HIROKOSHIRATORIDESIGN / HIROKO SHIRATORI
Perfectionist
施主側として関わったこのプロジェクトには、赤井さんのディテールへの丁寧な配慮と長期的な視線を持った責任あるものづくりへのプロフェッショナリズムが満ちていました。
モルタルメインのスケルトン空間に軽やかな所作で調和するフレキシブルボードを使用した商品棚。イソップのビジュアルアイデンティティの一つであるプロダクトディスプレイのスタイルとその荷重を深く理解・尊重され、設計者・施主と共に詳細を詰めてくださいました。
下地材で見せる家具という挑戦を、必要なフィキシングを構造的な設計処理で消し去り、長いスパンでも成立するたわみ対策を施した造りの棚は、開店から8年近く経った今日も変わらない安定感で機能と美観を担保してくれています。
設計中『トーナメント』のニックネームで呼ばれていた空間の中央に配されたシャンデリア。吊ってみるとちょっとした内包物の具合で微妙に肩が上に下にとなってしまう事が判明し、オープン目前の問題に頭を突き合わせ打合せした結果、金物の肩に小さな穴を開け砂を縦方向の筒に流し込む方法で微妙な荷重調整をする事に落ち着きました。何人の大人がそれぞれが鍛えた目の中の水平器を駆使してその作業を見守ったことか。
そんなドラマを知る由もない軽快さで、ダブルハイトの空間に三次元トーナメント表を描き、日々店内を照らしています。気になる事がないという事は、時に究極の完璧な状態なのかもしれません。
また、店内1階の床に敷き詰められた大谷石は、オープン時にはまだ青々した色味が特徴で(店内に現れる緑色の色相は当初の石の色がインスピレーションになっています)粘土質のミソがつまった状態でした。「どんどん乾いて、ミソが抜けて、うちに色味も変化してゆきますよ。」の言葉通り、今はよりモルタル側に寄った印象になっています。
石は採った場所、切り出されてからの時間で表情が変わってしまうから、と、オープン後に何かがあった時を考慮して余分を取ってくださった石板達、まだお店で大切に保管しています。
Collaborator
専門的な知見・助言、時に何気ない会話が、デザインの始点になることが多々あります。紳士で真摯な赤井さんからも沢山のインスピレーションをいただきました。
残置を有効活用しながら空間に新たな印象とブランドのアイデンティティを挿入する、という課題のプロジェクト。
まず、モルタル仕上げの床を好まれる施主さんのスタイルを、この条件下での可能なアプローチとしてモルタル風の大判タイルで進めましょうという合意から、この店舗のリズム感とデザインの基盤が産まれています。
横長で奥行きの浅いフロアに対して、45度回転した大きなグリッドを店舗全体にタイルで『ひく』ことにより、多様な動きと視線の流れの可能性を追加しました。可動のディスプレイ什器はタイルのプロポーションから展開され、その高さのバリエーションもタイルのユニットを尊重することで、空間全体の縦方向の関係性のスタートポイントになっています。
指定の位置に『ショーウィンドウ』を造作するという設計指針に回答するためプランニングされたフレームの設え。引き算のアイデアを具現化するのは簡単な事ではなく、ディテールと施工レベル如何で、実らない結果となる事も多々あります。
「この突き出し一つはどうしても必要です、が、位置の変更はある程度可能です。まあ、どうにかできますよ。」経験値からくる信頼できる一言からはじまるやりとり。多くの方が気にも留めないかもしれない数センチの駆け引き、そして、全てが呼応していると考えるこちらの「aがこうなるならbはこうなってcは・・・」の気が済むまでのデザイン調整の辛抱強いお付き合い。実際の現場では、最終の精度を誰よりも厳しく判断し、的確な調整を促してくださり、以来、effortlessな立ち姿で移り変わるトレンドをフレーミングしています。
継続的なお付き合いの中で、こちらのロジックとマインドを次第に捕えてくださったが故の「ここ調整したので、こっちとあっちも変更しますよね。あと、ここはここ揃えにできる範囲に来たので、合わせちゃいますか?」。少し恥ずかしく、その何倍も大きな協働の喜びと安心感をくれたご提案にいつまでも感謝します。
Chivalrous
神戸三宮の中心、生田神社の参道の角地にある(KOBE SAUNAの看板を眺める)ビルの6階に位置する「床屋にもう」は、理容・美容サロンの展開を始められるというクライアントさんの初出店店舗です。
人との繋がりと様々なものことへの尊敬を大切にされる、日本らしいの道を重んじる未来あるお施主さんと、継続的で発展性のある関係を共に築いていただけたらとアンドエスさんに施工をお願いしました。
『にもう』は『二毛作』に由来しており、サロン業を軸に、そこに全く別の目的や活動を同居させることで相互の人の出入り・交わりが互いを展開させてゆく、という意図がこめられています。1フルフロア、100平米のスケルトン空間に理容と美容のヘアサロンとカフェを、という依頼でスタートしたプロジェクトに、赤井さんの多業種に渡るexpertiseを詰め込んでいただいたのは言うまでもありません。
元来の床屋の魅力に着目し、コミュニティーの集うオープンで自由度の高い『パーク』と、紳士の嗜み・術を堪能する『茶室』の二つにゾーニングされています。
『パーク』はビルの一角を挟む2面のフルウィンドウを有し、眺望の良いサロンとカフェになっています。カフェはシンプルなコーヒースタンドとして機能する装備のカウンターを設えており、カット台前のミラーも、固定のシャンプー台もない(床下に給排水を仕込んだ特殊な可動シャンプー台を採用しています)シンプルな空間は、多くの施工の妙によって実現されています。他業種がひとところに入ると必然的に経年の負荷も大きくなりますが、赤井さんのご知見のおかげで清掃性・耐食を考慮した素材・仕上げの調整判断ができました。
モルタル、木毛セメント板、オーク材フロアに、レトロでユーティリテリアンな緑色が爽やかな『パーク』に対し、細い通路を経て入室する『茶室』はベースの素材にマットの黒が利いたシックな空間で、ディテールの美しい納まりと仕上げの丁寧さが落ち着きのある体験を担保してくれています。
誠実に、愛情を持って、時に厳しく、時々愛らしく、どんなプロジェクトにも寄り添ってくれた赤井さん。気が付けば知り合ってから10年近くの時が過ぎていました。どこでどんな時間にあってもコンスタントな赤井さん。もう一度でいいから会って御礼がしたい。
今日も図面をひきながら、「共有していたらどんな反応をしてくれただろう、今までアドバイスいただいた事をちゃんと反映できているか、ピリッとされてしまう点はないだろうか」と思い馳せます。