Interview with KOICHI FUTATSUMATA / CASE-REAL —part 2

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違いをディテールできちんと表現していくことで、ものの奥行き、深さが変わってくる。

— Koichi Futatsumata / Case-Real

photography : Hiroshi Mizusaki
words : Reiji Yamakura/IDREIT

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この記事はインタビュー後半です。前半の記事はこちら「Interview with KOICHI FUTATSUMATA/ Case-Real -part1」


 

— ここからは、以前に手掛けられた「だしいなり海木」のデザインをもとに、ディテールへの考え方などを聞かせてください。どうしても今回、お聞きしたかったのは、いなりをつくるための漆塗りでつくられた作業台のことです。

あの握り台をつくった時、なかなかの仕上がりで、実は自分用にも一つ欲しいなと思ったくらいでした(笑)。

あの店舗は、もともとあった老舗の日本料理店の前面に、だしいなり専門のコーナーをつくるという計画でした。その中で、いなり寿司を店頭でつくる作業台が必要だ、というお話がありました。通常、流し台の上に金属トレーを斜めに置いて作業することが多いそうですが、この「海木」は催事のための出張も多く、出先でも使える道具が欲しいとのことで。そこで、実際に作業を見せてもらいながらデザインしたのがこの握り台です。作業台の高さや傾斜、いなりをつくるために必要な機能を検証しながらつくりました。

店舗で使う時には、下のトレーを取り外して、シンクの上にそのままはめ込むことができるサイズになっていて、汁は作業台の手元側にあるスリットから下に流れる。出張時には、下のトレーと組み合わせて、だし汁がトレー内に溜まるようになっています。

「だしいなり海木」のためにデザインされた、だしいなり用の漆塗りの握り台。店頭で使う際は、上部だけをシンク上に載せて使用する。下のトレー部分を合わせることで、出張時にも使える工夫がなされている。

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外部から店内がよく見えるように設計された「だしいなり海木」

外部から店内がよく見えるように設計された「だしいなり海木」

 

— 幅と高さがぴったりと店内カウンターの凹みに合うところがいいですよね。図面を描いた後は、どこで製作したのですか。

福井県で漆を扱う同世代の職人を知っており、こんな特殊なものを相談しやすかったことも助けになりました。彼は木地からつくるので、こちらで描いた図面どおりの形状に仕上げてもらうことができました。上下が重なる部分など細部までとても魅力的なものができ、クライアントは喜んで使ってくれています。

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漆塗りの握り台のディテール。手前のスリットから、だし汁がシンク、もしくは、下のトレーに落ちるようにデザインされている。

漆塗りの握り台のディテール。手前のスリットから、だし汁がシンク、もしくは、下のトレーに落ちるようにデザインされている。

 

— そして、オリジナルの握り台でのいなりづくりが屋外からよく見えるピクチャーウィンドーがあるわけですね。この「だしいなり海木」のデザインのように、二俣さんは細部まで手を掛け、丁寧につくり込むスタイルだと思うのですが、そこには何か理由があるのですか。

僕の場合、家具やプロダクトもデザインをしているので、どんなものでも細部まで気になってしまう性分だ、ということはあると思います。

それから、個人的な感覚ではありますが、たとえコンセプトや全体の雰囲気が良くても、細部が雑だと、空間そのものが成立していないように感じるのです。細かいものが積まれて全体ができ上がっているものには、その細やかさが全体に浸透し、そういうものしか持ち得ない空気がある。また、正しくあること、違和感がないこと、が自分のデザインにとっては重要だと思っています。

もちろん、コンセプトは大切ですし、全体をつくる上では欠かせません。でも、コンセプトというのは基本的に言葉に頼るところがあると思います。言葉として明快であればあるほど、説明を受けた側は納得しやすいですが、言葉による説明だけに甘えたくないのです。

コンセプトを知る前に、その空間を訪れて入った瞬間、プロダクトであれば手を触れた瞬間に、ぐっと伝わるものがあってほしい。それを実現するためには、一つひとつをきっちりとつくっていく他は無いし、細部が抜け落ちていると、伝わるべきものが伝わらないように感じます。

