出していく取り組みなのです」。そして、彼のデザインでもう一つ欠かせないのが作り手との対話だという。今回のプロジェクトはドローイングと小さな模型をもとに展開されたが、その作業の多くは机上から離れ、専門的な職人との対話と実験を重ねて生み出された。ステンレスの部材を手掛けたUs From Spaceのインダストリアルデザイナー兼作り手であるダスティンをはじめ、木材やファイバーグラスを扱う職人たちが、プロジェクトの実現を支えている。「新しいものごとの探求は、私にとって絶え間ない学びのプロセスです。そして、それは常に職人たちとの対話から始まるのです」。

そうしたディテールは徹底的に突き詰めながらも、この店舗全体の構成は驚くほどシンプルだ。カウンター、木製のフレーム、いくつかの円柱、そして注意深くデザインされた開口部。この空気を確立するのにはそれだけで十分であり、抑制は意図的なものだという。ホールさんは、その理由を「即時的な共鳴」という言葉で説明する。それは、訪れた人が、デザインを意識する前に、この場所での体験を理解すべきだという考え方だ。「お客さんがコーヒーを楽しみ始める前に、内装材やディテールに注意を向けさせたくはありません。到着した瞬間に、まず、エスプレッソバーでのコーヒー体験に集中してほしいのです」。

この店舗におけるデザインの試みは、Standing Roomの歩みそのものを反映している。2013年のメルボルン大学構内での創業の後、単一のインテリアを複製するのではなく、立ち飲みのエスプレッソバーという軸を一貫して保ちながら、RMIT店など異なる立地に合わせて進化してきた。このカールトンでもその姿勢は貫かれ、周辺環境をフレーミングして引き立てるという、この敷地でしか成立しない空間が誕生した。そして、木材の多用、回転式のテーブル、そして入念にコントロールされた眺望。この店舗におけるすべての要素は、店内から外を眺め、立ったまま丁寧に淹れられたコーヒーを味わう、という体験へと収束するのだ。声高に主張することなく、丁寧につくり込まれたインテリアは、確かにStanding Roomのブランドの歩みの延長にある。そしてホールさんにとっては、制約が乗り越えるべき障害ではなく、むしろ、そこから何か意味のあるものを生み出すための土台になり得ることを改めて示した仕事となった。

 

DETAIL

精緻につく込まれた、オリジナルの回転式コーヒーテーブル。ステンレス製のブラケットはUs From Spaceが手掛けている

丸棒をファイバーグラスで挟み込んだルーバー。回転させて視線や日照をコントロールすることができる

円柱に取り付けた、コーヒー豆などを並べる棚もファイバーグラス製のオリジナル

エントランス横の手すりとブラケットはともにステンレス製

 

CREDIT

名称: STANDING ROOM Carlton

デザイン:Dion Hall

ステンレス部材製作: Us From Space

木工: Cabtec Interiors

ブランディング:More Studio

施工:Dimpat

所在地:183 Grattan Street, Carlton VIC 3053, Australia

経営:Standing Room Coffee

竣工:2025年10月

用途:飲食店

仕上げ材料

円柱:brushbox材

回転式コーヒーテーブル: プライウッド + ステンレス製ブラケット

ウォールシェルフ:ファイバーグラス + ステンレス製ブラケット

パン用ディスプレイ:ステンレス

ウインドウスクリーン:ファイバーグラス

 

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