Interview with MASAKI KATO / Puddle —part 2

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デザインをする時には、常に使う側の視点で考えることを大切にしている

— Masaki Kato / Puddle

photography : Takumi Ota (KINOSAKI RESIDENCE)
Nacasa & Partners(IWAI OMOTESANDO)
words : Reiji Yamakura/IDREIT

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この記事はインタビュー後半です。前半の記事はこちら「Interview with MASAKI KATO/ Puddle -part1

 
特徴的な梁を、空間の主役として残した「KINOSAKI RESIDENCE」。既存の舞台は塗装をすべて剥がして素の表情を現すなど、築50年という時の経過を丁寧に読み取り、再構築したデザイン。 photography : Takumi Ota

特徴的な梁を、空間の主役として残した「KINOSAKI RESIDENCE」。既存の舞台は塗装をすべて剥がして素の表情を現すなど、築50年という時の経過を丁寧に読み取り、再構築したデザイン。 photography : Takumi Ota

 

—  なるほど。この住宅「KINOSAKI RESIDENCE」でも強く感じましたが、加藤さんはデザインをする上で手触りにまですごく繊細に気を使っている印象がありますが、そこには何か意図があるのでしょうか。

うーん、そこにあまり高尚な思想はないのですが、僕が細かいところからしか物を見ていないからかもしれませんね(笑)。

普段の生活の中で、自分の目に近いところや、手の触れるところが気になってしまうので、自分が設計者として携わる時にもおのずとそうした点を無視できない。また、いつも「使う側の視点で考えること」を大切にしているという理由もあります。

細かいところだけを気にするわけではなく、大雑把なところも多々ありますが、ある気になる点に自分の中のセンサーが反応してしまうんですね。これは子供の頃からそうだったように思います。かつて、僕の仕事を見たあるアートディレクターが、「ナタで削った後に、カミソリで仕上げたような空間だ」と言っていましたが、そんなところがあるのかもしれません。

— 全体の構成と細部の対比を言い当てていますね。現在は海外の施主とのお仕事も多いと思うのですが、“日本らしさ”をデザインする際に意識することはありますか。

日本ということを意識することはあまり無いですね。ただ、意識して設計はしていないんですが、これまでの仕事を振り返ると、何か日本の要素が影響していると強く思います。

例えば、僕は伊勢神宮のコンセプトがとても好きなんです。ずっと建築を残すのでなく、左右の敷地に20年ごとに建て直し、形だけが残っていくことや、きちんと勝ち負けのあるデザインであること。

また、モノの勝ち負け、という見方はいつも意識していて、例えば岩と接する塀が、岩の形状に合わせてトリミングされた様子を見ると、自然の摂理との勝ち負けがはっきりしていて惹かれるし、日本的な考え方だと感じます。負けと言っても何かが劣っているのではなく、自然に対して“一歩引いた”状況なわけで、そうした構成に興味があります。これは、海外の設計者による空間からも似た印象を受けることがあるので、一概にこの“勝ち負け”の概念が日本らしいとは言えませんが、それに対して、周辺を無視した巨大な建造物や、すべてが足し算されたようなものは苦手です。

「IWAI OMOTESANDO」のベンチは、背もたれ部分にオイルフィニッシュのオーク材を用いた、手触りに配慮したデザイン photography : Nacasa & Partners

「IWAI OMOTESANDO」のベンチは、背もたれ部分にオイルフィニッシュのオーク材を用いた、手触りに配慮したデザイン photography : Nacasa & Partners

面の取り方、素材の合わせ方にデザイナーの意思を感じる「IWAI OMTESANDO」バンケットのカウンターのディテール。腰の素材はナチュラルな模様のある札幌軟石

面の取り方、素材の合わせ方にデザイナーの意思を感じる「IWAI OMTESANDO」バンケットのカウンターのディテール。腰の素材はナチュラルな模様のある札幌軟石

 

—  なるほど。これまで加藤さんのお仕事を見ると、その感覚はよくわかるように思います。欧米の人は、よく日本的でミニマルなデザインをZen Styleと呼んだりしますが、日本人の私からすると、その定義はとても曖昧だし、Zenという言葉自体、あまり気軽に使えない。また、そう呼ばれる一群の中にある違いをもっと説明したいと思ってしまいます。

確かにそうですね。それほど、日本の言葉やデザインというのは、海外の思想と背景が異なるのだと感じます。

— 加藤さんは海外の方から、日本らしいデザインだと言われることが多いでしょう?

はい、確かに多いですね。そして、必ずミニマリストだと言われる。自分ではそう意識していないし、もっとミニマルな人は他にいるでしょう、といつも思うのですが。

また、これは日本らしさとは 少し違うかもしれませんが、デザインを考える際に、三つの軸があると良いと思っています。僕は華道に詳しいわけではありませんが、生け花の世界にも、三つの軸を基本とするという考え方があるようですね。

コンセプトを考える時でも素材でも、僕にとっては三つがちょうどいい。二つの素材では少し足りないし、四つでは多すぎる。そんな感覚を持っています。そうした意識の中には、何か日本の影響があるのかもしれません。

 

加藤さんの話を聞いて、いつもなるほどと思わされるのは、空間に立つ人をセンターに据えた発想の方法だ。それは、施主ファーストというものとは少し異なり、飲食の空間であれば、そこで過ごすお客さんやスタッフ、住居であればそこに住む人であったり、遊びにくる友人であったりという柔軟性がある。

そして、その対象者が「何を見て、どこに手を触れ、どう感じるのか」という体験に思いを巡らせて生み出されるデザインが、Puddleの厳選した三つの素材、もしくは、三つの軸を通して表現されていく。ロケーションや既存部の風合いを丁寧に観察した上で、表に出過ぎるのでもなく、かといって自らを消し去ることもなく、その場の特性を魅力に転化するデザインが、次なる個性豊かなリノベーション案件を引き寄せる。

(文中敬称略)

 
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MASAKI KATO

加藤匡毅/一級建築士。工学院大学建築学科卒業。隈研吾建築都市設計事務所、IDEEなどを経て、2012年にPuddle設立。現在、同事務所共同代表。横浜市金沢区で幼少期を過ごし、歴史的建造物と新造された都市計画双方から影響を受ける。これまで、15を超える国と地域で建築・インテリアを設計。各土地で育まれた素材を用い、人の手によってつくられた美しく変化していく空間設計を通じ、そこで過ごす人の居心地良さを探求し続ける。活動範囲は国内にとどまらず、アジア、中東、ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカ各国に広がる。主な作品に「IWAI OMOTESANDO」、「DANDELION CHOCOLATE」など。2019年9月に学芸出版社より「カフェの空間学 世界のデザイン手法」を出版。

http://puddle.co.jp/

 

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