PUDDLE / MASAKI KATO

% ARABICA 京都 嵐山 設計:Puddle 施工:アンドエス 撮影:太田拓実

「% ARABICA 京都 嵐山」のカウンター

Puddleを立ち上げたのとほぼ同時期、2012年ごろに赤井さんと出会いました。その頃に依頼した仕事では、作図から納まり、施工までかなりの部分を手伝ってもらったこともあり、赤井さんは僕にとって“年下の兄貴”のような存在でした。

今回、紹介したい事例の一つは、コーヒー店「% ARABICA 京都 嵐山」の人造大理石を研ぎ出したカウンターです。この店舗は、「% ARABICA 京都 東山」に続く赤井さんとの仕事で、オーナーと僕の考える「クリーンで明るい店舗に」というイメージを元に、白い研ぎ出しのカウンターをつくりたいと相談しました。研ぎ出した人造大理石は定期的なメンテナンスが必要となるため、施工会社にも負担が掛かるので何と言われるかなと思ったのですが、赤井さんは開口一番、「いい職人おるで」って。すぐに、やりましょうと言ってくれて、色決め、ディテールの検討と、僕らの意図をはるかに超える技術と提案力で要望を受け止めてくれたことを思い出します。

昨今、設計者はCADを使うので、直線は完璧な直線に、30Rの曲線であれば30Rに正確に描くことができますが、職人さんの手でつくってもらう際には、図面上の直線が必ずしも直線にはならないことがあります。しかし、鍛錬した技術でしか成り立たないディテールに僕は直線以上の価値を感じるのです。

白いコーヒーカウンターというのは、当時、他のカフェには無かった記憶しているのですが、そんなチャレンジに応え、極めて高いレベルで実現してくれたのはアンドエスであり、赤井さんだったと思います。

 

「Dandelion Chocolateファクトリー&カフェ蔵前」の新旧のコントラスト

この店舗は、戦後に建てられて増改築を繰り返した建物にあります。この場所にするとクライアントが決めた時に、とても魅力的な空間でしたが現法規にそぐわない状態だったので、「赤井さんとじゃないとできません」と言って、すぐにアンドエスさんに声を掛けました。解体前から赤井さんと現場に通い、法規をクリアし、店舗として営業するためのストーリーを共に考えていったことを覚えています。

既存の仕上げをすべて剥がした1階の天井では、2階の床板が見えていて、それを支えるのは鉄骨と木造の混構造。朱色の錆止め塗装をあらためて施したコの字形のスチールの間に切断面が見える角材は、かつてこの建物を支えていた柱の一部です。この鉄骨のすき間を意味あるものとして使いたかったので、難しいだろうなとは思ったのですが、柱が不揃いに突き出していた部分は、鉄骨の下端でスパっときれいに切りたいとお願いし、スリット状の部分には照明器具を埋め込んでいます。また、天井から吊られた蛍光管の照明器具は既存のもので、不要な部分だけを剥がして再利用しました。

触れたくない部分には一切触れず、ととのえる部分は徹底的にととのえるという新旧のコントラストは、図面に表現できるものではなく、赤井さんの深度で僕らの意図を読み解いてくれたから実現できたと感じます。また、赤井さんは自分のラッキーカラーは赤だと言って、いつも赤い靴下を履いていましたが、この店舗では赤い鉄の仕上げやレッドシダーを使ったことで、彼の人となりが空間にも表れているような気がしています。

 

風越の家 設計:Puddle 施工:アンドエス(キッチンのみ) 撮影:志摩大輔

「風越の家」のキッチン 

これは、我が家のキッチンです。赤井さんに自宅のキッチンをつくってもらったのは、2度目のことでした。どちらのキッチンでも、天板に銅を使ったり、スピーカーを仕込んだりという、僕の子供のようなこだわりに付き合ってもらいました。今回のカウンタートップでは、銅板のエッジを浮かせて見せるため、端を持ち出しているのですが、厚みを決める時に僕は1.5mmくらい必要でしょうと聞くと、「1.0mmでいけますよ」と返事が返ってきました。普段のデザインでは、僕が攻めた寸法を言い、赤井さんが安全を見た数字を返してくれるのですが、その逆だったのでよく覚えています。竣工後1年が経ち、今も曲がらず使えているので、どんな心境でそう答えてくれたのか聞いてみたかったです。

また、収納扉の面材には、僕の友人のオリジナルパンチングレザーを使いました。家具用ではなくファッション用のレザーだったので、赤井さんがその友人を訪ねて詳細を確認した後、細かくボンドを点付けする施工法を考えてくれました。最善を尽くしてもらったものの、レザーは自然とたわんで凹凸のある状態が写真でも見てとれると思います。昔の僕であれば、ピタッとしていなければ嫌だったかもしれませんが、家を訪ねる人からはおもしろい表情だと褒めてもらえるし、自分でも今は素直に個性だと思う。前例のないことに挑戦した結果、こうした予想外の仕上がりに出合えたことに感謝したいと思えるんです。

赤井さんの仕事ぶりを思い出すエピソードは尽きませんが、Puddleを立ち上げたばかりの頃には、事務所で使うデスク用にラーチの合板を頼んだことがありました。するとその場でさっとメジャーを取り出して、1600×800かなと言って帰っていきました。僕は、ただカットした合板が宅配便で届くと思っていたら、丁寧にサンダー掛けした上でツヤッツヤにウレタンで仕上げた、メラミンを貼るよりもよほど手間が掛かったんじゃないかという合板を、後日持参してくれました。その後、一緒に仕事をするうちに、赤井さんがきれいにと言ったら、ものすごくきれいに仕上がるということを肌で感じましたが、天板一つにここまでしてくれるという、彼の仕事に対する姿勢を今もよく覚えています。それ以来、店舗や住空間などさまざまな現場を彼と協業してきましたが、施工者と設計者という枠を超えて、僕が対峙しているものに対して、足りないピースをいつも赤井さんが補ってくれた。こちらの要望に、いとも簡単に「やりましょう」と言って、きちんと解決策を考えてくれる。そんな手の差し伸べ方をして、二人三脚のように一緒に歩いてくれる人でした。

Puddle 加藤匡毅

 

Reiji Yamakura