TRIANGLE by Nao Tamura
Public toilet | Tokyo, Japan
DESIGN NOTE
市街地で目を引く鮮やかな赤
“折形”からインスピレーションを得た造形
厚さ20MMの鉄板による繊細なディテール
photography : Satoshi Nagare/SS CO., Ltd. Hiroko Hojo
words : Reiji Yamakura/IDREIT
ニューヨークを拠点とするデザイナー田村奈穂がデザインを手掛けた公共トイレ。日本財団による、渋谷区内に17の公共トイレを設置するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」の一つとして計画された。これまで、プロダクトデザインやインスタレーションを中心に手掛けてきた田村にとって、初の建築プロジェクトとなった。
「年齢や性アイデンティティー、国籍や宗教、肌の色を問わず、誰もが利用する公共のトイレがどうあるべきかを考える際に、今回は私が女性であるという点がデザインに大きく影響したように思います。女性の方なら、夜間の屋外トイレを利用する際に、恐怖心、あるいは緊張感を覚えたことのある人は少なくないと思います。公衆トイレを利用するだれもが、快適な気持ちを同じように得られるためには、ムードのあるかっこいい空間でも、心地よい空間でもなく、プライバシーと安全が担保できる空間が最も大切だと考えました。一見すると当たり前のようなことですが、そのことを念頭に、レイアウト、建物の配色、ディテールまでを考えました」と田村は振り返る。正面から見て、右から女性用、男性用、車椅子の人を含め誰でも使えるトイレを均等なバランスで配置し、女性用と男性用トイレでは、プライバシーに配慮した個室が入ってすぐの場所に設けられた。
特徴的な造形について尋ねると「今回のプロジェクトは、東京オリンピック期間と合わせて発表される予定でした。そうした背景と、海外からのビジターをもてなすデザインを考える過程で、日本の昔ながらの作法である “折形” が頭に浮かびました。紙を折り贈るものを包むということは、清潔で、丁寧で、その作法に相手を尊ぶ気持ちが込められると言います。その伝統的な作法からインスピレーションを得ました。この細長い三角形の敷地に対して、紙を折ることでつくられる幾何学的な形を空間化してみようと考えたのです。建築の壁や天井に現れる物理的な厚みを極力感じさせないよう配慮し、薄さと紙を折ったような表現にこだわりました」とのこと。シャープなエッジや、鉄板が交差する部分の納まりは、高い施工技術により実現したものだ。
また、安全性を担保するという意味から、ファサードには注意を喚起する赤が選ばれた。「横に防災倉庫、背面に線路の擁壁が迫るインダストリアルな立地において、ここにトイレがあることが明確に伝わるように、少しオレンジ色に近い鮮やかな赤を指定しました。遮熱性の塗料でこの色味を出すことは難しく、理想の赤が出なければ思い切って色を変えることさえ検討していましたが、調整を重ねて実現することができました」とデザイン中の苦労を明かす。
丁寧に整えられたシャープな形状と人目を引く鮮やかな色彩により、デザイナーが「すべての人たちが安全に、ハッピーに生活を営める社会に」という願いを込めたトイレが国際都市・渋谷の街に実現した。
(文中敬称略)
DIAGRAM
DETAIL
CREDIT
名称:TRIANGLE— THE TOKYO TOILET
東三丁目公衆トイレ
デザイン:田村奈穂
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所在地:東京都渋谷区東 3-27-1
施主:日本財団
協力:渋谷区 一般財団法人渋谷区観光協会 大和ハウス工業 TOTO
竣工:2020年8月
仕上げ材料:
壁・天井/スチールt20mm 特注色遮熱塗料仕上げ