— なるほど。コンセプトも大切だけれど、それだけではない何かを生み出すためにやらなければいけないことがある、ということですね。最後にもう一つお聞きしたいのですが、一部の事例からはオーセンティックな和の印象を受けました。自身の中で何か「日本らしさ」をデザインに含めるという意識はあるのでしょうか。

正直なところ、デザインするものが日本らしいかどうか、という基準はあまり持っていないような気がします。でも、小さなものや細かいことを積む中に“世界観”というか、奥行きがあると考えていて、それは日本人の特徴かなと思います。しかし、だからといって、日本らしさを出そうとして細部をデザインしているわけではありません。

それから、自分のデザインにとって大切なことと言えば、素材同士や色の組み合わせ方には、細心の注意を払っています。例えば、「DDD HOTEL」では、モスグリーンに合わせるグレーは、どんな色相にするか。黒と白の間の無彩色のグレーか、赤や緑、青みを持たせるといった細かい色みのコントロールにとても気を使いました。中間に置かれるものや色には、他のもの同士をうまく繋ぐ接着剤のような役割があると考えています。そうした細かいことに配慮し、どれだけ詰めていくかで空間の“正しさ”が決まってくると思うんです。

— 中間に置かれる色への視点というのは興味深いですね。きっと、その色一つだけの効果というよりは、その中間色のおかげで、利用者がふと眺めた時の印象や心地よさといった部分に影響があるような気がします。

そうですね。細部を詰めずに、大きいだけの箱をつくったとしたら、そこには空虚な印象しかないと僕は感じます。

インテリアの設計では、比較的細かいところに目を配りやすいですが、建築をゼロからつくるとなると、現実的には、法規や敷地条件から決まることがとても多い。でも、そうした要因だけでつくられた空間はとても寒々しい。もっと、内部をどうするべきか、細かいところがどうあるべきかを考えて、人の手が届くところ、人が感じるところをリアルに検討しなければいけないと思っています。

— 華美でなく、シンプルにつくること、というお話が「DDD HOTEL」ではありましたが、そうしたミニマルなデザインについて意識することはありますか。

僕の場合、自分ではミニマリストではないと思っています。いろいろなものをもっとシンプルに納めたければ、さらに要素は減らせる。でも、それをやり過ぎないことが大切だと思っています。

要素が整理されずに多過ぎるのは良くありませんが、かといって、要素を削りすぎてゼロになってしまった状態がベストではない。シンプルだけど、ちゃんと質感があるもの、細かなテンションの違いが伝わるもの。

そうした違いをディテールできちんと表現していくことで、ものの奥行き、深さが変わってくる。そして、そこでは決して手を抜きたくない。その表現に手を抜きたくないから、結果的にディテールを詰めなきゃいけない。

ディテールをつくり込むのが目的ではなく、ポイントとなる部分に現れるかすかなグラデーションや差異をつくっていくために、ディテールが大切になってくる。僕にとって、ディテールのデザインとはそういうものです。


取材中に何度も聞かれたのは、“正しくある”というキーワードだった。「細部を丁寧につくることで、空間に深みが生まれる」、「要素を減らし過ぎて、それがゼロになる状態が良いわけではない。その手前にある、シンプルだが質感やかすかな違いが伝わる状態を、ディテールで表現する」という言葉が強く印象に残った。そうした思考から生み出される空間やプロダクトの持つオーセンティシティが、国内外のクライアントを惹きつけるのだろう。

 
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KOICHI FUTATSUMATA

二俣 公一/空間・プロダクトデザイナー。福岡と東京を拠点に空間デザインを軸とする「ケース・リアル」と、プロダクトデザインに特化する「二俣スタジオ」両主宰。インテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで、多岐に渡るデザインを手掛ける。主な空間作品に香川県の豊島にある「海のレストラン」ほか、ボタニカルケアブランド「イソップ」との協働など。近作のプロダクトには2019年のミラノサローネで発表し、アルテックよりリリースされた「キウル ベンチ」などがある。
http://www.casereal.com
http://www.futatsumata.com

 
 

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