Interview with TERUHIRO YANAGIHARA—part 2

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いま思い切って違う環境に出ていくことで、見えなかったものが見えてくるはずだ、と考えている

— Teruhiro Yanagihara / TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO

words : Reiji Yamakura/IDREIT

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この記事はインタビュー後半です。前半はこちら「Interview with TERUHIRO YANAGIHARA —part1」


 

— 続いて、羽根木にオープンしたウィメンズブランド「Mame Kurogouchi」の店舗デザインについて聞かせてください。

 オープン時期は、その後にデザインした伊勢丹新宿店でのポップアップが先になりましたが、羽根木の店舗がマメとの最初のプロジェクトでした。同社のアトリエがある羽根木に、週末だけオープンする直営店を出したいということで、デザイナーの黒河内真衣子さん自身が場所をすでに決めていました。本人がよく行くという喫茶店の隣で、とても小さな木造長屋の一角だったので現地を見た時は驚きました。しかし、ブランドにとって初の直営店といっても都心に出店するのではなく、アトリエ近くに自分たちの言葉で説明できる場所を持ちたい、という意図を聞き、まさにこのブランドにふさわしい敷地だと納得しました。 

 
木造長屋の雰囲気が色濃く残る「Mame Kurogouchi」のファサード。街に溶け込む店舗にしたいという、Mame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子氏の言葉から発想されたデザイン。 photography : Ichiro Mishima

木造長屋の雰囲気が色濃く残る「Mame Kurogouchi」のファサード。街に溶け込む店舗にしたいという、Mame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子氏の言葉から発想されたデザイン。 photography : Ichiro Mishima

 

— デザインは、どのように進めていったのでしょうか。

 Mame Kurogouchiのファッションは、一見普通でもプロが見るとものすごい挑戦をしているのがわかる、というもので、職人の技術を生かした作風で世界の評価を得ています。そこで、この店舗では彼女がファッションの世界でやっていることと同じ考え方で空間もつくるべきだと考えました。また、街に溶け込む空間で、小さいながらもディテールまで考えられたものにしたかったので、既存の技術を使いながら“革新”をもたらすべきと考え、小さな木造建築内にコンクリートの空間をつくることにしました。この立地でコンクリートの空間が欲しければ、大抵は薄塗りできるコンクリート風の素材で仕上げると思うのですが、それではブランドのコンセプトに反するため、型枠を組んで本物のコンクリートを流し込んでいます。ただ、この場所で一般的な厚さのコンクリートを打設しては荷重が大き過ぎるので、わずか厚さ13mmのコンクリートを打ちました。 

 
改装前のインテリア(上)と施工中の様子(下2点)。photography : Ichiro Mishima

改装前のインテリア(上)と施工中の様子(下2点)。photography : Ichiro Mishima

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— 13mm!? そんなことできるのですか。施工したのは?

 施工はTANKにお願いしました。彼らじゃないとやってくれなかったでしょう。この薄さを実現するために、収縮がほぼゼロのコンクリートを使い、配合をテストしながらようやく実現できたものです。表面が平滑な型枠を使ったので、キメの細かいコンクリートの表面は鏡面のような仕上がりになりました。また、現場で打設したためにできる、ちょっとした膨らみなどがコンクリートらしい質感を見せています。

 
 
木造長屋内に、わずか13mm厚のコンクリートを打設したという壁まわりのディテール。photography : Ichiro Mishima

木造長屋内に、わずか13mm厚のコンクリートを打設したという壁まわりのディテール。photography : Ichiro Mishima

きめ細かいコンクリートを使用したことにより表面は艶のある仕上がりとなった。天井や壁面ディスプレイ棚の素材はラワン合板。

きめ細かいコンクリートを使用したことにより表面は艶のある仕上がりとなった。天井や壁面ディスプレイ棚の素材はラワン合板。

 
 

— アプローチも個性的ですね。 

店内は小さいながらも、わざと奥に引き込むアプローチを設けて、茶室のような特別感のある構成としました。また、店内奥から入るフィッティングルームは、試着後にカーテンを開けると、通りの景色が見える配置としています。線路に面する外壁部分は、雑多な周辺環境を隠すのではなく、「都市を取り込む」ことをコンセプトに全面ガラス張りとしました。 

 
フィッティングルームのカーテンを開けると前面道路側が見えるレイアウト

フィッティングルームのカーテンを開けると前面道路側が見えるレイアウト

店内奥の壁は都市を取り込むという考え方からガラス張りとしている。

店内奥の壁は都市を取り込むという考え方からガラス張りとしている。

 

— ファサードにかつての面影がはっきりと残る古びた木造建築にコンクリート打ち放しの空間がある、という唐突さがおもしろいですね。 

表参道などであれば、コンクリートのファッションストアは普通だと思いますが、この環境にあるという“違和感”を意図しました。茶室のような空間性、高価な建材ではなく、極めてシンプルな素材であるコンクリートとベニヤを使いながら細部で違いを出す、といったイメージを共有しながらデザインを進めたことで、大きいものではないところに価値を見出す、Mame Kurogouchiらしい店舗になったと思います。

