KENTA NAGAI STUDIO / KENTA NAGAI
RINKAN渋谷本店
赤井さんと初めてお仕事をさせていただいたのは、前職となるサポーズデザインオフィスで担当したRINKAN渋谷本店というアパレルショップである。本店ということもあり3層の売場スペース、買取スペース、事務所スペースからなる比較的大きな店舗であり、この3層の売り場を繋ぐ新たな階段や2層分に跨るガラスファサード、クリーニング用ロータリーハンガーの什器転用など、構造も含めた様々な挑戦が求められた。
赤井さんに関しては、数々の有名店舗の施工に関わってきた豊富な経験を持ち、とても丁寧な仕事をされる方だということを同僚から聞いていた為、いつも以上に期待感と緊張感を持ってプロジェクトに挑んだことを覚えている。 そして実際プロジェクトを進めると、とても細かな気配りをされる方であると感じた。
例えば現場確認に伺った際、現場がとても綺麗に整理がされているのはもちろんのこと、設計者やお施主さんの荷物の置き場を用意してくれたり、飲み物を用意していただいたりといった細かな気遣い、そして何か気になることがあるとすぐにあの渋い声で現場監督さんに事細やかに指示を出されていた。細かいことではあるがこういった現場でのやりとりや打合せ、施工図面などといったそれら一つ一つに対しての姿勢から人柄を感じられる施工者さんは少ないのではないかと思う。
そして様々な難題に対しても「ちょっと考えさせてください」と実現できる方法を最後まで一緒に考えてくれた。中でも階段は構造的にも棚什器と一体となった特殊なつくりとなっており、構造と意匠が立体的に絡み合うため、構造家さんと協働のもと、模型、CG、スケッチ、図面、など様々な検討方法を用いて、何度も打合せを行った。そして赤井さんの指示のもと最終確認として階段の一部を実際のスケールで製作し検討をおこなうことで、より精度の高い改良策を模索していった。最終的には様々な難題を見事にクリアしつくり上げたお店はお施主さんにも大変喜んでいただくことができた。
ある時、難しい相談ばかりで申し訳ないといったことをふと口にしたことがあった。
赤井さんは難しいことほど相談されるのはうれしい事であると話してくれた。金額やスピードといった土俵ではなく、難題をクリアできる実力を頼ってもらえることこそ価値であり、そういった価値をつくってきたいといった旨を話してくださった。
この言葉を聞いて改めて赤井さんに対して信頼と尊敬を感じると共に、今後も様々な挑戦を一緒に続けていきたいと強く感じた。
ASKWATCH新宿
前職を離れ独立することを決意した時、赤井さんにもその報告をした。「応援しますよ。お祝いしないとですね」と赤井さんに金沢の行きつけのお寿司屋さんに連れて行っていただいた。応援していただけたこと、そして組織ではなく一人の設計者として今後も付き合ってもらえるのだということがとても嬉しかった。それから赤井さんとは定期的に金沢を中心に旅行や食事などを一緒に楽しむようになっていった。
そんな中、ASKWATCH新宿で独立後初めて赤井さんとお仕事することになった。
独立後間もないプロジェクトであること、またお施主さんも新規ブランド立ち上げ最初の店舗であることから意気込んで臨んだこともあり、工事金額がなかなか予算におさまらず苦戦していた。着工までのスケジュールが迫る中、お施主さんとの間で減額案がまとまりかけた時、赤井さんから減額案に対して更なる調整の提案をいただいた。コスト的にとてもバランスが良くすぐに採用となり無事着工となった。施工者さんという目線からプロジェクトに真摯に向きあい、より良くなるように常に一緒に考えて進んで頂けることを改めて頼もしく感じた。
いよいよ現場が動き始めると、実は密かに楽しみにしていることがあった。
赤井さんと現場監督の大橋さんの師弟コンビ(?)のやり取りである。現場での赤井さんは正直とても厳しく、大橋さんとは特に厳しいやり取りをされていることを目撃することがあった。しかし赤井さんや大橋さんとそれぞれ食事の席などでお話を聞いていると、とても信頼しあっている良い関係であることが分かった。それからは二人の現場でのやり取りが昭和の師弟関係をテーマとしたコントを見ているようで、勝手に現場名物と呼びお施主さんの担当者さんと密かな楽しみにしていたのだ。
そして現場も進み、無事引渡日を迎えることができた。しかし引渡し日当日、是正の方針に関してちょっとした考え方の違いから赤井さんと言い合いのようなカタチとなってしまった。これまであまりこういったやり取りがなかったので、しばらく赤井さんとお話をするのが気まずくなってしまった。そんな状況の中、元々約束をしていた恒例の金沢旅行の日が来た。待ち合わせ場所に向かう途中はとにかく気まずいという思いで一杯だったことを覚えている。しかし、新幹線に乗り話をしていると、何を心配していたのか不思議なくらい普通に会話ができ、いつも通り一緒に建築を見て回ったり食事を楽しんだりと満喫することができた。お互いそれだけ気持ちを持ってプロジェクトに取り組んでいたからこそぶつかり合えたのではないかと、今は自分の未熟さを棚に上げてそんなことを考えたりもする。
赤井さんには仕事はもちろんのこと、人として本当に色々なことを経験させてもらい、学ばせていただいた。仕事を通して出会った方で赤井さんほど一緒に様々な経験ができた人はいない。
ASKWATCH二号店の施工や福岡旅行の約束などこれからも公私ともに頼れる先輩として付き合っていただけると思っていた矢先の突然の出来事であった。
とても悲しい出来事であったが、色々な方からその名前を聞くたびに、いかに赤井さんが色々な方に頼られ尊敬されていたのかを改めて知る機会となった。そしてそんな赤井さんとお仕事ができたこと、お付き合いできたことをとても嬉しく感じると共にこの仕事を一生続けていきたいと強く思った。