 — この2事例に限ったことではないのですが、柳原さんは一般的な素材を使っても、別のものに見せるようなデザインをずっと手掛けてきたように感じています。 

自分の中では、たとえ同じ素材でも洗練させることでこれまでと違うものをつくりたい、という意識が常にあります。個人的な好き嫌いでいうと、野暮ったいものが好きで骨董や古いものを集めているんですよ。ただ、今見ると野暮ったく感じるものでも、つくられた年代を考えると当時最先端の技術が使われていたりする。300年前の有田の焼き物なんてものすごい技術だと思います。ただ、それを今の時代につくっても、ただのコピーでしかない。今の時代に自分ができることはと何だろうと考えると、つくる方法や加工の仕方で精度を高めたり、当時は手に入らなかった技術を生かすことだと考えています。 

 
有田焼に使う陶石を混ぜた土壁の側面を、厚さ2mmの銅板で抑えた「1616/arita japan」有田ショールームのディテール。 photorgaphy: Takumi Ota

有田焼に使う陶石を混ぜた土壁の側面を、厚さ2mmの銅板で抑えた「1616/arita japan」有田ショールームのディテール。 photorgaphy: Takumi Ota

柳原がプロダクトデザインを手掛けた、TY”Standard”シリーズ。

柳原がプロダクトデザインを手掛けた、TY”Standard”シリーズ。

柳原がプロダクトデザインを手掛けた、1616/arita japanのTY “Standard” シリーズの新作「Anise Bowl」と「Anise Plate」。

柳原がプロダクトデザインを手掛けた、1616/arita japanのTY “Standard” シリーズの新作「Anise Bowl」と「Anise Plate」。

陶器で実現することが難しい形状のため、デザインから完成までに8年を費やしたという。(写真提供/TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO)

陶器で実現することが難しい形状のため、デザインから完成までに8年を費やしたという。(写真提供/TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO)

 

— なるほど。今日はデンマークと日本の違いなども聞くことができましたが、普段デザインをするときに、日本らしさを意識することはあるのでしょうか。 

デザインや素材としての日本らしさ、ということは考えません。ただ、精神的なものとしては、日本らしさを意識しないと言えば嘘になるかな……。日本人だからかはわかりませんが、精度にはこだわっているし、「1616 / arita japan」有田ショールームの土壁のように、今これをするなら精度を上げてこんな納まりで、と自分なりに工夫したくなる。僕の場合はプロダクトデザインもしているから、仕上がりへの要求が細かいので嫌がられることもありますよ。「この銅板の厚さにそろえて2mmの目地にしてほしい」なんて言うと(笑)。でも、職人の方たちもそれならやってみようって頑張ってくれるし、そうすると本当の気持ちのいいものができるのです。 

— 最近は、デザイン事務所という場のあり方についても考えているそうですね。

コロナウイルスの影響で急に、ということではないのですが、大阪事務所に加え、ヨーロッパなど自分たちがプロジェクトをしようとする場所にも拠点を持てないかと検討していました。先ごろ、南フランスのアルルによい場所が見つかり、いま、事務所とギャラリー兼ショップを開設する準備をしています。かつて、ゲストハウス機能のある京都の一軒家を事務所としていた時は、海外から訪れる人々との交流がありました。ここ3年ほどは、利便性の高い大阪に戻り、設計事務所らしい環境に満足はしているのですが、いま思い切って違う環境に出ていくことで、もっと吸収できるものがあるのではないか、見えなかったものが見えてくるはずだ、と考えているところです。 

 
南フランスのアルルの旧市街にある、事務所とギャラリー兼ショップの開業に向けて準備中という歴史ある建物。外観は、記事冒頭の写真のようにグリーンに覆われている。(写真提供/TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO)

南フランスのアルルの旧市街にある、事務所とギャラリー兼ショップの開業に向けて準備中という歴史ある建物。外観は、記事冒頭の写真のようにグリーンに覆われている。(写真提供/TERUHIRO YANAGIHARA STUDIO)

 

今回のインタビューでは、これまでに手掛けたデザインの骨格となる考え方から、働く環境に至るまで刺激的な話を聞くことができた。自分がやりたいのは流行を追うのではなく、普遍的なデザインと言い切る柳原は、手触りやちょっとした細部の見栄えが訪れた人の印象に大きな影響を与えることを知っているからこそ、そこに注力したデザインをし続けているのだろう。画像がインターネット上を飛び交う時代に、写真だけでは伝わらない差異を追い求める姿勢。現場主義という言葉は適切ではないが、クライアントの本質を理解し、ものづくりの現場や生産地の背景を知ることで発想されるデザインの価値を再確認する取材となった。

(文中敬称略)

 
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TERUHIRO YANAGIHARA

柳原 照弘/1976年生まれ。デザイナー。2002年に自身のスタジオを設立。大阪(Japan)、Deventer(Netherlands)、Arles(France)に拠点を構え、デザインする状況をデザインするという考えのもと国やジャンルの境界を超えたプロジェクトを多数手がける。主なプロジェクト:1616/arita japan、2016/、Kimura glass、OFFECCT、Kvadrat、Skagerak、THREE、FIVEISM x THREE、Mame Kurogouchi、等。 作品所蔵:フランス国立造形芸術センター(CNAP)、Stedelijk Museum Amsterdam(アムステルダム現代美術館)等。photography: Anneke Hymmen

http://teruhiroyanagihara.jp

 

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